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勝利の後で
 試合の後、力を使い果たしたように寝込んじまった三橋を見送り、オレらは一旦学校に戻った。
 期末試験が終わって授業も午前中だけになり、部活に力を注ぐのに何の障害もねぇ。
 試合中に降り始めた雨は日が暮れるまでやまなかったけど、校舎や渡り廊下でできることなんかいくらでもあるし。
 ミーティングと反省会した後は、それぞれで体をほぐし、みっちりと基礎練習で力をつけた。
 三橋にメールを送ったのは、おにぎり休憩の時だ。
――体調どうだ?――
 言いたいこと、訊きたいことはいっぱいあったけど、いっぱいあり過ぎて逆にメールにできねぇ。
 結局当たり障りのねぇ、短い文章だけを送って様子を見る。
 「もういいよ」とか「平気だよ」とか、短くでも返事をくれたら、そんだけで安心できるしホッとする。
 けど、三橋からのメールは夜になっても送られてなくて、大丈夫かなと心配になった。

 まだ寝込んでんのかな? いい加減起きろよな。それとも、とっくに起きてぼうっとしてんだろうか?
 それとも家族とメシ食いながら、今日の試合について話してる?
 イトコっつったっけ、群馬からわざわざ応援に来たあの女も、まだ三橋んちにいるんだろうか?
『叶は勝ったよ』
 試合が中断してたあの時、ベンチ裏のシャワールームに響いた、甲高い声を思い出す。
 もうダメだってくらい疲れ果て、握力を失くし、ボロボロになってた三橋を復活させたのはあの声で――イトコと叶の存在のお陰で、オレのためじゃなかった。
 群馬での3年間、あいつが決して1人じゃなかったんだって、あれを見りゃなんとなく分かる。三橋はこっちを選んでくれたけど、この先は分かんねぇ。
 三橋の頭の中に、今オレはいるだろうか?
 もっかいメールを……とケータイを取り出し、しばらく考えてポケットにしまう。

 返事を期待して、鳴らねぇケータイを抱えて待つなんて、性に合わねぇ。
 ちょっとだけ、顔見て元気か確認するだけでいい。帰りに三橋んちに寄ってこうと思った。

 さすがに試合当日だっただけに、夜の練習は早めに終わった。
「明日は朝練、遅めにしよう」
 モモカンの言葉を聞いてから解散し、それぞれ自転車で家路を急ぐ。
「腹減ったなー」
「今日の晩飯はきっと豪華だぜー」
 みんなでわいわい話してんのを聞き流しながら、やっぱ考えんのは三橋のことだ。
 今何をしてんだろう? 三橋もご馳走作って貰ったか? 駐車場でオバサンに裸に剥かれてたけど、帰ってすぐ着替えたんだろうか? 風邪ひいてねーか?
 同じ方向の連中をやり過ごすため、コンビニに寄らずにまっすぐ走る。
 三橋の家への分かれ道を曲がらず、まっすぐ道なりに夜道を進むと、街灯のぽつぽつ点く向こうにデカい家が見えてきた。

 直前で自転車を停めたのは、その三橋んちのガレージから車が1台出て来たからだ。
 昼間見た、派手な色の外車に三橋のオバサンの車だって一目で分かる。
 助手席に座ってたのは、あのイトコか? 今から群馬に帰るんだろうか? 三橋は?
 まさか後部座席に乗ってはねぇだろうと思うけど、暗かったし一瞬だったからよく分かんねぇ。大人しく家で留守番してんだろうか? 1人で?
 オジサンは……と思ったけど、家にいるならオバサンがイトコの女を送ってくハズもねーだろうし、やっぱ家にはいねーんだろう。
 外車が角を曲がってくのを見送って、そろそろと三橋んちの前に近付く。
 塀の向こうに見える2階の窓には、明かりが点いてねぇ。どの窓がアイツの部屋の窓だろう? 部屋から庭のマトが見えたんだから、方向的にはこっちだよな?
 自転車を降りて塀越しに窓を見上げ、もっかいケータイを取り出す。

――起きてるか?――
 短いメールを送信したけど、どんだけ待っても返事はなくて、諦めるしかなさそうだった。
 明日は会えるんだろうか?
 朝練、来るよな?
 最後にもっかい窓を見上げ、ため息をつきながら自転車にまたがる。
 「お疲れ」とも「よくやったな」とも、まだ言えてねぇ。
 ただ、あんなボロボロの三橋はもう見たくなくて。次からはギリギリの試合じゃなく、余裕を持って勝てるようにしてやりてぇと思った。

   (見たら返信)

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