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小説 3
ありがちな罠・2 (にょた)
 プールのコインロッカーは、男女共有みたいだった。奥に更衣室があって、そこで着替えてココに戻り、その後で荷物を置いて、プールに向かうらしい。
 ロッカーとロッカーの間にはベンチが置かれてて、結構な広さだ。
 子供なんかは更衣室行かねーで、ココで着替えたりしてる。更衣室が混んでるせいだろう。

 男は全部脱いで海パンをバッとはきゃいーけど、女は時間かかるよな。
 夏休みっつっても平日だからか、それ程混雑って感じでもねぇ。これなら、ロッカーの場所取りしなくても大丈夫だろう。
「三橋、じゃあ着替えて来いよ」
 オレは、向こうにある赤いのれんの入り口を指差して、それから三橋を振り向いた。
 そして、ギョッとした。

「なっ!」

 思わず大声を出し、慌てて口を押える。
 三橋が脱いでたからだ。重ね着してた白いキャミソール!
「三橋!」
 せめても目隠しになるように、慌てて両手を広げ、真ん前に立つ。
 
「う?」
 三橋は脱いだキャミソールからぷはっと顔を出し、キョトンと首をかしげてる。
 白い腹とへそが見えてる!
 一瞬ギョッとしたけど……小ぶりな胸を覆ってんのは、下着じゃなくて水着だった。
 パステルオレンジの、インナーじゃなくて水着だったのか。
 やれやれとホッとする。
 ホッとする、けど!

「お前……こんなとこで脱ぐなよ!」
 全く、無防備なコトこの上ねぇ。女だって自覚もねーのか?
「更衣室行って来い」
 声を潜めて言うと、不思議そうに「なんで?」って訊かれた。
 その手は、もうミニスカートのホックにかかってる!

「うえ、だ、だって水着、だ、よ?」
 不思議そうに首をかしげる三橋の仕草は、文句なく可愛い。無邪気で可愛い。
 その可愛い顔のまま、三橋が言った。
「ここで着替えてる人、もいる、よ?」
 けど――三橋の言う「着替えてる人」っつーのは、幼稚園児か小学校低学年くらいのガキどもだ。しかも、大体は男児だ。
 18歳女子のすることじゃねぇっつの。

「いーから、行け!」
 更衣室の入り口をビシッと指差してやると、三橋は不服そうにしながらも、のれんの奥に入ってった。
 ため息が出る。
 一瞬でもドキッとした自分が恥ずかしい。
 小学生かっつの、まったく。

 オレもその後更衣室で着替え、またロッカーの前に戻ったら、三橋は先に出てベンチに座ってた。
 空気の抜けた浮き輪を持ってる。
 近寄ると、オレを見てパアッと笑顔になった。
 ドキッとする。
 脳裏に一瞬、さっき見た白い腹とへそが浮かんだ。
「……行くか?」
 声を掛けると、さっと立ち上がってオレの方に駆けて来る。
 パステルオレンジの水着はフリルたっぷりのビキニで、短いパレオがついていた。

 ロッカールームから外に出ると、売店の横に空気入れがいっぱい並んでた。
 1つ借りて空気を入れてやり、それを小脇に抱えて手を差し出す。
 手ぶらの三橋は、一瞬キョトンとして……それから、じわっと赤くなった。
 差し出したオレの手に、小さな手が重ねられる。
 本日、手つなぎ2回目、だ。
 スゲー可愛い。

 オレらはそれから、一緒に流れるプールで流されたり、噴水の中を駆け抜けたり、でっかいバケツに溜まった水を、滝のように浴びたりして過ごした。
 据え付けの水鉄砲で水掛け合ったり、木陰で並んで涼んだりしてたオレらって、他人からどう見えんのかな?

 オープンテラスのレストランで昼メシを食った後、食休み代わりにスライダーの列に並んだ。
 2人用って書いてるからどんなのかと思ったら、2人用のゴムボートで。先に乗ったオレの脚の間に、三橋が座るような体勢だった。
 上にいる時は係員が側にいるし、マイクを通した大声で「男の子先に座って下さい。はい、足広げて……」みたいにカラッと言われるから、意識する間もなかったけど。
 なんか滑り終わって下に降りてから、密着の衝撃がじわじわと来た。

 三橋も同様だったみてーで、その後もっかい流れるプールに流されに行ったけど、ずっとオレの顔を見ずに黙ったままだった。
 まさか嫌がられたか?
 ちょっとドキッとしたけど、でも手を握ってやっても振り払われたりしなかったから、そういう訳じゃねーんだろう。
 ちらっと顔を見ると、なんとなく赤い。
 今「好きだ」って言ったら、どう応えてくれんのかな? それとも、やっぱ照れのねー時に言うべきか?
 迷ったけど何も言わねーで、結局そのまま午後を過ごした。


 事件は、その後に起きた。

 オレが三橋に「そろそろ出るか」つったのは、午後3時少し過ぎ。
 夕方5時から、遊園地の乗り物パスポートが半額になるから、多分その前から更衣室が混むだろう。だから、それより前にさっさと着替えて、のんびり過ごした方がイイ。
 ロッカーに戻って荷物を渡すと、今回は三橋も、さすがにまっすぐ更衣室に行った。

 温水シャワーをざっと浴びてから、手早く体を拭いて着替える。
 何も気にしねーで豪快に水着を脱ぎ、軽く拭いてから、さっさと下着をはく。
 ここまで5分だ。
 三橋はまだかかるだろう。
 ロッカー近くのベンチに座って、浮き輪の空気を抜きながら待つ。

 この後はのんびり散策したりソフトクリーム食ったり、土産物見たりしよう。
 そんで、5時からナイトパスポート買って、ジェットコースターにでも乗りまくろう。
 オレは、そう思ってた。
 そういうつもりだった。けど……できなかった。

「阿部君……」

 三橋が半泣きで、バスタオルを腰に巻いて、更衣室から出て来たからだ。
 白いキャミソールの下は、パステルオレンジの水着に代わって、水色のキャミソール。
 バスタオルの下には、クリームイエローのミニスカートで。その下は――。

「ぱんつ、忘れちゃった、ど、どうしよ、う?」

 こそっとそんなコトを告白されて。一瞬、意味が分からなかった。

(続く)

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