小説 3
ギャップ・5 (完結)
レンは相変わらず、ビミョーにエロい格好だった。
黒の上等そうなスラックスの上に、鮮やかな青のシャツ。ボタンを2つ外して、キレイな鎖骨を覗かせてる。
その曲線に沿うように、銀のチェーンが肌を這ってて、何つーかエロい。
「またデザート?」
オレはそう訊きながら、弁当がまだ半分くらい入ったままのコンテナを、よっと持ち上げた。
そうしたら、次に1番上に来んのは、プリンやシュークリームなんかのデザートだ。
これなら並べなくても、商品、上から見れるだろう。
もしかしたら、もう1個下の段にも入ってっかも知んねーけど、どうせ選ぶのに20分かかるんだろうし。弁当詰め終わんのなんて、すぐだ。
レンはっつーと、まだデザートコーナーの前に突っ立ち、キョドキョド視線を揺らしてる。
「デザートどうぞ」
アゴで指して促しても、口をパクパクさせたまま動かねぇ。
まあ……逃げられるよりいーけど。
弁当の棚んとこにコンテナの端をちょっと置き、ヒザで落ちねーよう支えながら、残りの弁当を詰めて行く。
ハンバーグ弁当6個、焼肉弁当6個……定位置を確認し、間違いのねーよう並べながら、それでも視界の隅っこでレンの行動気にしてる。
今、この手ぇ離せねぇ時に、あいつがさっさと買うモン選んで、レジに持ってったりしねーかって――そう思うと、ドキドキする。
我慢できねーでちらっと見ると、鮮やかな青のシルエットが目に入り、「ああ、いる」って分かって安心した。
弁当を全部並べ終わり、空になったコンテナを邪魔になんねー場所において、オレはまたレンに目を向けた。
さっさとコンテナ覗けばいいのに、まだこっち見て、ぼうっと突っ立ってる。
「ほら、こっち来いよ」
声かけてやったら、レンはおずおずと近付き、コンテナの中を覗き込んだ。手招きしてコンテナの脇にしゃがむと、レンも真似して横にしゃがむ。
やっぱちょっとは、オレのコト気にしてる? 頬とか赤くなってっけど。目尻も赤いの、反則的にエロい。
そのシャツの開け方もエロいよな。襟をガッと掴んで広げて、もっと肌の奥を覗きたくなる。
首を這う銀鎖の先には、銀と革の飾り。間近で見れば、財布にあったのと同じマークが入ってた。
なのに、顔はやっぱ童顔で。
ヒゲの剃り跡だって見当たんねー。手入れしてんのかな、きれいな肌。
デカい目に、デザートとオレとを交互に映して、オレの隣にしゃがみ込む様子は、なんかエロいっつーより可愛くて……誘われる。
そっと顔を寄せ、ちゅっと軽く唇を奪うと、レンはデカい目でオレを見て、それからボンッと真っ赤になった。
口を片手で押さえて立ち上がり、そのまま後ろ向きに数歩バックして、尻餅をつく。
「はははっ」
そんな逃げなくていーだろっつの。
笑って手を差し出すと、真っ赤な顔がオレを見上げた。
おずおず差し出された手を、グイッと握って立たせてやったら、なんか指先まで真っ赤になってて、熱いくらいだった。
「な、な、な、な……」
レンが口を開いた。どもってる。
オレはバイト中だし。笑ってばっかもいらんねーから、デザートのコンテナ抱えて、弁当と同じように並べて行った。
焼きプリン5個、濃厚プリン5個、ミルクプリン5個……この間買ってた、イチゴプリンもある。イチゴムースに、トチオトメのシュークリームも。
並べながら、「何?」って訊いたら、レンがどもりながら言った。
「なん、で?」
なんでキスしたかって?
「そりゃ――あんたが誘ったから」
「さっ!」
レンは素っ頓狂な声を上げて、それから両手で口を覆った。
「さ、さ、さ、誘ってない、です」
しばらくの絶句の後、消え入りそうな声で言われて、ぶはっと笑う。
デザートのコンテナを全部空にして、「デザートどうぞ」って言ってやっても、レンはずっと、オレの方を見たままだった。
今、手を伸ばせば、届くとこにいる。
でも、まだ足りねぇ。もっと触れてぇ。もっと喋りてぇ。もっと色んな顔が見てぇ。
モデルと読者じゃなくて。
店員と客じゃなくて。
紙面じゃなくて、店頭じゃなくて、もっと違う場所で、2人で。
「なあ、今度さ、外で会わねぇ?」
レンはそれには答えなかったけど――。
並べたばかりのフルーツワッフルを1個掴み、真っ赤な顔でオレに言った。
「また明日、ね、阿部君っ」
「……はあっ!?」
何でオレの名前?
レジに駆けてく姿を呆然と見送って、胸の名札にハッと気付く。
くそ、顔熱い。
「ありが、とう」
会計を済ませたレンが、やっぱりまだちょっと赤い顔で、オレの方をちらっと見た。
その挑戦的な目つき、それ、マジ誘ってんだろ。エロいっつの。
やられた。
「ありがとうございましたー」
オレらのやり取りなんか、まったく気付いてない風で、店長がひょうひょうとレンに声をかけた。
「……っしたー」
ぼそっと声を重ねて、足早に去ってくあいつを見送る。背筋を伸ばして、大股で、やっぱ歩くだけでも目立ってる。
自動ドアが、ガーッと閉まった。
「阿部君、品出し終わった?」
「わ、もうちょっとっス」
店長に言われて慌てて作業に戻りながら、オレは、棚の陰でこっそり首を振って、笑った。
明日のバイトが、楽しみだった。
(完)
※50万打御礼、ギャップU に続きます。
※EDEN様:リクエストありがとうございました。「仕事の時はエロ格好よくて、プライベートはエロ可愛い」、そんな「モデル三橋」になってましたでしょうか? この2人、同い年かなーという自己設定です。もしかしたら、三橋の方が年上かも知れません。作中に出てくる、EとAの間にイーグルのエンブレム、ご存知かもですが、アルマーニになります。ロゴはシンプルに1個だけなのがイイかと。また、細かなご希望があれば修正しますので、お知らせください。
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