小説 3
盛夏恋・6 (にょた・R15くらい?)
キスされて目を閉じると、もう訳が分からなくなった。
穏やかな波に揺られる。
体が浮く。
彼に縋りつくしかないのに、隆也さんの唇が、舌が、指が、私の腕から力を奪う。
太陽の下。海の中。
誰に見られるかも分からないような、こんな無防備な場所なのに。
水着の上から割れ目を辿っていた指が、水着の中に差し入れられた。
「やっ……」
声を上げてしがみつく。怖い。
「何もしませんよ」
隆也さんが、笑みを含んだ声で言った。
してるじゃないですか、なんて言葉が喉の奥まで出掛かるのに、口を開いたらまず喘ぎ声が漏れそうで、恥ずかしくて首を振るしかできない。
その間にも、整った長い指が、私の体を熱くしていく。
「んんんっ」
声を殺そうと、縋りついた目の前の肩に口接ける。
「そのまま」
彼が低い声で言った。
そのまま、自分の肩に吸い付いていろ、と。噛んでも痕を付けてもいいから、と。でも――。
でも、私にはもう、何も聞こえていなかった。
どのくらい放心していただろう。
隆也さんが私に軽くキスをして、「立てそうですか?」と優しく訊いた。
「もう少し、浅いところに移動しましょう」
はい、とうなずくと、彼は私の腰を支えたままで、ゆっくりと砂浜の方に動き始めた。
彼の胸元まであった水位が、ゆっくりと下がって行く。
そしてやがて、足に砂が触れた。
ここの砂は荒い。踏みしめればほんの少し足裏が痛くて、ぼうっとしていた私の頭から、白い靄を飛ばしてくれた。
水位は、ちょうど私の胸が隠れるくらい。
「この辺で大丈夫ですか?」
優しく訊かれ、「はい」と笑顔で彼を見上げかけて……ドキンとした。
目の前に、彼の裸の胸がある。
きれいな筋肉の付いた、たくましい上半身。すべらかな肌、胸筋、そして少し色の濃い乳首――。
海なら、水着なら当たり前のことだ。意識する方がおかしい。
でも、恥ずかしくて直視できなくて、私はぎこちなく顔を逸らした。
すると、それをまるで見透かしたように。
「水着、可愛いですよ」
隆也さんが、耳元で言った。
「脱ぐの、手伝わせて下さいね」
って。
カッと頬が熱くなる。隆也さんが、ははは、と快活に笑った。
絶対、色々ワザとだと思う。
「いや、です」
私は赤い顔を彼から背け、精一杯つんと逸らして、波をかき分け、浜に戻った。
後ろでは隆也さんが、ずっと機嫌よく笑っていた。
夕飯は水着に何かを羽織ったまま、浜で皆でバーベキューをした。それが終わったら、今度は大量の手持ち花火。
私はまたお姉さん達に囲まれて世話を焼かれた。
三橋ちゃん、と呼ばれるのにも慣れて来た。
生来の人見知りのせいで、愛想よくまではできなくて。「大人しいね」と言われたけれど、これは仕方ないと思う。
皆、シュンさんの大学のお友達なんだそうだ。サークルでご一緒なのだとか。
彼らを見てると、共学の大学って楽しそうだな、と思う。
私は中高と女子高で過ごして。きっと、このまま女子大にエスカレーターで進学するだろう。
けれどそれだと、隆也さん以外の男の人と接する事って滅多にない。
女子大のお友達でも、こんな風に集まってバーベキューしたりするのだろうか? 花火は?
……隆也さんも、大学時代はこんな風に……私の知らない誰かと、ここでこうして過ごしたのだろうか?
花火の後は宴会模様になったので、後片付けを皆さんに任せて、私と隆也さんは部屋に戻った。
「まずは風呂に入りましょう」
隆也さんがそう言って、ユニットバスにお湯を入れてくれた。
別荘の中庭には温泉もあるんだそうだけど、海水温泉なんだそうで、汗を流すのには適さない。
バーベキューや花火のニオイが髪についてて、それはイヤな匂いではなかったけど、でもなんだか落ち着かなかったから、早く落としてしまいたかった。
「疲れましたか?」
ユニットバスから出て来て、隆也さんが言った。
昼間着せ掛けてくれた、あの白いパーカーを羽織っている。
私が「いいえ」と首を振ると、そのパーカーを無造作に脱ぎ捨て、また水着姿1枚になって、そして私を抱き締めた。
「では何かまた、考え事でも?」
あやすように優しく問われて、じわっと胸が熱くなる。
隆也さんは大人だ。
きっと、私がまたぐるぐる考えてるの、分かってる。大人だ。
訊かないでくれるのも、それもきっと大人だから。
彼が私の肩に触れた。
水着のワンピースを脱がされる。すると、ビキニがあらわになって。
なんだか下着姿より、恥ずかしくて。
「ひ、1人で脱げ、ます」
私は慌てて胸を覆い、バスルームに逃げ込もうとした。
でも、できなかった。
腕を取られ、引き寄せられ、無理矢理バンザイさせられて。
「……きれいだ」
たたえるように言われ、胸に手を伸ばされれば、もう、抵抗できなかった。
水着が、ひどくゆっくりと剥ぎ取られた。
(続く)
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