小説 3
天然部下とオレ・後編
セクシーショウは、一曲踊り終わった後、さらに過激な展開になった。
次の曲は、誰の選曲なんだか妙に色っぽい雰囲気で。三橋達スクール水着の一団は、社長のすぐ目の前にまで来てくねくねと踊り、そして二手に別れ、社員たちのすぐ後ろを踊りながら行進し始めた。
くねくねと、笑顔で。
間近で見てよく分かった。こいつら……三橋も、酔ってんな?
二手に別れる前に、社長がすくっと立ち上がった。手には……財布を持っている。
黒革の分厚い財布をポイッとオレに渡し、社長は言った。
「阿部君、おひねり」
おひねりって……つまり、中から札を抜けってことか?
こいつも酔ってんのか!
社長命令だと思って、仕方なく中から千円札を1枚抜いて手渡すと――社長は。側にいたスク水社員のスク水の中に、その札をねじ込んだ!
セクハラ? いやパワハラかっ?
てっきり手渡すのかと思ったのにそんな真似をされて、オレは真横でマジ焦った。
けど、された社員の方も酔っている。
三橋も……酔っている。
「う、うお、おひねり!」
って。
てめー、物欲しそうにするんじゃねぇ!
社長も社長だ。
「おお、おお、欲しいか? よしよし。阿部君、ほらこの子にも」
またそう言われ、手を出されたら出すしかねぇ。まあ幸いにも、三橋は女子用の水着だ。海パンの中に手ぇ突っ込まれるって訳でもねーし。
ムカついたから、わざと万札を手渡してやる。
すると酔っぱらい社長は、特に何も言わず受け取り……三橋の水着の、胸元に手を突っ込んだ!
「ちょっ」
オレは立ち上がりかけたけど、三橋の方は満面の笑みで「あ、ありがとござい、ます!」とか可愛い顔で礼を言ってる。
分かってんのか? 胸に手ぇ入れられたんだぞ、お前?
でも、オレの苛立ちなんか気にもしねーで、三橋は仲間と共に、くねくねと移動し始めた。
社長は社長で、目につくスク水に手当たり次第おひねりをやってる。勿論、オレは遠慮なく万札をばら撒いた。
ムカつく。
全然食えてねーし、飲めてねーし。
三橋は次々手招きされて、色んな奴らからおひねり貰ってるし。水着の中に手ぇ入れられて喜んでるし。
女どもに触られまくってるし!
笑顔だし!
オレの方をちらっとも見やしねーし!
ギリギリとマジ歯ぎしりしながら眺めてる内に、三橋の水着の腹の部分は、散々突っ込まれたおひねりで、でこぼこに膨らんだ。
スク水連中の中の、誰よりも貰ってんな。特に女から!
「三橋く〜ん、こっちおいで〜」
ほら、ああやって。
ああやって!
色っぽい音楽が鳴り終わると、三橋達スク水の若手社員は、盛大な拍手の中退場した。
オレは社長に財布を返し、真横にいた課長にそっと耳打ちした。
「すみません、腹痛ぇんで失礼します」
勿論、仮病だ。けどバレなかった。なんでか? 課長も酔ってるからだ!
目指すは三橋達の控室。
廊下に出れば、すぐに分かった。ヤローども数人の、ゲラゲラ笑いが聞こえてたからだ。どいつもこいつも酔っている。
オレは襖をスパーンと空けて、その控室に乗り込んだ。
「三橋ィ!」
大声で呼ぶと、全員が振り向いた。
けど、オレが用があんのは、部屋の真ん中できゃっきゃ笑いながら座り込んでる、オッチョコチョイでバカで天然のあいつだけだ。
集まる視線を全部無視してドスドスと部屋に踏み込み、ぐいっと三橋の腕を握る。
「来い!」
強引に立たせ、引き摺るように控室から連れ出すと、三橋は「ま、ま、待って」とか言いながらついて来た。
歩くたびに腹の小銭がちゃりちゃり鳴って、耳障りでムカつく。
誰だ、こんなたくさん小銭入れたのは? あー、訊かなくても分かってる、女どもだろう!
お前、相当人気あるんだっつの。何でそう無防備で無自覚なんだよ。
「ま、待って。お、オレ、水着、浴衣……」
情けねー声で呟く三橋は、当然だけど水着1枚の手ぶらだ。
浴衣はあの控室に置き忘れたか。
でも、それが何だ?
「いーんだよ! 浴衣なんかどうせいらねーんだから!」
三橋は分かってなさそうな顔で「ふえ?」と首をかしげてたけど、説明してやんのもウゼェ。強引に部屋に連れ込み、鍵をかける。
中間管理職用のツイン。
本来、他の一般社員と同様に、大部屋で雑魚寝だったハズの三橋を、わざわざツインに泊まれるようにしたのは、こういうことがしたかったからだ。
スク水の肩ひもをずらし、上半身を裸にする。
そしたら、おひねりに貰った小銭や札が、ジャリジャリひらひら床に落ちた。
「うひっ」
三橋が色気のねぇ声で、ビクついた。
「か、係長? 阿部さん? 怒って、る?」
って。ようやく気付いたかっつの。
「怒ってねーように見えんのか!?」
思わず大声で叫び、腹立ちまぎれに水着を乱暴に引き脱がす。残りの金が、また音を立てて床に落ちた。
酒と興奮とで、白い肌が赤く染まってる。
「てめぇ、オレとここで一緒に寝るより、大部屋の方で寝たがってたな?」
低い声で言ってやると、三橋は「ち、違う」とぶんぶん首を振った。
まあ、訊かねーでも分かってる。単にこいつの場合、大部屋に誘われたのが嬉しいってだけだろう。
天然でバカだ。分かってる。
分かってるけど、ムカつくっつの!
「う、ひゃ」
ベッドに押し倒すと、三橋は色気のねぇ悲鳴を上げた。
「ま、ま、ま、ま、待って」
必死に起き上がろうとするけど、ムダな抵抗だっつの。
「待つ訳ねーだろ!」
キッパリと宣言して、自分の浴衣を脱ぎ捨てる。
明日――のほほんと観光なんか、できねーようにしてやっかんな。
覚悟しろ!
(終)
[*前へ][次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!