[携帯モード] [URL送信]

小説 3
束縛的修学旅行1日目 (バカップル・高2・水谷視点)
 修学旅行1日目にして、オレは三橋がスゲー束縛するタイプなんだって、初めて知った。

 三橋ってのは、わが西浦高校野球部の初代エースだ。
 まあ、どんなスポーツでもエースっていうのはモテるもんだと思うけど、三橋も勿論、女の子に人気がある。
 呼び出された、告白された、なんて噂もちらほら聞いてる。でも、それを全部断ってるのも、オレ達野球部員は皆知ってる。
 理由も知ってる。
 実はココだけの話、三橋にはラブラブの恋人がいるんだ。
 でも、仲間以外には絶対秘密。だって……三橋の恋人・阿部は、三橋とバッテリー組んでるキャッチャーだから。

 で、オレは今その阿部と、幸か不幸か同じクラスで、一緒に行動してる訳なんだけどさ。
 ……あ、まただ。
 オレはため息をついて、阿部を見た。
 ヴーン、ヴーン、ヴーン……。
 バイブ音と共に、阿部の胸ポケットに入れたケータイが、チカチカ光り出す。阿部はそれをパカッと開いて、ちらっと確認して、また閉じる。

 そしたらまた10分後に、阿部のケータイがチカチカ光るんだ。
 ヴーン、ヴーン、ヴーン。
 チカチカ。
 そして、パカッと開いて、パタンと閉じる。

 ヴーン、チカチカ、パカッ、パタン。

 さっきから、もう何度もそれを繰り返してるんだ。ちょっと異常だよ。
「また三橋ぃ?」
 オレがイヤそうに訊くと、阿部はニコッとも笑わないで、「あー」とだけ応えた。
「今度は何て?」
「『誰と一緒?』って」
「返事しなくていいの?」
 すると、阿部が唇を歪めてニヤーッと笑った。

 うわっ、黒っ!
 阿部の笑顔、今、すごい黒かった!
 でも、思っても言わないけどね。うん、下手なこと言うと、「クソレ」とか「コメ」とか、やな感じのあだ名を連呼されるし。
 全く、三橋もさー、結構女の子にモテてんのにさ。何で、こんな黒い男を、束縛したいくらい好きなんだろうね?


 今年の修学旅行では、広島に着いた後、クラスごとに行程が変わる事になった。
 ちなみにオレ達のクラスは、まず原爆ドームから平和公園を抜けて、原爆資料館見学。その後、宮島に移動してお昼ご飯を食べて、観光してから広島市内で一泊だ。
 三橋のクラスの行程がどうなのかは知らないけど……でも、そんな心配しなくたって、平和公園か宮島かなんだからさ。10分おきにメールする必要はないと思うんだよね。

 三橋のメールをことごとく無視してた阿部だったけど、宮島に移動する直前、初めて返信してた。
「三橋に?」
 オレが聞くと、「まあな」と阿部が素っ気無く応えた。
 素っ気無いフリしてても、「これから移動するよ」とか、ちゃんと居場所は教えてあげるなんて。うーん、意外と優しいとこあるんだねー。
 オレだったら、そんなメール攻撃されたら……あー、でもやっぱり、ラブラブの恋人だったら、許しちゃうかなー?


 夜。広島のホテルの大広間で夕飯を食べて、そのあとまたクラスごとに時間差で、入浴。
 一応、部屋にもユニットバスが付いてたけど、やっぱり修学旅行って言ったら、大浴場だよね。
 イマドキ覗けるハズないって知ってんだけどさ、やっぱ女湯と入り口が近いと、ほんわかするなぁ。

 部屋でジャージに着替えてから、替えの下着とタオルや何かを持って、廊下を歩く。
 と、向こうから、田島と泉がやって来た。オレ達より早い時間の入浴だったのかな、二人とも髪が濡れてる。
「あ、おーい」
 オレが手を振ると同時に、二人が駆け寄って来た。
 けど、オレの事はまるで無視して、怖い顔で阿部に文句を言った。

「おい、てめぇ、三橋を束縛すんのもいい加減にしろよ!?」

 二人の言葉に、オレはびっくりした。
 だって、束縛してたのって、三橋だよね? あんな10分おきにメールして、「今どこ?」とか、「誰と一緒?」とか訊いたりしてさ。
 なのに、阿部はそれにイヤな顔もしないで、ちゃんと居場所とか教えて上げてたじゃん。ちょっと責めるのは、気の毒な気がするよ。
 だからオレ、泉と田島に、そう言ってやろうとしたんだ。
「え、あのさ?」
 そしたら、3人同時に言われた。

「うるさい、クソレ、黙ってろ!」

「ひどっ」
 泉や田島はともかく、阿部まで! オレね、一応お前のこと庇ってあげようとしたんだけどね?
 もういいよ、って黙ってたら、泉が言った。
「あんなんじゃ三橋、大浴場行けねーじゃねーか!」
 え? あんなん? 大浴場? どしたの?
 不思議に思ってると、阿部がニヤッと笑った。

「いーんだよ、あいつは三日間、ユニットバスで」

 うわ、黒! 阿部、その笑顔、黒いよ!
「オレ以外の奴に、あいつの裸なんか見させねーっての。大体あいつ、あれに文句なんか言ってなかっただろ?」
「お前が言えなくしたんだろ!」
 泉はまだ怒ってたけど、阿部はひらひら後ろ手を振って、大浴場に向かってった。

 おーい、オレのこと、忘れてるみたいですけどー?

 オレは阿部の後を追うか、一瞬迷った。けど、やっぱ気になって仕方ないから、泉と田島に訊いたんだ。三橋がどうかしたの? って。
 だって、修学旅行っていったら、皆でわいわい大浴場じゃない?
 それに入れないなんて、うん、可哀想だよね?
 そしたら、「自分の目で見た方が早ぇ」って、三橋の待つ部屋に連れて行かれた。


 丁度、お風呂上りだったみたいで、三橋は涼しい格好をしてた。
 その三橋の胸元を見て、オレは言葉も無かったよ。
「うわ………」
 うん、これはヒドイ。
 ヒドイよ、阿部ぇ。

 色白の三橋の鎖骨から下、無数のキスマークが付いてんの! もう、まだらだよ、まだら模様!
「病的だろ?」
「キメーよな?」
 泉と田島の言葉に、もうオレはうなずくしかない。
 そしたら、真っ赤な顔で三橋が首を振った。

「い、いいんだ、よ。オレ、愛されてるって感じ、して嬉し、い。阿、部君は、オレの体、好きにしてくれていい、んだ」

 そんな健気なセリフを言った後、三橋は握り締めてたケータイを、パカッと開けた。
「あ、阿部君、今、何してるかな?」
 昼間は病的だと思った、三橋のメール攻撃だけど。何でかな、今、目の前で見てたら、すっごい健気なふうに見えちゃうの。
 阿部が黒くて、三橋が白いからかな?

 いや、じゃなくて。三橋が無意識なのに、阿部のほうが確信犯だから!?

「三橋、可哀想に!」
 オレ、心の中で誓ったよ。
 明日は岡山で後楽園だけどさ。阿部に、ちゃんとメール返すように言ってあげる!
 蹴られても、「クソレ」とか言われても、言ってあげちゃうから!

 うん、オレに任せてね!

  (終)

※パギオ様:フリリクのご参加、ありがとうございました。「束縛系バカップル、互いに束縛して喜ぶ病んだ感じ」ですが、少し軽めにさせて頂きました。もう一つ、暗めの病みシリアスも考えていたんですが、暗すぎて「バカップル」にならなくて。もっと病んでた方がよろしければ、そちらも書かせて頂きますので、おっしゃって下さい。

[次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!