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小説 3
仇花・3 (R18)
 3畳ほどの狭い座敷に入ると、三橋がロウソクの火で、手紙を燃やしていた。火のついた手紙を文箱に投げ入れ、オレの顔を仰ぎ見る。
 パシン、と音を立てて障子を閉めると、三橋の肩がビクンと揺れた。
「誰の手紙だ?」
 オレはズカズカと部屋に入り込み、布団の上にあぐらをかいた。三橋が目を逸らした。
「分かりんせん」
「分かんねぇって事ぁねーだろ」
「読んでおりんせん」
 ふふ、とオレは低く笑った。三橋が答えなくたって、どうせ泉からの手紙に違いない。侘びの言葉か、愛の言葉か、どっちかは知らねーが、気にする事はねぇ。勝ったのはオレだ。

 オレの贈った振袖を着て、オレの贈った帯を巻き、オレの贈った簪を挿して、三橋はオレの前にいる。

「旦那様」
 三橋が、震える声で言った。
「お食事は?」
「いらねー」
「お酒は………?」
「いらねー」
 オレは三橋の細い手首を掴み、ぐいっとこっちに引き寄せた。
「あっ」
 三橋は小さく悲鳴を上げて、オレの胸に倒れ込んだ。振袖越しに肩を抱くと、細かく震えてんのが分かる。緊張してんのか、手が冷てぇ。

 初夜の相手が、泉からオレに替わったの、こいつはいつ知らされたんだろう。泉相手なら、こんな緊張しねーで、笑って迎え入れたんかな。
 オレは唇を歪めて、三橋に訊いた。
「オレに抱かれんのがイヤなんか?」
 三橋はオレの胸に顔を寄せ、小さくしがみつき、首を横に振った。そして、消え入れそうな声で言った。

「怖い………」

 それはオレが怖いのか。それとも、これからやる行為、そのものが怖いのか。……泉を裏切るのが怖いのか。
「怖くねーよ」
 オレは三橋のあごを捉え、上を向かせた。恐る恐る合わされる視線。薄茶色の瞳に、微笑むオレが映ってる。ゆっくり顔を近づけ、唇を軽く合わせる。
「オレはいつも優しかったろ?」
 囁いて、もう一度口接ける。今度は深く。柔らかな唇を割り、舌を捻じり込めば、応えるように口が開く。
 深く長い口接けの後、白い喉に唇を寄せれば、三橋が小さく甘くうめいた。


 自分にも同じモンがついてるくせに、オレの勃起してんのを見て、三橋が頬を染めて目を逸らす。
 布団の上に突き飛ばし、襦袢のすそを割って大きく捲くってやれば、白い太ももが現れる。ひざを抱えて脚を開かせれば、その奥にあるのは、女ではないというしるし。けど、そんなものを見せられたって、興奮は収まらなかった。
 オレのものにしたい。
 征服したい。
 無茶苦茶に啼かせたい。
 黒い感情に支配され、自然、呼吸が荒くなった。

 ついさっきまで張り形を埋めていた場所は、とうに柔らかくほぐれていた。けれどそれでも、張り形より幾回りも大きなオレのモノは、ぐぐっと押し込むのに抵抗を受けた。
「あ、あ、ああっ」
 三橋もギュッと目を閉じ、悲鳴を上げた。両手が、何かを求めて空を掻く。奥まで突っ込んでから身を寄せれば、伸ばされた両手がオレの背を掴んだ。
「旦那様っ」
 上擦った声で、三橋が呼ぶ。
 体を合わせる相手のことを、花街ではそう呼ぶことになっている。
 オレも今日から三橋の旦那だ。最初の旦那で、その内、数いる旦那の一人になる。
「旦、那さ、まぁっ、ああっ」
 揺さぶられるままに、三橋が啼いてオレを呼ぶ。
「旦那、さまぁ」
「あ、だ、んなっさま」
 隆也様、とはもう呼ばねぇ。少なくとも、情事の最中は。理性を保っていられねぇ時は。

 だって、いつ間違って、「孝介様」って呼んじまうか、分かんねーだろ?

「目を、開けろ」
 激しく腰を打ち据えながら、オレは三橋に命令した。
「誰に、抱かれ、てっか、よく、見とけ」
 三橋は涙をこぼしながら、オレの顔を見た。夢見るように、どこか焦点の定まらない目で。
「お前を、抱いてんのは、誰だ?」
 オレにガクガク揺すられながら、三橋は小さく口を開けた。そこからはもう、「あ」とか「ん」とか、微かに漏れる声しか出ねぇ。
「お前を、こんなふうに、喋れなく、してんのは、誰だ?」
「お前の、男は、誰だ?」
 命じられたまま、三橋がぼんやりとオレを見る。貫かれ、翻弄されながら、三橋が小さく呟いた。

「隆也、さま」

「……はっ」
 ふいにゾクゾクと快感が来て、オレは三橋の中に精を散らした。
 呼ばれねぇと思ってた名前を、不意打ちで呼ばれて、迂闊にも焦っちまった。
「三橋っ」
 繋がったままで口接けると、三橋はぼんやりとオレを見つめ、もう一度言った。
「隆也様………」
 そしてオレの頬にそっと手を当て、幸せそうに微笑んだ。

「お慕いしておりんす」



 男娼の囁く恋なんか、元より信じるもんじゃねぇ。
 例えこれが初めての夜だとしても、こいつは未来の花魁候補。英才教育を受けた、高級品だ。男を虜にする術を、幾つも叩き込まれてる。

 だからオレだって、割り切って愛を囁く。
「お前が好きだ、三橋」
 後ろから、前から、何度も貫き、啼かせながら。オレは三橋に、愛を告げた。
「オレだけを見ろ、三橋」
「この先誰に抱かれても」
「いつもオレの事を考えろ」


「愛してる」

(続く)

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あきゅろす。
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