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七夕のバイト (篠岡視点)
※バイトの篠岡視点になります。


 いつものカフェでバイトする週末、今日は久々に忙しいなと思ったら、近所でお祭りをやってるらしい。地元商工会主催の、七夕祭りだって。
 各店舗から1人ずつ労働力の提供が決まりらしくて、同じバイトの水谷君が、朝から出向中らしい。
 そういえば、先週からレジでガラポンの補助券配ってたっけ。
 300円で補助券1枚、1500円で抽選券1枚。うちのカフェだと、フードを食べるか2人分の支払いするかしないと、なかなか1500円は超えないから、ほとんど補助券しか配ってない。
「ありがとうございます。20円のおつりと、補助券2枚になります」
 レジで小銭を渡し、レシートと補助券も渡す。
 たまに不意打ちで、「この補助券、何?」って訊かれるから、状況の把握はあなどれない。
「向こうの通りで、七夕祭りをやってるそうです」
 そんな説明を繰り返しながら、七夕かぁ、とぼんやり思った。
 こういうイベントでしか、七夕って意識してないかも。笹の葉飾りを作ってたのも、小学校の頃以来で、色々と思い返すと懐かしい。

 うちのカフェでも、ちょっとだけ七夕を意識してるみたい。今日のケーキの1つ、ブルーハワイのレアチーズケーキにも、白い星が飾られてる。
 キレイな水色と白のケーキは、それだけでお客さんの目を引くみたい。
 ケーキセットのオーダーの後、いつものようにトレイに載せてケーキ3種をお見せしに行くと、お客さんの目が釘付けになってるの、よく分かる。
 「わあー」って歓声を上げられると、ただのバイトだけどちょっと嬉しい。
「本日のケーキは、レモンケーキ、ブルーハワイのレアチーズケーキ、チョコムースケーキになります」
 トレイを捧げ持つと、ふわっと鼻をくすぐるのはレモンの香り。
 レモンのケーキにも色々バリエーションあるみたいだけど、今日のレモンケーキには白いアイシングの上にレモンピールが飾られてて、それもキラキラの星みたい。
 他にも七夕っぽいのは、「本日のパフェ」だ。
 バリスタの三橋さんが厨房で1個1個作るパフェ。飾られるフルーツや、中に入るアイス、トッピングのスナックなんかが毎日ちょっとずつ違うんだけど、今日のパフェには星形のチョコが飾られてて、すごく可愛い。
 こういうの、三橋さんが考えてるのかな? それとも、意外とオーナーのセンス?

 今日は水谷君がいない分、オーナーもちょっと忙しそう。厨房に入り浸ってる時間が少なくて、相変わらず愛想がない。
「当店のコーヒーは、バリスタが1杯1杯丁寧に……」
 って、いつもの口上もいつもよりちょっと早口になってて、ビミョーに機嫌悪いみたい。
 やっぱり、厨房に入り浸れないから? それとも、厨房を覗いても、三橋さんが忙しくて構って貰えないからなんだろうか?
「オーダー入りまーす。パフェと、ケーキセット、今月のコーヒーです」
 厨房を覗いてオーダーを告げると、「うおっ」って三橋さんが顔を上げる。その手にはちょうど、チョコレート色の星がつままれてて、パフェの仕上げをしてたみたい。
 あわあわと手を拭いて、あわあわとオーダーのプレートを作業台に並べる三橋さん。
「えっと……」
「パフェと、ケーキセット、今月のコーヒーです」
 困った顔でちらっとこっちを見る、その態度がなんだかおかしくて可愛い。オーナーと同い年の、大人の男性のハズなのに、そんなに年上って感じしない。

「パフェ、はい。ケーキセットと、今月のコーヒー、はい」
 1つ1つ確かめながら、プレートを並べる三橋さんに、ちょっと和んだ。
 彼の返事を聞きながら、できたばかりのパフェをトレイに置いて、ペーパーナプキンとカトラリーを確認する。
 1人で厨房を受け持つ三橋さんに、それ以上の負担をかけないよう、オーダーを管理するのは私たちフロア係の役目だ。ハンディの情報を共有して、どこのテーブルのオーダーなのかを確認し、的確にそこに運んでく。
「パフェ、持っていきますねー」
「う、ん」
 短い会話を交わしながら、パフェの載ったトレイと共に厨房を出ると、入り口のところでバッタリとオーナーに出くわした。
 不機嫌そうな顔でじろっと睨まれて、うわぁ、と思いつつフロアに戻る。
 三橋さんが大好きなのはもう分かってるから、バイトにまで嫉妬するの、やめて欲しい。
 私が好きだったの、オーナーの方なんだけど、きっとそれに関してはスルーなんだろう。それを思い知ると、ちょっと空しい。
 けど、いちいち小さな嫉妬を繰り返すのも、それでこそうちのオーナーって感じだ。

「オーダー入るぞ……」
 響のいい声を背中に聞きつつ、入って来たお客さんに「いらっしゃいませー」と声を掛ける。
 パフェを置いたら、今度はお冷やを持って来なくちゃ。
「すみませーん」
 客席から掛けられる声に、「少々お待ちくださーい」と笑顔で答え、頭の中で優先順位を考える。
 この店でバイトするのは、やりがいあるし、楽しい。コーヒーも美味しいし、スタッフもイイ人だし、いい店だなぁと思う。
 たまに理不尽な嫉妬を向けられるけど、それも慣れると笑顔で流せるようになる。
「オーナー! レジお願いしまーす!」
 厨房から出て来ないオーナーに、お邪魔と知りつつ大声で呼びかけるのも、毎度のことだ。
 世間では七夕、今日は晴れ。近所でお祭りやってても関係ないくらい忙しいけど、バイトは楽しいし、それだけでいいかなと思った。

   (私にも星ください)

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