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小説 3
誘惑のタキシード・後編  (R18)
 どうか、今だけ起きないで。
 祈るように、目を閉じる。
 そしてオレは、阿部君の唇に、唇、を――。

 かすめるように一瞬、キスして、それからそっと目を開ける。
 阿部君は目を閉じたままで、ピクリとも動かない。
 やっぱり、深く寝てるんだ。
 オレはちょっとほっとして、だから今度は、もうちょっと長く、強く、唇を押し付けた。
 阿部君の唇は、ふにっと柔らかくて、ちょっと湿っていた。
 苦しいくらい嬉しかったけど、でも罪悪感で死にそうだった。

 ゆっくり3つ数えて、オレはようやく体を起こした。いや、起こそうとした。
 でも、できなかった。突然ガシッと拘束されて、身動き取れなくさせられた。

「うひっ!」

 悲鳴が漏れる。
 その悲鳴ごと、湿った何かに奪われる。
「ん、んーっ」
 何が何だかわからなくて、叫ぼうとした口の隙間からぬるりと何かが入って来て、息もできなかった。
 起き上がろうとしたけど、がっしり抱き込まれてて、首も動かせない。
 いきなり体がグルンと回って、阿部君と位置が入れ替わる。強く、ソファに押し付けられて、そしてようやく唇が離れた。

「人の寝こみ襲うとは、いい度胸だな、三橋」

「お、おっ……」
 襲ってなんか、と言いかけて口ごもる。襲ったことになる、のか、阿部君の寝てる間に。
 阿部君はオレに覆いかぶさり、ニヤッと笑った。
「何でオレに、あんなことしたんだ? 言ってみろ」
 言ってみろ、って言ったくせに、阿部君はまたオレの唇を唇で塞いで、舌を入れて掻き回した。
 突然のことで、訳が分からなかった。
 え、え、阿部君、起きてたの? いつから?
 
 告白なんてするつもりなかった。だって、ムリだと思ってた。
 でも、一度だけ、って思ってたキスが何度も貰えて。幸せで死にそう。もうどうなってもいい。言ってしまいたい。
「お、オレ……」
 長いキスの後、上ずった声で言うと、阿部君が促すように、首筋に口接けた。
 びびびっと電気が走ったみたいになって、それに押し出されるように、ずっと言えなかった言葉が出た。

「オレ、阿部君が好き、だ。好き、です」

「上出来」
 阿部君は、ニイッと笑みを浮かべて、またオレにキスをくれた。
 ねじ込まれた舌がぐりぐりと動き、絡み合い、阿部君の唾液とオレの唾液と、混ざり合って、ぐちゅぐちゅ音を立てる。
 阿部君の吐息も、舌も、唾液も、何もかも甘くて。飲んでも呑んでもぐちゅぐちゅと溢れて、気持ち良くて、眩暈がする。

 これが阿部君のキスなんだ。そう思ったら、さっきまで嫉妬で黒かったオレの頭が、今度は独占欲で、真っ赤になった。
 こんなキス、他の誰ともして欲しくない。
 オレだけのものにしたい!
「あべく、阿部君!」
 オレは阿部君の背に縋りつき、叫ぶように言った。

「オレ、だけ、のものになって!」

 そしたら阿部君は。
「了解」
 そう短く言って、タキシードの上着を脱ぎ捨てた。

「お前も脱げ」
 阿部君がオレから少しどいて、命令した。
「女どもの化粧のニオイする。気持ちワリィ」
 オレはギョッとして、白の上着を脱いだ。カマーバンドを外して、プリーツシャツも脱いで上半身裸になる。
 よく見ると、ファンデーションらしいのが、肩や胸にいっぱい付いてた。
 こんなの、いつ付いたのかな? お姫様抱っこした時かな?
 じゃあ、阿部君のにも付いてるんじゃないの? そう思ったら、カッとした。

「あ、阿部君も脱いで。服、脱いで!」

 オレに言われるまま、阿部君もネクタイとバンドを外し、プリーツシャツを脱いでくれた。
 裸のたくましい胸に、ドキンとして顔が赤くなる。
 再びオレをソファの上に押し倒すと、阿部君は、オレの胸を丁寧にまさぐった。
 乳首を軽くつままれる。阿部君が顔を寄せ、片方の胸に吸い付いた。舐められ、甘噛みされ、舌でなぶられてぞくぞくする。もう片方は指先でいじくられ、つままれてきつく押しつぶされた。
「んあっ」
 思わず声を上げると、阿部君がくすくす笑いながら、「気持ちいー?」って訊いた。

「勃ってんぞ」
 オレに知らしめるように、阿部君がそこをゆっくりと撫でた。
「さ、わらな、いで」
 いやいやと首を振るのに、阿部君はオレのスラックスの前を開いて、昂ぶってしまったモノを掴み出した。
「やあっ」
 恥ずかしくて、もう赤面どころじゃない。頭に血が上り過ぎて、くらくらする。
「オレのこと好きなんだろ?」
 阿部君はそう言って、オレの陰茎をこすり上げながら、オレに噛みつくようなキスをした。肉厚の舌がオレの口中を掻き回し、太い指が亀頭を撫で回す。

 ぐちゅぐちゅと頭に響く音は、上から? 下から? どっちが気持ちいいのか、どこをどうされてるのか、もう気持ち良さで脳が冒され、先に見える果てしか見えない。
「んん、んんーっんんーっ」
 塞がれた口から悲鳴を漏らし、オレは阿部君の手にイカされて、自分のお腹から胸までを汚した。
 味わったことのない快感に、びくびくと震えが治まらない。

 けど、出したことで頭の方はクリアになって、焦りと申し訳なさでいっぱいになった。
 絶え絶えに息をしながら、オレは肘をついて少し起き上がり、目の前の阿部君を見上げた。
「こ、こ、今度は阿部君、も」
 震える手で、阿部君のスラックスの前をくつろげる。そしたら阿部君のも、固く張り詰めててスゴかった。
 けど、舐めようとうやうやしく持ち上げたのに、「オレはいいよ」って、スッと退かれた。
「で、でも……」
 オレだけじゃ申し訳ないよ。そう言うと、阿部君はニヤッと笑って。
「オレはこっちでさして」
 と――オレのお尻を、ぎゅっと掴んだ。

 勿論オレは、うなずいた。
 だって、試されてると思ったんだ。ホントにオレが、阿部君のコト好きなのかどうか。
 それに。
 正直、ここまで望んでた訳じゃなかったけど……でも。これで。阿部君をオレのものにできる。どの女の子よりも、オレを選んで貰える。阿部君がオレのものになる。


「好きだ、三橋」
 阿部君が、オレの中をゆっくり穿ちながら言った。
「お前が、ここまで堕ちて来んの、ずっと待ってたんだぜ」
 オレは、阿部君の言葉をうわの空で聞いていた。
 痛みと、充足感と、そして体内にゆっくり入って来る大きいモノのことで頭がいっぱいだった。
「お前が撮影中、オレの隣の女達に嫉妬してたの、知ってたよ」

「ああんっ」

 奥まで入ったのが分かった。それがズルッと引き抜かれ、また奥を突かれる。
「ああっ」
 悲鳴を上げるオレを、ゆっくりと攻めながら、阿部君が言った。
「オレだって、妬いてたんだぜ。知ってたか?」
 オレはぶんぶんと首を振った。
「あっ、んはっ」
 痛い。でも気持ちいい。阿部君をオレ、飲み込んでる。飲み込んでる。阿部君、オレのものになっている。

「もうこんなバイト、受けんなよ?」

 オレがうなずくと、阿部君は「イイ子だ」と機嫌よく笑って……少しずつ、強く、早く動き出した。
「あ、あ、あ、あ、あ」
 声が漏れる。
 閉じられない口からは、もう、言葉にならない喘ぎしか出ない。
 痛い。気持ちぃ。嬉しい。幸せ。

 オレを貫いて、揺さぶって、好き勝手に動いて、オレの中、もう阿部君だらけにして。
 阿部君のことしか考えられなくなってるオレに、知らしめるように阿部君が言った。
「誰にも渡さねぇ。お前は、オレのだ」

 オレは勿論、うなずいた。
 ソファがギシギシと軋んでいた。

  (終)

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あきゅろす。
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