小説 3
盛夏恋・7 (にょた・R15)
汗と海水とで、べとべとなのに。
隆也さんは私の首筋に顔を寄せ、そこにちゅうちょなく舌を這わせた。
水着を取られてあらわにされた胸を、そっとつままれる。
そこも……きっと、べとべとなのに。
もっときれいな私を見て欲しいのに。
「やっ」
ビクンと震えて視線を落とすと、谷間というにはかなり寂しいその場所に、荒い砂粒が貼り付いていた。
とっさに払おうと伸ばした手を、グイッと掴まれて封じられる。
代わりに隆也さんの頭が降りて来て。あっと思った時には、もう、そこに舌が伸ばされていた。
湿った感触。ざらりと砂が皮膚を這い、そしてそれが取れたのを知る。
私の眼下にある、彼の漆黒の頭。固い髪が胸を刺し、イヤでも意識してしまう。
顔が熱い。
「汚い、です、から」
もうそんなもの、そんなとこ、舐めないで欲しいのに。
「何がですか?」
砂を舐めた口元を、腕でこすりながら隆也さんが言った。
ニヤッと笑ってる。
もう、このままだと、今度はどこを舐められるか分からない。
「お風呂の後にして、くだ、さい」
私はそう言って隆也さんを振りほどき、できるだけ素早くバスルームに入った。
でも……閉じこもることはできなかった。
「じゃあ、風呂の後ならいいんですね?」
隆也さんが素早くバスルームの戸を押さえ、閉められなくして言ったからだ。
「早く終わるよう、手伝いますよ」
ここのバスタブは、阿部家の客間の各部屋にあるものの、2倍くらいの広さがあった。
隆也さんと2人でも、楽々に入れる。
それは、ここにこもって水着に着替えた時に、分かっていた。
分かっていたけれど、でも、本当に2人で入ることになるなんて、思いも寄らなかった。
「1人にして下さい」
そう言って抵抗したけど、まるっきりムダみたいで。隆也さんは強引に、お風呂の中について来た。
水着の下、スカートとビキニも脱がされる。
それくらい自分で脱げるし、脱ぎたかったけれど、あっさりと実力行使された。
アンダーショーツごと強引に下ろされた時、どこからかまた、大きな砂粒がぽろりと落ちた。バスルームの床に跳ねた音も大きくて、それがもうビクッとするほど恥ずかしかった。
「どこにそんな砂が入ってたのか、もう残ってないか、ちゃんと調べないと」
って――腰に触れられ、耳を舐められながら言われて、恥ずかしくて、感じて、顔が赤くなる。
もう、本当に意地悪だ。
でも、そんなたちの悪い冗談の後は、いつものように優しかった。
日焼けした肌にも痛くないように、ぬるま湯のシャワーで。
「上から洗うのが合理的ですよ」
なんて隆也さんは言って、シャンプーをよく泡立てて、私の頭を丁寧に優しく洗ってくれた。
そうやって大きな手で、頭を洗って貰えたのは気持ち良かったけど。
でも、背中はともかく、胸やお腹まで洗ってくれる必要はないと思う。
同じくボディソープを手のひらでよく泡立てて、彼は私の体を隅々まで洗った。スポンジも何も使わずに。
勿論、素知らぬふりして私の色々敏感な部分に、イタズラするのも忘れなかった。
胸先を手のひらで、撫でるように洗われた時には、思わず「あっ」と声が出た。
「洗ってるだけでしょう?」
って、隆也さんは言ってたけど、絶対わざとやってると思う。
べとべとだった肌は、お陰でさっぱりしたけれど。その代わり、真っ直ぐ立っていられないくらい、喘がされてフラフラにされてしまった。
「歩けますか?」
隆也さんは昼間と同じようなセリフを言って、私にバスローブを着せてくれた。
「は、い」
ぼんやりと返事して、よろめきながら浴室を出る。
部屋に戻ると、エアコンで空気が程よく冷えていて、とても気持ち良かった。
隆也さんは、これから自分の体を洗うらしい。
なら、10分か15分はかかるだろうか?
備え付けの冷蔵庫から、ミネラルウォーターを1本取り出し、コップに移してごくごく飲む。
芯から体を火照らされたせいで、髪を乾かす元気もなくて。新しい下着もはかないで、ベッドに腰掛けてミネラルウォーターを飲んでいたら、カチャッとバスルームの戸が開いたので、びっくりした。
うそ、5分も経ってない。
「え、あ、の……」
コップを持ったままで立ち上がって慌てていたら、出て来た隆也さんと目が合った。
褐色のバスローブを羽織ってる。
隆也さんは私の方まで黙って近寄り、濡れたままの頭を見て、呆れたように笑った。
「風邪ひきますよ」
真っ黒な目に優しく見つめられ、コップを持ったままで固まる。
すると彼は、私の手からそっとコップを取り上げて、トンと軽く肩を押し、再びベッドに座らせた。
あっと思った時には、キスされていた。
小鳥がついばむような、優しいキス。
でも本当は彼が猛禽のように獰猛なこと、私は知っている。
体の内からも外からも、むさぼられてしまう。
いつも。
男の人って少し怖い。
怖いけど……でも、求められる事が、泣ける程幸せ。
大好き。
キスが深くなる。力強く抱き寄せられる。
膝立ちにされ、バスローブのすそを割られた。
あっ下着――と思った時には少し遅くて、温かな手のひらが、イタズラに私の太ももを撫で上げた。
今きっと気付いただろう、バスロープの下に何もないこと。
「可愛いおねだりの仕方ですね」
耳元で、低く囁かれた。
「ちっ……」
違います、と言いたいのに言えない。唇を塞がれて、もう言わせて貰えない。
「んっ」
キスの最中、脚の間に長い指を差し挟まれた。
明確な意図を持って、じわじわと動く数本の指。
シャワーの間に施された準備が、簡単に私の体を濡らしてしまう。
はしたないって思っても、もうどうにもならなくて。私は彼の思うままに、あっけなく体を開かされた。
(続く)
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