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マンゴー事案
 7月15日がマンゴーの日だってコト、15年生きてて初めて知った。
 マンゴーの日なんてものがあんのも初めて知った。
「今日はマンゴーの日なので、おやつはマンゴーです!」
 山盛りのマンゴーをトレーで運んで来たマネジに、みんなが「おおーっ」と声を張り上げる。
 マンゴープリンは食ったことあるけど、マンゴーなんて初めて見た。
 ネットとかで見かけた通り、サイコロみてーな切り方をちゃんとしてあって、ぷーんといい匂いがする。
 みんなの目は、すでにトレーの上のオレンジ色のフルーツに釘付けだ。
「マンゴーは、三橋君ちからの差し入れです!」
 マネジの言葉に、またも「おおーっ」と歓声が上がる。みんなの視線を受け、三橋が「う、へ」って不器用な照れ笑いを浮かべた。
 どうやら貰い物らしーけど、三橋家では別に珍しい食いモンでもねぇらしい。
「マンゴーも好きだ、けど、スイカも好き、だ」
 って。普通に同列に扱ってて、大量にみんなに差し入れしたことにも、特に感慨はねぇようだった。

『うち、お金ない、みたい』
 この間三橋は恥ずかしそうに言ってたけど、そんなことねーよなってしみじみ思う。
 デカい家、デカい外国車、広い個室……あんだけ恵まれてそうなのに、ビンボーだと思い込んでんのは、幼少時の節約生活のせいだろうか?
 小遣いもあんま貰えてねーのかな? それとも何も考えてねーのかな?
 マンゴーを受け取り、にこにこ笑ってる姿はガキそのものだ。
「うまそう!」
「うまそう! いただきます!」
 いつもより気合の入った掛け声と共に、一斉にマンゴーにかぶりつく。皿に乗せてフォークで上品に……とかは、みんな無縁だ。
 三橋だけは、戸惑ったみてーにキョロキョロ周りを見回してたけど、みんながかぶりつくのを見て、急いで自分も真似してた。

 三橋の観察をやめ、オレも手元の高級フルーツにかぶりつく。
 マネジが一生懸命チャレンジしたらしい飾り切りは、ところどころイビツだったり不完全だったりしたけど、美味けりゃ別にいいと思う。
 きらめく果肉。したたる果汁。甘酸っぱい味が口いっぱいに広がって、一口で舌がきゅっとなる。
「あっめーっ!」
 田島が早くも食べ終わり、ペラペラになった皮をぶら下げて奇声を上げた。
 ガキか、と思いつつ呆れた目を向けると、その横で三橋もがっつくようにマンゴーをがふがふ齧ってる。
 田島が早く食い終わったから、それにならって早く食おうとしてんのか。懐いたもんだなとしみじみ思う反面、ちょっと呆れる。
 けど――。

「三橋、汁が垂れてんぞ」
 そう言って三橋の手を取り、その腕をべろっと舐め上げた阿部には、もっと呆れた。

 何やってんだろう? みんなが凍りついた顔で見てる中、「何やってんだ」って言ったのは当の阿部だ。
「もっと落ち着いて食えよ。手ぇベタベタだろ」
 って。
 手首を掴んで三橋の指まで舐めてる阿部に、みんなしてドン引く。ベタベタなら手ぇ洗えばいいだろう。つーか、田島は既に手洗いに行ってるぞ。
「あ、りが、とう……」
 ドモりながら礼を言う三橋は、とうに真っ赤に茹で上がってる。
 過保護で過干渉なのはウゼェけど、これはウゼェ以前の問題だ。
 このまま放置してたら、口元もべろっと行くんじゃねーか? そう思うと、ぞくっと背中に震えが走る。
 そうならねぇ内にと立ち上がり、急いで三橋の元に駆け寄ったのは、チームメイトとして当然の事だ。

「ほら、手ぇ洗いに行くぞ」
 阿部に掴まれたのとは反対の手を取って引っ張ると、三橋はのろのろと顔を上げて、「うん」ってガキみてーにうなずいた。
 田島と共に、コイツの兄ちゃんになってやろう。心の中でそう決意した夏。それは初めて味わう、マンゴーの日の事だった。

   (いいか、阿部には注意しろ)

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あきゅろす。
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