[携帯モード] [URL送信]

拍手Log
ペパーミントの日のケーキ
 今朝も朝から暑かった。店までの道も暑いけど、一晩放置した店内も暑い。シャッターを半分だけ開けて中に入ると、むわっと暑さに襲われて、うわっとなった。
 明かりを点けると同時にエアコンも点け、更衣室でコックコートに着替える。
 オーナーのタカは、全身黒、エプロンも黒。オレは上も下も白のコートで、エプロンも白。選んだのは自分だけど、正反対だなってちょっとおかしい。
「暑い、ねー」
 着替えながらぼやくと、タカに「もう夏至だかんな」って言われた。
「夏至?」
「おお、明日だけど」
 夏至って確か、1年で1番日の長い日だ。これから気温も高くなり、もっともっと暑くなる。まだ梅雨明けにはなってないけど、夏も近いなぁって思う。
「今日は天気、どう、かな?」
「降水確率は40%つってたぞ」
 いつもの朝の、他愛ない会話。
 「ビミョーだ、ね」って笑うと、タカも「だな」って笑って、オレにちゅっとキスしてくれた。

 厨房の明かりを点け、朝のクリンネスを行い、それからサンドイッチやパフェの準備を始める。
 今日は暑いから、パフェの注文、多いかな? まだ平日だし、土日の方が忙しい? そんなことを考えつつ、オレンジの皮を剥いてると、半開きにしたシャッターの方から、「ちわー」って聞き慣れた声が聞こえた。
「おー、毎度」
 タカが返事して、そっちに向かうのが聞こえる。栄口君とこの、ケーキ屋さんのバイト君、だ。
 厨房から顔を覗かせると、いつものバイト君がいつもの業務用パッキンを抱えて、店にケーキを運び入れてるとこだった。
「今日のケーキは、メロンのケーキとブルーベリーのチーズタルト、チョコミントケーキです」
 バイト君の説明にうなずきながら、パッキンを受け取るタカ。
「チョコミントって。試作品か?」
「美味いっすよ。多分」
「多分ってなんだ」
 そんなツッコミを入れながら、タカが伝票にサインを入れる。オレも気になってオレンジを置き、手を拭いてそっちに向かうと、パッキンの中にはずらっとケーキが並んでて、ぷんと甘いニオイがした。

「あ、毎度」
 ぺこりと挨拶してくれるバイト君に、「おは、よう」って返事してパッキンを覗き込む。
 黄緑色の鮮やかなメロンが飾られた、ドーム形のケーキ。ブルーベリーがちょこんと盛られた、三角のタルト。そんで、てっぺんだけがミントグリーンのチョコケーキ。どれも相変わらず美味しそう、だ。
「ミント、いいねっ」
 タカの隣に寄り添いながら話しかけると、「でしょ」ってバイト君にうなずかれる。
「今日、ペパーミントの日らしいっスよ。20日だからハッカだって」
「ふええ」
 感心してると、タカが「ホントかよ」ってツッコミを入れた。
「美味、そう」
「お前は何でもそう言うよな」
 ポンとオレの頭を撫で、呆れたように笑うタカ。
 ショーケースにケーキを手早く並び入れ、パッキンをそのままバイト君に返して送り出す。

 「どうもでーす」って挨拶して、快活に帰ってくバイト君は、いつ見ても元気だ。オレも「よしっ」って気合を入れ、オレンジの皮むきを再開する。
 やがてケーキを並べ終えたタカも、厨房に入って来て炊飯器の手伝いをしてくれた。「ムリしない」のが決まりだから、お米も面倒を省くため、無洗米だ。
「今日は暑いから、ビーフシチューはイマイチかもな」
 そんなことを言いつつ、いつも通りご飯をセットする。なんだかんだ言いつつ、準備した分はなくなるから不思議だ。
「じゃあ、ケーキよりパフェ、かな?」
 オレの問いに、「多分な」って答えるタカ。
「ミントケーキ、余るといい、な」
 にへっと笑いながら言うと、「はあ?」って呆れたような目で見られたけど、ホントに呆れられてる訳じゃないから、気にしない。
「コーヒーも、アイス、多そう」
「そーだな。氷、切らすなよ」
 他愛ない会話を続けながら、タカと2人、フードの準備をして開店までせわしなく過ごす。

 サンドイッチ、ビーフシチュー、ランチプレート、パフェ。アイスクリームやケーキは盛り付けるだけだけど、他は毎日準備がいるから、朝からいつも忙しい。
 今日も1日始まるぞって思える、この時間もすごく好きだ。
 恋人と会話しつつ手を動かし、時々見つめ合ったり、キスしたり、やっぱ仕事したり、楽しい。
 蒸し蒸し暑いとヘトヘトになるけど、無理なく楽しいから続けられる。
 ABMHカフェ、開店まであと1時間。今日も頑張ろうと思った。

   (ケーキ、残るといい、な)

[*前へ][次へ#]

11/154ページ


あきゅろす。
無料HPエムペ!