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騎士の人手不足には
 今日も城のデカいベッドで、レンの温もりに癒されながら目を覚ます。
 森の小屋の狭いベッドで寝るか、城のこのデカいベッドで寝るかは大体、晩メシをどこで食うかにも寄る感じだ。
 森のレンの小屋でレンの豪快かつ素朴で安全な手料理を食った後は、大体あの星空の下での露天風呂に行こうってなるし。そしたらそのままレンの小屋に転移して、一緒にぎゅうぎゅうで寝ることになる。
 森でレンの手料理を食うのは、城でのメシが諸事情により遅れた時なんかが多いだろうか。
 諸事情っつーのは、まあ要するに毒とか異物とかが仕込まれた時だ。
 全部が回収され、毒の有無を調べられ、混入経路を調べ尽くして安全が確認されるまで、オレのメシはお預けになっちまう。
 勿論、全部が全部廃棄になる訳じゃねーし、安全確認されりゃ食えるんだけど、そこまで行くのにかなり時間がかかっちまうのは仕方ねぇ。
 毒見を済ませて程よく温くなってたメシが、更に冷え切っちまう。
 メシが運ばれて来るより前に発覚する場合はいいけど、目の前に並べられる最中に発覚した場合は最悪だ。
 よだれを垂らさんばかりにメシを待ってたレンの前から、そのメシが遠ざけられた瞬間は、ガーンとショックを受ける音が聞こえて来るかのようだった。

 この前、パリッパリに焼かれたガチョウの丸焼きが、テーブルに置かれて間もなく引っ込められた時なんか、ヒドかった。
「ふおおっ、なんでっ!?」
 デカい目を見開いて、世の不条理を嘆くレン。
「あれっ、あの丸焼きはっ、多分、無事なのにっ」
 って。「多分」がつく段階でもうダメだっつの諦めて欲しい。けど、そこで諦めねぇのが凄腕の魔法使いの凄ぇところだ。
「丸っ焼きっ! 今っ食うっ」
 冷静さを欠いた目でガタッと立ち上がるレン。今にも城の天井をぶち抜いてドゴーンとやらかしそうな雰囲気。それができてしまう実力。どれをとっても不穏でしかねぇ。
 そんな中、レンに「諦めろ」とか「メシが出るまで大人しく待て」とか、果たしてオレが言えるだろうか。
「よし、狩りに行くか」
 って言う以外にねぇんじゃねーだろうか。

「ちょっ! この後のご予定が!」
「せめて護衛をお連れください!」
 慌てて引き止める誰かの言葉を振り切って、レンの手を取り転移に備える。手を繋いでなくたって一緒に転移はできるけど、そこは気分の問題だ。
 言われた通りに護衛を連れてくかどうかも、気分の問題。あと、あんま大勢の人間にあのレンの小屋を見せたくねぇっつー、オレの気分の問題でもある。
「じゃあハナイ」
 後ろに控えてた護衛騎士にだけ手を伸ばし、問答無用に連れて行く。
 オレが護衛にハナイしか連れて行かねぇっつーのは、周りの連中も悟ってるみてーで、だからオレの側で控える近衛はもっぱらハナイの役目になった。 

 そのハナイだが、最近中隊長へと一気に昇進したらしい。
 まあ、その中隊でもってオレやオレの周りを護衛してる訳だから、オレ付きの騎士ってことに変わりはねぇ。
 失脚した騎士団長以下、騎士団上層部に変わって新たに騎士団長に就いたヤツよりは、幾分か重圧もマシなハズだった。
 内大臣派の失脚と、その残党の一掃によって人材不足に喘いでる城内だけど、中でも悲鳴を上げてんのが騎士団だ。
 騎士だけじゃなくて兵士も足らねぇ。けど仕事の数は減ってねぇから、代わりに休暇が減ってんだとか。
 30連勤がどうとかぼやいてんのを耳にはしたけど、それを言うなら宰相らだってずーっと城に常駐してるし。オレなんか休みなしにずーっと王族やらされて来てるっつの。
 けどまあ、騎士や兵士が少ねぇのは治安上の問題も出るし。早めに人材不足を解決した方がいいだろう。
 今日予定されてる会議は、その登用についてのことだった。

 いつものようにフミキに起こされ、いつものようにレンと一緒に朝飯を食って、フミキに身支度させた後は、いつものように嫌々会議室に出勤する。
 たまに会議がねぇ時は、執務室への出勤だ。どっちにしろ面倒だけど、レンが呑気に一緒について来てくれるから、面倒な会議も執務も耐えられた。
 会議の進行を取るのは、宰相だ。
「かねてより騎士団長から陳情のありました、騎士・兵士の増員の件でございますが……」
 宰相から議題が挙げられ、それについて会議室の重鎮たちが口々に意見を述べる。
「地方の守備隊などから人材を引き抜けば……」
「いや、王都の人員は王都から取るべきでは……」
「しかし地方の者にももっと門戸を……」
 それぞれの意見はあらかじめ書面で出されてるから、オレも既に目を通し済みだ。
 ここにいんのはほとんど宰相派の人間ばっかなハズだけど、それでもそれなりに意見の相違はあるらしい。
 というより、宰相派の騎士をごっそり採用して、それの上でまだまだ人手不足っつーことだ。その採用されたコネ騎士も、連勤に次ぐ連勤で大いに揉まれてる最中だとか。

 オレとしては、騎士の受勲も兵士の採用も騎士団長に全部任せて、認証のハンコ押すだけにさせて貰いてぇとこなんだけど。がっちり巻き込まれて付き合わされ、溜息が漏れて仕方ねぇ。
「陛下のご意見は?」
 くわっ、とあくびをしたところを宰相に見咎められ、話を向けられて「あー」と唸る。
 さすがに「好きに決めろよ」って言い放ってイイとは思ってなかった。
 ちらっと隣に座るレンに目を向ける。レンは会議室に座ってても相変わらず自由な様子で、ぼうっとしたり目を閉じたり、ホントに居眠りしてたりする。
「お前のじーさんとこは、どうなんだ?」
 軽くヒジ打ちして話を向けると、ぱっちり目を開けて首をかしげたトコ見ると、どうやら居眠りはしてなかったと分かった。
「じーちゃん、とこ?」
「そう、精霊王の護衛とか兵士とかは、どうやって選んでんの?」

 オレの問いに、こてんと首をかしげるレン。ぼうっとした顔で2、3度目をまたたかせてる様子は、無邪気であどけなくて可愛い。
「じーちゃんとこ、は、実力主義、だ」
 って。こっくりうなずく様子も、ちっとも厳めしくは見えなかった。
 実力主義がホントなら、王宮の警備もするっつってたハタケは、あれでも案外なかなかの腕前なんだろうか。
 っつーか、凄腕の魔法使いばっかって印象の精霊たちが、どうやってその実力を測るのか、やっぱドゴーンドゴーンやり合うのか、ちょっとだけど気になった。

   (寝てない、よっ。馬、見てた)

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あきゅろす。
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