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お疲れのコーヒー
商工会の七夕祭りから数日後、また背の高い商工会のパシリが店にやって来て、奥のカウンターにドカッと座った。
「コーヒー。何か、疲れに効くヤツ」
こっちが水を差し出すより先に、オーダーを通してくんのは珍しい。カウンターにヒジを突き、はあー、とため息をついてるトコ見ると、疲れてんのは間違いなさそうだ。
「疲労回復なら、薬局でドリンク剤でも飲んで来いよ」
苦笑しながらお絞りと水を差し出すと、もっかい深々とため息をつかれた。
「レン、疲れに効きそうなコーヒーだって」
厨房を覗いて声をかけると、恋人のバリスタは器用にパフェを作りながら、「うえ?」ってこっちを振り向いた。
シリアルにフルーツソース、バニラアイスにバナナのスライス、……レンの好きなモノを好きなように盛り付け、仕上げにフルーツとスナックを飾った「本日のパフェ」は、見た目も華やかで人気がある。
勿論、忙しい時はオレだって同じものを作るけど、レンの作ったのの方がキレイに盛り付けできてるように見えるから不思議だ。
「花井、君?」
「おー。お疲れみてーだぞ」
作ったばっかのパフェを受け取り、銀トレイに載せて客席に運ぶと、後ろからレンも一緒に出てきて、「お疲れ、さま」って花井に声を掛けんのが聞こえた。
疲れに効くコーヒーって、特にどれとかあったっけ? レンのコーヒーならいつだって美味いし、リラックスできるから、「特にコレ」っつーのがオレにはよく分かんねぇ。
「お待たせいたしました。本日のパフェでございます」
オープンスペースに向かい、パフェとロングスプーンをテーブルに置いて、ハンディ端末から「注文済」のチェックを入れる。
梅雨明けはまだ少し遠そうだ。昨日から今朝にかけて降り続いてた雨のせいで、晴れてはいるけど蒸し暑い。
こんな日は、ケーキセットよりパフェやアイスの方が売れそうだ。
そんなことを思いつつ、客席をぐるりと見回して、涼しい屋内に退散すると、レンはとうに厨房の方に戻ってて、花井が1人でカウンターにぐったりと顔を伏せていた。
「まだ疲れてんの? 祭りはもう終わっただろ?」
ぼそっと話しかけながら、空になったコップに氷水を足してやる。シンプルなポットの中で、カランと鳴る氷水。ポットも汗をかき始めてて、さり気に布巾で軽く拭く。
ついでに客席を回り、氷水を継ぎ足して回るのも忘れねぇ。たまに追加オーダーが寄せられることもある。
「すいませーん、何か冷たいの」
「はい、冷たいドリンクもございますが、パフェやアイスなど、冷たいデザートもございます」
淡々と説明してオーダーを促しながら、かき氷なんかもいいよな、とぼんやり思う。
けど、かき氷なんか始めちまうと、忙しさが倍増するから却下だ。利益率は高ぇらしけど、器の管理とか氷の管理なんかも増えると、面倒で仕方ねぇ。「ムリしない」のが決まり事だから、無理に利益を上げる必要もなかった。
「じゃあ、パフェ1つ」
「かしこまりました、少々お待ちください」
端末にオーダーを打ち込み、伝票を更新して伝票入れに挿し入れる。氷水のポットを乗せたまま、もっかい客席を見回して店内に戻ると、奥の席で花井がコーヒーを飲んでるのが分かった。
「オーダー入るぞ。パフェ1つ」
厨房にオーダーを通し、レンが「パフェ、はい」ってうなずくのを微笑ましく見守る。
「今日は、パフェ、多いねー」
「ああ、蒸し暑いからな」
オープンスペースと違い、室温の管理された厨房の中は、どっちかっつーとやや涼しい。大事なレンが熱中症なんかになったら大変だから、エアコンでの管理は重要だ。
オレの言葉に、「へ、え」とうなずきながら、レンがパフェグラスにシリアルを入れる。
「じゃあ、花井君、も、アイスコーヒーがよかった、かな?」
って。こてんと首をかしげながら、気遣いを見せる様子が可愛い。
「別に何でもいいんじゃねーの?」
「うへ」
オレの適当な返事に、苦笑する様子も可愛い。
「そういや、何淹れてやったの?」
客席を見回しながら訊くと、「ブルマン」って言われた。
「薫り高いの、いい。深煎りのでもいい、けど、花井君、甘いの好きそう、だし」
とつとつと語られる説明に、「へえ」と感心して花井を見る。
花井は香りを楽しむように、一口一口コーヒーを飲んでて、ブルマンを存分に堪能してるみてーだ。
あのコーヒーには、この間ん時みてーに、また砂糖がたっぷり入ってんだろうか? 七夕祭りは終わったっつーのに、まだまだ忙しそうで、商工会も楽じゃなさそうだなと思う。
そういや花火大会も、商工会主催なんだっけ? まあ、どっかと合同でやるんだろうけど、それはそれで大変そうだ。
ただ、花火大会の会場は遠いし、うちのカフェとは関係ねぇ。
せいぜいポスター張りとチラシ配りくらいで、そんくらいならまあ、このお疲れのパシリのためにも、協力してやってもいいかなと思った。
(今日は奢りじゃねーからな)
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