小説 3
盛夏恋・8 (にょた・R18)
バスローブを着たまま後ろ向きに貫かれて、膝の上に乗せられた。
彼のが入ってると感じるだけで、もう全部がいっぱいで、力が抜けそうになるのに。隆也さんは私に「背筋伸ばして」と指示をした。
ふわっと体が浮き上がり、はしたない格好で持ち上げられて……少し移動したと思ったけれど。
「目を開けて」
そう言われて素直に従って、次の瞬間、息を呑んだ。
だって、鏡の前だった。
隆也さんはドレッサーのイスに座り、その上に私を座らせて、鏡を覗き込んでいる。
「やっ」
とてもこんな、彼と繋がってる時の自分の顔なんて、見ていられない。
両手で顔を覆い、うつむくと――濡れたままだった髪を、隆也さんが優しく撫でた。
「見ないんですか? 最中のあなたは、すごくキレイなのに」
私を深く貫いたままで、隆也さんが意地悪く言う。
けれど、首を振って応えないでいたら、もうそれ以上は言われなかった。
結ばれた場所が、くうっと締まる。
「ん……う」
彼は動いていないのに、背筋にびりびりと電流が走った。
どうしてこんな、鏡の前に?
ひどい、イジワル……と思ったけれど、すぐにそれだけじゃないと分かった。
ブォーという音とともに、温風がかけられたからだ。
あ、ドライヤー……。
私が髪を乾かさなかったから。じゃあ、風邪をひかないように? ドライヤーのために?
イジワルかと思ったのは、誤解だったのだろうか?
大きな手で後ろから丁寧に髪を乾かして貰う。かすかに触れる指のタッチも、温風も、とても優しくて気持ちいい。
隆也さんは優しい。
そう思って油断してたので――ふいに揺さぶられて、大きな声を上げてしまった。
「ああっ」
慌てて口元を抑える。
恥ずかしい。はしたない。口を抑えても、自分の出した声が耳に残る。
「もっと聞かせて」
なんて、嬉しそうに言われても、応えられない。
左腕を私の腰に絡め、右手ではドライヤーを扱って。隆也さんは器用に、ヒザの上の私を揺らした。
バランスが崩れて前のめりになる。
後ろ向きだから、隆也さんにもしがみつけなくて怖い。鏡を見たくないから、目を開けることもできない。
怖くて、でも体の奥に隆也さんがいて、揺らされて。
背をグイッと逸らすのも無理だけど、前のめりになるのも怖い。
「も、もういい、です」
私は目を閉じたまま、情けない声で言った。
ドライヤーを拒んで、ぶんっと首を振る。その拍子にぐらっと来て、思わずドレッサーに手を突いた。
「きゃっ」
とっさに目を開けると、目の前の鏡に映るのは自分で。
カーッと顔が赤くなるのを自覚しながら、私はギクシャクとうつむいた。
ほとんど乾いた髪が、ぱさりと顔に落ちる。
点けっぱなしだったドライヤーが消され、コトンとドレッサーの上に置かれた。
でも。
ああ、やめて貰えた、と――思うのは、ぬか喜びに過ぎなかった。
繋がったまま、床に足を下ろされる。
ぐりっと彼のモノが奥で動いて、「あっ」と小さく声が出る。
ドレッサーに手を突いた格好で。
背中をグイッと強く押され、腰を掴んで引き上げられる。
ウソ、まさかこのままで?
「やっ……」
私が首を振ったと同時に、ずっと大人しくしてた彼の大きな楔が、いきなり激しく動き出した。
「あっ、あっ」
背中を反らせても、衝撃が逃がせない。
不安定な体勢。不安定な場所。がくん、と突っぱねていた腕が折れる。
鏡が近くなる。
「見ないんですか?」
なんて言われたって、目を開けるのだけはどうしてもイヤ。
「やっ、いや、お、願いです」
目をギュッと閉じて、首を振り、私は彼にお願いをした。
「ベッド、で……」
ベッドで、抱いて欲しかった。
返事の代わりに、突然、私を貫いていたモノが抜かれた。
「ああっ」
がくんとヒザが崩れる。だって、抜かれるのも衝撃。
抱き起されて、キスされる。
力の入らない足を隆也さんが支えて、そして、バスローブが奪い去られた。
かすかな衣擦れの音。きっと隆也さんも、自分のバスローブを脱いでいる。
恐る恐る目を開けると、鏡越しに、裸の自分がぼんやりと見えた。
ハッとして、慌てて目を閉じる。
ダメ、見ていられない。恥ずかしい。
両手で顔を覆うと、そのままふわっと抱えられ、軽々ベッドに運ばれた。
私を仰向けに寝かせ、その上に覆いかぶさって、隆也さんが言った。
「ベッドで何ですか?」
足を取られ、はしたなく割られる。
さっきまで彼を受け入れた場所が、くぱっと湿ったようにはじけた。
熱い彼の肉が、じらすように入り口を撫でる。
「ん……っ」
声が漏れる。
でも、それ以上のおねだりは言えない。
「ベッドで……」
抱いて下さい? 愛して下さい? それとも……可愛がってください、かな?
口に出せなかったけど、もうイジワルはされなかった。ぐっとまた深く貫かれ、大好きな重みに包まれた。
はーっ、と息が漏れる。
まだ目が開けられない。
「ベッドがお好きなんですか?」
隆也さんが訊いた。
でも、突き上げられて、揺さぶられて、彼を感じるのに精一杯。
「はい」とも「いいえ」とも言えないで、私はただされるがまま、シーツの上を泳がされた。
「あっ、あ、ん、あ……」
必死で我慢してるのに、どうしてもかすかに漏れる声。
「廉」
彼が私を呼び、背中に手を回した。
ぎゅっと抱き締められる。私からも、彼の背に手を回す。
隆也さんの甘い息がふわりと香った。直後、柔らかな唇でキスされて――。
と、その時だった。
ゴンゴンゴン、と大きな靴音が、廊下の遠くから響いてきた。
足音だ、とすぐに分かった。
板張りの階段が脳裏に浮かぶ。
1人や2人じゃなくて、たくさんの人が、階段をこっちに上がって来る。
一瞬、動きをやめた隆也さんだったけど。
「……しー」
そう、静かに私に言って、また動きを再開させた。
もうわずかでも、声を漏らす訳にはいかなかった。
(続く)
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