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小説 3
事件です、若旦那・8 (後半少しだけR18)
 小一時間程してから、若旦那が帰って来た。
 三橋はメイド服のまま、若旦那と自分の部屋で、主人の帰りを待っていた。
 刃物相手に、やはり、まるっきり無傷という訳にはいかなかったらしい。若旦那の頬に切り傷を見つけ、三橋は息を呑んだ。
「手当、しないと」
 慌てて部屋を出ようとする三橋を、若旦那が腕を掴んで引き止めた。
「行くな!」
 そのままぐいっと引っ張り、抱き締める。
「どこにも行くな」

 若旦那の着物は、夜風を含んで冷たかった。外の匂いのする胸に、三橋は、ことんと額を預けた。
「いつもどこか、行っちゃう、のは、若旦那で、しょー」
 小さく笑うと、若旦那は少し腕を緩め、三橋の目の前にビー玉をかざした。
「これ、お前だろ」
 三橋は返事をしなかった。
 どんなつもりで問いただそうとするのか、測りかねた。
 首を突っ込むな、と言われていながらお節介をしたのを、怒られるのだろうか。
 少なくとも、感謝してる風ではない、と……それだけは分かった。

 でも、心配だったのだ。
 危ない目にあってないか、確かめずにはいられなかった。
 だって、表向きはメイドでも……三橋的には、ボディーガードのつもりだったから。
 黙ったままの三橋に、若旦那は「分かってねーだろ」と断じた。

「お前は分かってねーだろう、オレがどんな不安だったか!」
 若旦那が強い口調で言った。
「ビー玉はあるのにお前がいなくて! どこ探しても隠れてなくて! もういねーんじゃねーかって。どんなに不安だったか!」

 なんだ、と三橋は思った。
 先に帰ったのが悪かったのか、と。
 けれどあの時、のこのこと顔を出してたら、それはそれで怒られたのではなかろうか。
「どこにも行く訳ないです、よー。ここしか行く宛てないって、知ってるくせ、に」
 安心させようとそう言ったのに、何故か若旦那は、吐き出すように「くそっ」と言った。そして三橋の肩を抱いたまま、強引に姿見の前に連れて行った。

「よく見ろ! これがメイドの顔か!」

 鏡に映るのは、可憐なメイド。けれどその瞳は冷たく光り、闇の方を向いている。
 捨てたハズの、プロの顔。
 お尋ね者の、殺し屋の顔に戻っていた。

「お前はもう、メイドだろ。オレのメイドだ。殺し屋じゃねぇ。もう闇の人間じゃねーんだよ!」

 若旦那は三橋を、鏡に強く押し付けた。
 そのまま後ろから、スカートの中に手を入れる。パニエの固いレース生地を分け入り、奥に隠れたドロワーズを掴んで引き降ろす。
 三橋は抵抗しなかった。代わりに息を詰めた。
 むき出しにされた敏感なところに、固いレースが触れて、ビクンとした。
 鏡越しに後ろをうかがうが、若旦那の顔は見れなかった。
 口に指を含まされ、目を閉じる。

 何をされるのか、勿論分かっていた。
 何を彼が思っているのかも、もう分かりかけていた。
 
 性急にほぐされた後腔に、若旦那が押し入った。
 三橋の口から悲鳴が漏れた。
 いつもなら、いやらしい程丁寧に、その体を可愛がるのに。丁寧さも、優しさも、感じられなかった。ただ激しかった。
 ガクガクと揺さぶるその乱暴さに、三橋は鏡に取り縋って、高く啼いた。
「よく、見ろ」
 腰を打ちつけながら、若旦那が言った。
「オレに、突っ込まれて、喘いでる、メイドを、見ろ」
 三橋が閉じていた目を開くと、若旦那は後ろからその体をぐいっと支え、取り縋っていた鏡から離した。
 そうして、三橋が自分の顔を、鏡に映したのを見て。
「コレが、今のお前だ!」
 と言った。

 この夜、丸一晩かけて。
 若旦那は三橋に、自分がメイドである事を……体をもって、教え込んだ。

(続く)

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