小説 3
遺跡・2
その街の建物は、パッと見て分かるくらい、建築様式が違ってた。何つーか、装飾的?
ゴテゴテ飾られてると思ってた王城も、ここのと比べると、外観は随分シンプルだ。
遺跡なのか。
そういや、ニシウ・ラーの学校で習ったっけ。大河の流域には大昔から文明が栄えてたって。そういう場所では、崩れた古い町の上に町が建てられてるもんだって。
何千年も前の文明だと、日干しレンガ使ってたりするから、洪水のたびに崩れてたらしいけど、この街は石と漆喰でできてる。
そうすると、そんな古い遺跡じゃねーのかも?
よく見りゃ、崩れてると思ったのは、大量の泥土が積もってたせいみてーだ。
「土をどかせりゃ、キレイになりそうじゃねー?」
タジマは能天気に言ってるが、誰がどうやってドコに土を運んでくのかなんて、こいつは絶対に考えてねぇ。
「遊び場にゃいいかも知んねーけど、住むのはムリだろ、ここ?」
ため息交じりにそう言うと、無邪気な声で「なんで?」と返された。
「なんで、じゃねーだろ」
土をどかすだけで、年間計画だろっつの。大体みんな、そんな作業するほど暇じゃねーだろ?
オレ達が喋ってる間に、ガキどもは探検ごっこ始めてるし。
けど間もなく、あちこちに散ってた連中が、悲鳴を上げながら戻って来た。
「どうした!?」
さすがにタジマも真顔になって、古い町の奥を睨んだ。
理由はすぐに分かった。コウモリの集団が、真っ黒なカタマリになって、オレ達の方に飛んで来たんだ。
足元には、同様にネズミの大群が押し寄せてる。
「ぎゃーっ」
「わーっ」
ガキどもはパニックで、地上に戻る石階段を駆け上がってくヤツもいた。
「ははっ」
そりゃ怖ぇーよな。コウモリにネズミだもんな。
オレは苦笑して、廉の肩を抱き、一緒に少し前に出た。すると、騒がしかったネズミもコウモリも、一斉にしんと静まった。
廉が右手を上げて、動物たちの挨拶に応える。
廉は竜だ。全ての動物たちの王。
オレ達は行く先々で、こうした動物たちの歓迎を受ける。廉に頭を下げねーのは、ニンゲンだけだ。
オレが左手を一閃すると、ネズミもコウモリも、あっという間に散って行った。
「先住民がいるみてーだな」
皮肉っぽく言って、振り返る。
タジマは前に見て知ってるけど、初めて見たガキも多い。みんながどんな反応すんのか、しっかり見ておきたかった。
けど――。
「すっげーっ!」
タジマじゃない誰かが叫んで、意外にも、オレと廉はガキどもの歓声を受けた。
「かっけーっ!」
「どうやったの?」
「オレもできる?」
うわっと囲まれて、戸惑いの目をタジマに向けたら、当然だろ、みたいな顔で笑われた。
そうしたら、もうこっちも苦笑するしかできねぇ。
畏怖されて嬉しい訳じゃねーし、オレの廉がスゲーのは事実だし。スゲーのはスゲーとして、ありのままに受け止めて貰えんなら、それ以上のことはねーと思う。
ネズミたちが去ったので、ガキどももまた散らばった。
ふと見ると、タジマも一緒になって走って行く。
「掃除はどうすんだよ?」
呆れて声を掛けたら、「お前らも楽しめよー」と言われた。
返事になってねーし。
けど、この積もった泥土を掃除し始めるより、割り切って遊んでた方が、よっぽど前向きかも知れねぇ。住処やアジトって言うより、やっぱ遊び場だろうしな。
「あんま奥行くなよ! 沼地になってるらしいぞ!」
さっき動物たちから聞いた情報を伝えると、「分かったー」という、能天気な返事が遠くから聞こえた。
まあ、大河を風呂代わりにしてる連中だから、沼だろうが湖だろうが、平気なんだろうけど。
立ったままで街並みを見てたら、くいっと腕を引かれた。
「隆也も、行く?」
廉が、オレの顔を覗き込んでる。
「お前が行きてーんだろ?」
訊きながら苦笑する。廉はいつでも無邪気だけど、こんなワクワクしてんのは珍しい。
手を引いてゆっくり歩き出すと、廉が嬉しそうにふひっと笑った。
「オレ、隆也といっぱい散歩、したい」
「あー」
そういや前もそんなこと言ってたな。アジト作りは遠慮したいが、廉と散歩なら喜んで歩こう。
洞の天井を見上げる。
遺跡は人工の物だけど、この空間は自然の物だ。自然の理が生きている。
石の基礎と柱と、わずかな壁だけが残された家々。
漆喰のひんやりした手触り。ドアや調度は木製だったのか、朽ちて何も残っていねぇ。
建物の中にも、泥が積もってる。
考えてみりゃ、水面より低い場所にこんな空間があるなんて、スゲー不思議だ。
不思議だけど、キレイだった。
歩いてる内に、腹が減って来た。
一応表向き、外出禁止ってコトになってるから、昼メシは城で食わなきゃならねぇ。
「悪ぃ、一旦帰るわ!」
大声で言ったら、何でか上の方から、タジマの声が聞こえた。
「分かった―!」
声のした方をよく見ると、遺跡の屋根の上で、手を振ってるヤツらがいる。勿論、タジマもその中の1人だ。
どうやって登ったんだ、あいつら。ホント、存分に楽しんでるみてーだな。
「また来るだろー?」
大声で訊かれて、「多分な」と応えながら、オレは廉の手を引いて地上に戻った。
薄暗いとこにいたせいか、太陽がスゲー眩しく感じた。
(続く)
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