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謎のバリスタ (モブ視点)
※モブの女性客視点になります。



 職場の近くに、行きつけのカフェがある。歩道にまで大きく張り出した屋根が特徴の、オシャレでコーヒーの美味しいカフェだ。
 日替わりのケーキセット、日替わりのパフェも美味しいが、月替わりのスペシャルコーヒーも美味しい。
 定番の銘柄から、初めて聞くような銘柄までその種類は色々で、どこで豆を仕入れてるんだろうって、いつも思う。
 私はコーヒー通って訳じゃないけど、このカフェに通うようになってから、ブラックコーヒーが好きになった。
 一般的なオープンカフェのテーブルに比べて、屋根の部分が大きいから、真夏でも日差しを遮ってくれるし、大雨の日でも平気。その辺も、女性客に人気な理由の1つなんだろう。
 後、オーナーがイケメンだ。
 にこっともしないし、愛想には欠けるけど、誰に対しても淡々と接客する様子は、何だかすごくプロっぽい。オーナー目当てに通う人も多いかも知れない。
 私はコーヒー目当てだけど、それよりバリスタさんの方に興味ある。

 店の中には、テーブル席が幾つかとカウンター席が5つ。そのカウンターの中にはいつ見ても誰もいなくて、バリスタさんの影もない。
 普通、バリスタさんって、カウンターの中に立ってコーヒーを淹れながら、雑談に応じてくれるモノじゃないのかな?
 それとも、そういう店は特殊な部類で、この店は接客もなし?
 オーナーが若いだけに、同年代だって言うバリスタさんも、すごく気になる。
 空っぽなままのカウンターも気になる。
「あの、すみません」
 店内のフロアを大股で歩いてるオーナーさんに声を掛けると、「何かご用でしょうか」ってにこっともしないで淡々と訊かれた。
「あの、バリスタさんって、どちらにいらっしゃるんですか?」
 不思議に思ってたことを訊くと、「厨房におります」って短い答えが返ってきた。

「カウンターには立たないんですか?」
「厨房の方も、一手に担っておりますので」
「コーヒー淹れるとこ、見たいんですけど」
 私の申し出に、「申し訳ございません」って淡々と頭を下げるオーナーさん。相変わらず、愛想のカケラもない口調だけど、気のせいかちょっと目つきが厳しい。これ以上話しかけるな、って、そんな圧力を感じてしまう。
 えっ、迷惑? コーヒー淹れるとこ、見れないの?
 けど、それ以上会話を続けることはできなかった。
「ちょっとー、注文いいですかー?」
 他のテーブル席から声を掛けられて、オーナーがくるっとそっちの方を振り返る。
「少々お待ちください。込み合っておりますので、ご用がなければこれで」
 注文客に軽く頭を下げ、オーナーさんは私にも頭を下げた。丁寧でキレイな挨拶なのに、なんていうか、へりくだってない感じなのがすごく不思議。

 さすがに接客中に、それ以上は食い下がれなくて、渋々黙ってコーヒーを飲む。
 少しぬるくなってしまったけど、やっぱりここのコーヒーは美味しい。
 どんな人がどうやって、こんなコーヒーを淹れてるのか、興味ある。見たい。知りたい。そして、どこで修行したのかとか、色々話を聞いてみたい。
 せっかくカウンターがあるのに、無人のままなの勿体ない。

「オーダー入るぞ。ブレンド1つ、今月のコーヒー1つ」
 厨房に声を掛ける、オーナーさんの声が聞こえる。
 耳を澄ますと、「ブレンド、はい……」って優しげな若い男の人の声も聞こえてくる。
 ああ、やっぱりバリスタさんは、厨房の中にいるみたい。
 ケーキセットのケーキは、すぐそこのケーキケースの中に入ってるの見えるけど、きっとパフェとかフードとかは、厨房で作られてるんだろう。
 コーヒーだけじゃなくて、一手に引き受けてるとしたら、そりゃあ忙しいかもだけど……やっぱり美味しいコーヒーは、目の前で淹れてくれるのが見たいなぁ。
 店が暇な時だったら、どうなのかな?
 お客さんが1人とか2人とかなら、厨房も暇だろうし、バリスタさんの手も空くハズ。その時を狙って、またお願いしてみようかな?

 蝉の声が、街路樹から聞こえる夏。
 大きな日よけのあるオシャレなカフェは、きっとますます忙しくなるだろう。けどいつか、謎のバリスタさんの姿を、見る機会があればいいなぁと思った。

   (接触禁止、会話も禁止だっつの)

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あきゅろす。
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