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小説 3
遺跡・1 (祥洋王番外編) 秋唯様へ
※この話は、小説2の「祥洋王」(連載休止中)の番外編です。

三橋:祥洋王・三橋・廉。竜。普段はヒト型、空を飛ぶ時は竜身。海で生まれたが、海に限らず空・陸、全ての動物たちに敬われる存在。阿部に名を貰って孵化し、成体になったばかり。

阿部:黒晶五星・阿部・隆也。大河の国トーダ・キタの第5王子。身分制の無いニシウ・ラーで生まれ育ち、母亡き後は仲間とともに、スリで生計を立てていた。成人式(16歳)のために一時帰国。竜と契約して竜主となったため、普通の人間ではなくなった。

田島:タジマ。トーダ・キタの城下町の貧民窟に住む少年。城下町を縄張りにするスリのリーダー。阿部・三橋の正体を知った後も、恐れずに友達として接する。
※漢字名は貴族しか持たない世界のため、「タジマ」表記です。一緒に行動する時、2人の事も同じく漢字名ではなく、「タカヤ」「レン」と呼んでいます。

本編を読んでいなくても、楽しめるお話にしたいとは思いますが、何か説明不足のところがありましたら、説明させて頂きますのでおっしゃって下さい。


   ◇◆◇◆◇◆

「みんなで食いモン持ち寄ろーぜ」
 なんて突然言い出したのは、城下町のスリのリーダー、タジマだった。
 食いモン持ち寄って何すんのかと訊いたら、「アジト作んだ」と言う。
 前に、ニシウ・ラーのオレの家がスリのアジトだっつったの覚えてて、密かにうらやましがってたみてーだった。
 アジトっつーか……オレ自身が孤児になった時、元から孤児だった連中に助けて貰って、そんでそのまま孤児ばっか集まって、一緒に住んでるってーだけなんだけどな。
 まあ、オレもスリだし仲間もスリだし、スリじゃねー奴だってスリで稼いだ金って分かってて生活してんだから、ゲンミツにスリのアジトだ。

 それにしても「アジトを作る」って……何するつもりだ? ツリーハウスの建築か? 廃墟の改装か?
 正直面倒だったし遠慮したかったけど、廉が目をキラッキラさせて行きたそうにしてたから、仕方なく同行することにする。
 あくまで同行であって参加じゃねぇ、ってのは、ハッキリ主張してーところだ。
 特にタジマ。
 こいつは、オレが自分の国の王子だって知ってても、敬うどころか平気で肉体労働させようとする、豪気なヤツだ。
 別に、敬語なんか使って欲しくねーし、頭下げられても嬉しくねーし、普通にして欲しーから、むしろ構わねぇんだけどさ。

 けど、問題は食いモンだ。
 親父からは「部屋から出歩くな」つって言われてて、実は外出禁止中のような身だ。
 廉は空を飛べるから、窓がありゃ出入り自由だから実際には困らねーけど。ただ、弁当なんかは期待できねぇ。
 王子が城下町でスリやんのもどうかと思うと、下手に稼ぐこともできねーし。それに、タジマに「ショバ荒らしはしねーよ」つって約束したしな。
 所持金はあるにはあるけど、大事に取っときたかったから、買い食いなんかに使いたくなかった。

 仕方なく用意したのは、朝メシの残りの果物だ。
 一応王城で出たヤツだし、そう悪い品でもねーと思うけど……。

「悪ぃな、こんなモンしか持ち出せねぇで」

 腹の足しになりそうにねーよな、と苦笑しながら梨を放ると、受け取ったタジマも、見てたガキどもも、「うわーっ」と歓声を上げたんでびっくりした。
 そんな喜んで貰えると思ってなかった。だってやっぱ、腹の足しになんねーし。
 けど、どうも、美味いからって喜ばれてる訳じゃなかったようだ。
「ちょっと行って来る!」
 タジマの仲間が数人、そう言って果物全部持って、どっか行っちまったんだ。

「どこ行くって?」
 タジマに訊いたら、ニカッと笑って「まあ気にすんな」って言われた。
 誰かにやんのか? 女とか? それとも、貢ぎモンに使うとか?
 まあ、この街の事情なんかにゃ詳しくねーし、そう言うなら「あ、そー」つって応えるしかねーけど。 
「よーし、オレらはオレらで、先行こーぜ!」
「おーっ」
 タジマの号令に、ガキどもが一斉に拳を挙げる。まったく、いつ見ても大した統率力だ。

 感心して見てたら、廉がオレに寄り添い、抱き付いて来た。
「どうした?」
 伝わる――高揚感。顔を覗き込むと、ふひっと笑う。機嫌いいらしい。
 正直まだメンドクセーなと思ってたけど、廉がこんな機嫌いいなら付き合ってやるか、と苦笑した。


 タジマ達の後をついて歩いて行くと、何でか堤防沿いの貧民窟に着いた。
 てっきり、郊外とか町はずれの方に行くんだと思ってたからびっくりした。そりゃあタジマの家の近くだし、スリのアジトにゃぴったりの場所かも知れねーけど……。
 きょろり、と視線を巡らせる。
 相変わらず、堤防に沿ってぎっしりと、小屋だかバラックだかが、重なるように乱立してる。
 狭い路地は大河の水面より低い場所に位置してて、やっぱそのせいかジメッとしてた。

 前に、大河の氾濫なんかは大丈夫なのか、タジマに訊いたことがある。だって、こんな堤防の真横で水面より低い土地なんて、怖くねぇ?
 でも、タジマはそん時、「洪水なんて滅多にねーよ」って笑ってた。
 なんつーか……色々たくましいよな、と思う。
 大河が風呂代わりだっつーし。そのくせ、その水を平気で飲んでるし。便所がどうなってんのかは怖くて訊いてねーけど、し尿汚染とか、気にするようなガラでもねーか。
 同じ庶民でも、先進国のニシウ・ラーとこことじゃ、やっぱたくましさが違うみてーだった。

 タジマの家を通り過ぎ、ジメッとした路地をさらに行くと、バラックとバラックの狭い隙間に、ボロッボロの石階段があった。
 階段は、ずっと地下に続いてる。
 けど……堤防の石壁に潰されて、入り口がとんでもなく狭い。
 堤防よりもっと前に町があったって事か?
 堤防がまずあって、そこに人が住み着いたと思ってたから、ちょっと意外だった。

 タジマや廉はともかく、オレが入れるのか不安だったけど、何とか狭い隙間を通って、一緒に階段を下りられた。
 そこは、思ったより広くて明るかった。
 上が、きっちりした街の造りじゃねーからだろうか、あっちこっちに隙間があって、光が漏れている。
 オレも廉も夜目が利くけど、魚臭ぇランプを点けるまでもなく、タジマらにも周りの様子は見えただろう。
「スゲー……」
 思わずそう言うと、タジマが自慢げに「だろっ?」と笑った。
 目の前に、崩れた街が広がってた。

(続く)

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