小説 3
メダリオン・7
人魚の反応に、逆に驚いた。
「知ってたんか?」
思わずきつい口調で問いただすと、人魚は一つうなずき、その後首を横に振った。
「どっちだよ!」
「理由、は、知らない、けど。こ、ここで、人が殺されるの、何度か見た、から」
殺される。その言い方にちょっと引っ掛かったけど、感情の前に消えた。
そうだ、こいつは海の生き物だ。
海神の仲間だ。
オレを生餌にしようとしてる化け物の、仲間なんだ。
なのに。
「あ、のさ……」
人魚がバカなことを訊いてきた。
「何で、死ななきゃならない、の?」
「はあっ!?」
大声で問い返すと、人魚はびくんと飛び上がり、海中に逃げた。
上半身だけを海面に出し、更に言う。
「ごめ、お、オレ、分かんなくて。意味、とか」
意味って。
分かんねーって。何だ、それ?
「生贄だよ!」
吐き捨てるように言ってやると、人魚は「そ、そうか」と相槌を打った。けど、すぐに首をかしげて、不思議そうに問う。
「う、え……生贄て、何、の?」
カッとした。
あまりの言葉の通じなさにイラッとした。
「海神の生贄だよ! 毎年一人食わせねーと、海を澱ませて、病気撒き散らすっつって! お前らの神がそう言ってんだ! オレは生餌なんだよ!」
大声で怒鳴りつけたら、人魚はまた怯えたように、オレから少し距離を取った。
そして、首を何度も横に振った。
「な、な、ない」
何だ? 何が言いたい?
ない、って何だ?
「そ、それ、海神、じゃない」
「じゃあ、海神を名乗ってる化け物か何かだろ? デカイのがここに来るんだろ? お前、見たって言ったじゃねーか!?」
「み、み、み……」
人魚はぱくぱくと口を開け、けど言葉にならねーようで、また首を横に振った。
「はっきり喋れ!」
オレの大声に、人魚はぽちゃんと一瞬水に潜り、また少し離れて顔を出した。
ホントに臆病な生き物だ。
弱虫で、悲しい。
卑怯だ。
「そうやって、隠れて、人が死ぬとこ見てたのか? 助けもしねーで、何人見殺しにした?」
人魚がひゅっと息を呑んだ。
図星だ。
くそ。
そんな顔、させてー訳じゃねーのに。
感情の制御ができねぇ。
止まらねぇ。
「オレも見殺しにすんのかよ? いいさ、オレはそれでもいい! お前はそうやって、オレが死ぬとこ隠れて見てろ!」
目の前がぼやけて、人魚がどんな顔でオレを見てるのか、見てねーのか、分かんなかった。
ぐいっと拳で涙をぬぐう。
情けねー。
言い過ぎたと思って謝ろうとしたら、その前に人魚が叫んだ。
「見、殺し、しな、いっ!」
そして、ぽちゃんと姿を消した。
謝れなかった。
(続く)
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