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武術大会始まる
 ドンドンジャンジャンと鳴り物が鳴り、プァープァーとラッパがメロディを奏でる。
 大衆に開かれた見世物じゃねーけど、会場をぐるりと貴族や騎士たちが取り囲んでるから、それなりに賑やかな大会だ。
 音楽と共に入場してきた選手たちが、会場にずらりと整列する。それを壇上から眺めながら、見守んのがオレの今日
の仕事だった。
 大会の名目は、第1回武術大会だ。国内から腕自慢の者が広く集められ、戦い合って強さを競う。
 上位3名には褒賞が用意され、戦いぶりが目に留まれば騎士団への登用も有り得る。ついでに兵士・騎士の人材不足も解消できるかも知れねぇっつー、一石二鳥の大会だ。
 主催は王家、っつーかオレだけど、提案したのは騎士団長。精霊界では実力主義だっつー話を聞いて、「是非うちでも」って議題に上がった。

 地方の守備隊から無理矢理引き抜く訳じゃねーし、無理なく腕自慢を集められるっつー点で、確かにいい案ではあったと思う。
 王都の人材は王都でっつー意見も出たけど、会場まで自費で来るっつったらそんだけでもハンデだし、その分王都の連中には有利だろう。
 準備期間が短くて、とても一般開放には間に合わなかったけど、もしうまくいけば定期開催にしてもイイ。
 騎士の増員は急務だし、これをきっかけに有能な人材が集まりゃいいなと思った。
 まあ、会場の警備やら何やらで逆に仕事を増やしちまった感はあったけど、誰よりも騎士団長が乗り気なんだから、騎士らには諦めて貰いてぇ。
 いつもは急に手に入れた肩書に振り回され、居心地悪そうにしてたのに。こんな生き生きした顔見るのは初めてで、ビックリした。開催前のスピーチもすげー気合入ってて、剣を頭上に掲げて大声で選手を鼓舞してる。
 集まった力自慢の連中も、騎士団長のゲキに煽られ拳を振り上げて叫んでて、その暑苦しさにドン引きになった。
 城壁の中に響く、野太い叫び。普段、洗練された護衛騎士ばっか見てるから、集まった連中の粗野な部分がどうしても目立つ。
 別に護衛に上品さなんか求めてねーけど、ゴリラやクマばっかに囲まれてぇとは思えねぇ。

 散々盛り上がった雄叫びの後、「陛下からお言葉を」って向けられて、オレに何が言えるだろう? 「正々堂々、力を尽くせ」の一言で終わりでいいんじゃねーだろうか。
 後ろに控えてたフミキには「短っ」ってぼそっと言われたけど、宰相からは特にダメ出しをくらわなかったし、まあいいって事だろう。
 どうせオレの言葉なんか、誰も有難がってねぇ。つーか多分、聞いてもいねぇ。どいつもこいつも試合前の高揚感に浸ってて、ギラギラと周りを見回してる。ムサイ。やべぇ。
 オレの隣で無邪気に「すごい、すごい」って喜んでるレンだけが癒しだ。
「素性の分からぬ者を城内には……」
「周辺国のスパイが入り込むかも知れませんぞ……」
 反対派の大臣らがぼそぼそとぼやくのを、「大丈夫らしーぞ」と軽くあしらい、隣のレンに目を向ける。
 レンによると、嘘をつくと1発で分かる秘薬があるらしい。それを飲ませたうえでオレに忠誠を誓わせりゃいい、って。

「これ、と、これと……いっぱい選べる」
 にへにへ笑いながら、赤とか青とか紫とか黄色とか、色とりどりの小瓶をずらずら並べてたのは不思議だけど、まあその辺は食い意地の張ったコイツのことだし、味の違いとかそういう感じなんだろう。
 今だって、武術大会を前にして「屋台、あるといい、ねー」なんて呟いてるし。相変わらず自由で、相変わらず無邪気だ。
「もし屋台があったって、ここに座ってなきゃいけねーし。フラフラ買いに行けねーぞ」
 ニヤッと笑いながら教えてやると、分かりやすくガーンとショックを受けた顔してて、単純で可愛いなぁと思った。
「うう……串焼き……」
 涙目でぼそぼそ駄々を捏ねるレンに、くくっと笑える。
 王城に住んで王と一緒に寝泊まりして、国内最高の贅沢なメシを3食食ってるっつーのに。庶民向けの串焼きを欲しがるって、欲がねぇのか欲に忠実なのか、この場合はどっちだろう?

 串焼きくらい、命じればいくらでも作って持って来てくれるだろうけど、それじゃ多分意味がねぇ。
 レンが欲しいのは街歩きしながら立ち食いするような屋台のチープな串焼きであって、王城で作られて皿に盛りつけられるモンじゃねぇ。オレが食いてぇのもソレじゃねぇ。
 だったら、オレからレンに告げる言葉は1つしかなかった。
「今度また買いに行こーぜ」
 ぼそりと囁きかけ、「うんっ」ってうなずく様子を眺める。
 目の前の会場では、既に男たちの熱くてむさ苦しい試合が始まってたけど、それよりもレンの無邪気な笑顔の方が、オレにとっては楽しみだった。

   (今、行く? 行っちゃダメ?)

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あきゅろす。
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