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その後の城では
※この話は逃亡の王子と森の精 の番外編続編になります。本編未読の方はご注意ください。



 城での朝は、侍従のフミキの気の抜けた声から始まる。
「殿下ぁ、朝ですよー」
 目覚めとしてはビミョーな感じだけど、下手に構えられたり緊張されたりするよりは、まあこんくらい緩い態度でいてくれた方がいい。
 侍従長からは、陛下と呼べとかもっと敬意を払えとか叱られたりもするみてーだけど、フミキの緩い態度は今更だし、まだ即位もしねー内から陛下呼ばわりされたくなかったから、「まあまあ」って取りなすこともあった。
「おー」
 フミキに促されるように伸びをしつつ、傍らに眠る温もりに手を伸ばす。
 オレのベッドでくぅくぅと寝息を立ててるレンは、無防備に寝込んでてホコホコと温かい。
 間もなくシャシャッとカーテンが引かれ、部屋の中が眩しい朝日で満たされる。その朝日の眩しさに、ぐっすり寝てたレンも「うにゅう」と声を上げて顔をしかめてる。
 森の小屋の粗末なベッドで一緒に寝てる時は、かなり早起きだったっつーのに。城のこのデカいベッドで寝るときは、いつも大体ゆっくりだ。
 朝メシ作んなくても、用意されるからだろうか? それか単純に、こっちのベッドの方が寝心地良いいからか?
 まあ多分後者なんだろうとは思うけど、オレとしてはこの温もりと一緒なら、いつでもぐっすり寝れそうな自信があった。

 顔を洗って着替えて朝メシを食った後は、大体会議室に連行される。
 会議のねぇ日は、レンと森に行ったり街に行ったり馬を見に行ったりするんだけど、そんな風に気楽に過ごせる日は残念ながらごく少ねぇ。
 親父らの隠居が決まった直後も会議会議の連続だったけど、最近はまた更に断続的に会議がある、
 議題は、っつーか、そこで決められてんのは、新たな人材登用についてだ。
 例の虫事件以来、城はじわじわと人材不足に陥り始めてる。内大臣派が一掃された結果、そっち方向のコネで採用されてた連中もごっそりと配置換えになったせいだ。
 オレとしては別に、コネだろうが何だろうが今後真面目に働いてくれるなら別に良かったんだけど、そんな風に割り切ってくれるのは珍しいみてーだ。
 自分たちの派閥、引いては自分たちの家系が落ち目になったのはオレのせいだ、っつって逆恨みしてる連中もいるだろう、って。その可能性を否定できねぇ以上、オレの身の回りには置けねぇとか。
「考え過ぎじゃねーの?」
 宰相には呑気にそう言ったけど、実際何度か狙われてからは全く反論できなくなった。

「陛下は人が好過ぎます」
 渋いオッサンに渋い声で言われると、オレの方もついつい渋い顔になる。
 説教もうんざりだけど、陛下呼ばわりにもうんざりだ。まだ戴冠式も終えてねーのに、ってついつい思う。
「陛下って……」
「戴冠式はまだだとしても、既に玉座にお座りなのですから、実質上は既に新国王陛下でしょう。陛下」
 ぼそっとぼやいた言葉にも真顔で反論されて、うぐっと黙らされる。
 人が好いなんて初めて言われた、とか、疑ってばっかじゃ始まらねぇ、とか、フミキは「殿下」って呼ぶぞ、とか、色々言いたいことはあったけど、全部まとめて腹に飲み込むしかなさそうだった。

 まあ実際、飲食物に毒や異物を混入されたのも1回や2回じゃねぇのが辛いところだ。
 メシの安全はレンが大いに張り切って見張ってくれてるとしても、会議中に出されたお茶まで警戒すんのはさすがに疲れる。
 オレだけ狙われるならともかく、会議室にいる全員分の飲み物に毒を混ぜられたこともある。
 さすがにそれは配ってる最中にレンに気付かれて、誰の口にも入んなかったけど、無差別は勘弁して欲しい感じだ。
 また、レンにビミョーに常識がねぇからヤベェ。
「アベ、君は平気だ、けど、他の人は死ぬ、かも?」
 って。キョトンと首をかしげながらの指摘がまた、オレらをドッと疲れさせた。
「この毒使ったら、に、肉も毒に、なる」
 とか。
「毒になったら、食えない」
 とか。真面目な顔で教えてくれたけど、そういう問題じゃねぇ。
 しかも、オレなら平気ってどういう意味だ? もしかして不老長寿の実で変わっちまったのは、寿命だけじゃねーんだろうか? あんま考えたくねぇけど、ちょっとこの先が怖かった。

 侍従や侍女、下働きの下男下女まで含めて、素性やら何やらを調べ直したのは当然の流れだろう。
 宰相ら新首脳陣は人となりを、レンは虫の名残りをそれぞれチェックしまくって、ようやく一息つけるようになった今、じわじわと人手不足の波が押し寄せて来てる状態だった。
 その間、毒以外にも色々あった。
 頭上から壺を落とされたこともあるし、ベッドに毒蛇を放たれたこともある。
 まあ、レンの守護がオレには未だにかかってて、壺だろうが剣だろうが何もかも吹き飛ばしちまう訳だけど、狙われてると思うと気分がワリー。
 オレらのベッドに毒蛇をっつーのも悪質だ。
「ふおおっ、クロクサリ!」
 って、レンは悲鳴どころか歓声を上げて仕留めてたけど、レンがいなけりゃどうなってたか分かんねー。

「これっ、この蛇、レアだっ」
 蛇を掴んでにっこにこ笑ってるレンは、ワイルドだけど無邪気で可愛い。
「この蛇の毒、だと、獲物の肉、食べられる」
 そんな狩りの知識は別に必要なかったけど、レンは自由にしてんのが1番だし。
 毒にも蛇にも刺客にも怯えねぇで楽しそうにしててくれるなら、オレの方も安心だった。

   (城にも蛇、出るんだ、ねっ)

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