小説 3
誘惑・前編(Side M) (高3・お初・画策中)
付き合ってそろそろ2年になるのに、まだえっちをした事がない。
触りっこや舐めっこはするのに、その先がない。
これが女の子相手なら、まだちょっと分かるんだ。結婚するまで処女でいて欲しい、とか、そんな勝手な願望が、男の中にはあったりもするから。
でも、オレ、男だし。
ただ、一応ね、オレだって我慢しなきゃいけないとか思ってたんだよ。3年の夏が終わるまでは、って!
オレ達西浦高校野球部は、甲子園優勝を目標に掲げ、365日、24時間、全てを野球に注ぎ込むことを誓った。
もう2年前の事だ。
阿部君と付き合い始めたのもこの頃だったから、オレ達の関係も、野球を邪魔するものにはならなかった。
むしろ、バッテリー間の絆をますます深めたし、オレも少しずつ、言いたい事言えるようになったし。ピンチの時でも、阿部君がいるって思えたら、安心できたし。うん、イイコト尽くめだったと思う。
そのお陰もあってか、オレ達、最後の夏の甲子園で優勝できた。
それでね、もうそろそろだって、思ってるんだけど。えっちするの。
ずっと以前に「いいよ」って誘った時、阿部君はオレをギュッと抱き締めて言ったんだ。
「あんがとな、三橋。でも無理だ。お前に負担かけちまう。もしそれで野球に支障ができたら、絶対後悔する! そんなのオレがイヤなんだ、分かってくれ!」
それがあまりに真剣で、苦しそうだったから……阿部君はオレの為に、無理して我慢してくれてるんだなって。そう思って、すごく幸せだったんだ。
でも、もう夏は終わったし。
野球部は引退して、後は、なまらない程度に自主練する程度で、試合で投げたりはしない訳だし。
もう、慎重になる必要、ないんじゃないか?
引退式の後、いつものように、阿部君が家まで送ってくれた。
いつものようにチュッと軽いキスをして、いつものように「またな」と言って、阿部君が家に帰ろうとした。
オレは阿部君のシャツを掴んで、「待って」と呼び止めた。
「阿部君、あの、さ。今日オレ、親、いない………」
もじもじと言うと、阿部君が、はっと息を呑んだ。多分伝わったと思う、オレが誘ってるの。
けど阿部君は、ちょっと視線をさまよわせ、作り笑いを浮かべて言った。
「そうか、じゃ、一人でもちゃんとメシ食って、風呂入って寝るんだぞ。明日、遅刻すんなよ!」
もう朝練ない、よ……?
オレが反論するより早く、阿部君は走って帰ってった。
逃げた。そう思った。
その次に誘ったのは、夏休みの最後の日。
宿題をやっつけた後、お茶飲みながら、ちょっとひっついて。キスしてるうちに、阿部君もオレも勃っちゃったから、いつものように触りっこしたんだ。
その時、オレ、また言ってみた。
「阿部君……ねぇ、えっちしよ?」
けど阿部君は、オレに「まず口でして」って言った。
勿論、イヤじゃなかったから、オレ一生懸命ご奉仕した。阿部君はオレの口の中で達して……それから、すっごく満足げな顔をした。
「オレ、今日はこれでもう充分だ。後は、お前のをしてやるよ」
誤魔化されてる。そう思った。
さすがにちょっと、落ち込んだ。
阿部君、メーワクなのかな? オレとえっちとかしたくないのかな? やっぱ、男同士はイヤなのかな? オレが思ってる程、阿部君は、オレの事好きじゃないのかな?
一人で考えていたら涙が出てきたので、田島君に電話した。
田島君はスゴイ。オレの顔見ただけで、落ち込んでるって分かっちゃうんだ。
そして、さらにスゴイのは……誘導尋問がうまいってこと!
オレ、何か色々訊かれて、バカ正直に答えてるうちに、阿部君のこと喋っちゃった! ああ、阿部君、絶対誰にも内緒って言ってたのに。
けど、一応隠したつもりでも、何か、隠せてなかったみたい。親密な感じがするんだって、オレ達。
「阿部はなー、ヘタレなんだよなー」
田島君が言った。
「ああいう奴は、逃げ道塞いで、強引に押しまくらねーと、肝据わんねーぞ」
逃げ道塞ぐって………どうするんだろう?
どっかに閉じ込めるって事かな?
「まず、準備バンタン整える事がカンジンだ!」
田島君がニヤーッと笑った。
うんうん、田島君はやっぱり、頼りになるなぁ。
オレ達は二人して、近くのドンキに自転車で向かった。二人だと、買い物するのも楽しかった。
(続く)
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