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小説 3
偽りの戦果・後編 (完結)
 オレは刀を地面に放った。
 脇差も抜いて、足元に落とした。
「阿、部君?」
 三橋が刀を構えたままで、呆然と呟く。
 はは。理解できねーか、三橋?
「やなんだよ。オレ、お前と戦うつもりねーから」
 オレは精一杯、優しく微笑みながら、両手を上に挙げた。
 カチャリ。三橋が太刀を握りなおす。
 まだ泣いてる。

「瑠璃姫も、叶も、オレはどうだっていい。生きようが死のうが、関係ねぇ。オレが欲しいのはお前だけだ」

 ぐう、と三橋の喉が鳴った。
「オ、レは、もう……裏切り者、だよ」
「じゃあ、オレを殺して逃げるか?」
 三橋は首を振った。
 だよな、そんなで逃げ切れる程、榛名は甘くねーもんな。
「なあ、オレの嫁になれよ」
 三橋はまた首を振った。お、それはちょっとショックだ。
 でも、悪くねぇ思い付きだと思うけどな。

「お前、瑠璃姫として嫁になれ」
 どうせ、囮として死ぬつもりだったんなら。
 なあ、三橋。
「裏切り者の三橋廉は、阿部隆也が成敗する。オレはその功をもって、瑠璃姫を戦果に願い出よう」
 言いながら、そっと三橋に近付いた。
 カチャリ。三橋がまた太刀を、握りなおした。

 切るんなら、別にそれでもいいけどさ。
 お前に殺されんなら、いいけどさ。
 でも、生きてーよ。ホントは、お前とずっと。
 なあ、生きて一緒に暮らそうぜ、三橋。

「うまくいきっこないよ」
「いくさ」
 三橋はまた首を振った。全く、相変わらず強情だ。
 でも、太刀の切っ先が震えてる。構えが下に下がってる。体が逃げている。
 心が揺れてんだろ。そんなじゃ誰も切れねーだろ。
 オレは刀を持ったままの、三橋の右手にそっと触れた。三橋の全身がビクンと震えて、そしてカチャンと太刀が落ちた。
「あ、……阿部君っ、お、オレっ!」
「もう何も言うな」
 オレは三橋を抱き締めた。強く。
 二年振りに取り戻した恋人は、前より少し背が伸びて、そして相変わらず細かった。



 三橋を成敗した、と報告した時、主上はちょっと眉をしかめた。
「ふーん、お前が廉を?」
 一応証拠として、三橋が囮用に来てた着物と、特徴のある茶髪をひと房、献上した。
 けど、やっぱ不自然だったろうか? オレ達の関係、バレてただろうし。オレがあいつを殺す訳ねぇって、思われてなきゃいいんだが。
 しかし幸い、それ以上追求される事も無く、瑠璃姫も下げ渡して貰える事になった。
 すんなりいって安心したが、退出する直前、榛名がこう言った。

「茶髪の姫によろしくな」

 オレは意味が分からなくて、「ははっ」と、ただ礼をした。
 けど、城に帰ってその話をしたら、三橋は驚き、青ざめ、そして泣きながら笑った。

 瑠璃姫が黒髪だという事を、三橋の口から聞いたのは、それからすぐ後のことだった。

  (完)

サクヤ様、リクエストありがとうございました。
でも「敵同士のお家に産まれた二人の恋」になって……なってない、ですか? 申し訳ありません。ご希望があれば、書き直します。

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