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ジェットコースター
期末試験最終日。教室に来るなり、田島君が大声で叫んだ。
「今日はジェットコースターの日だぜーっ!」
泉君が「何言ってんだ?」って冷静にツッコミしてたけど、田島君が言うには、ジェットコースターくらいの勢いで、今日のテストを乗り切るんだって。
「今は試験で、こんくらいの低いテンションだろ。そんで1教科テストが終わるごとに、どんどん坂を上ってくんだよ。全部のテストが終わった時、オレのテンションはMAXで……!」
身振り手振りで説明する田島君はすごく嬉しそうで、テスト前から既にテンションは高そうだ。
昨日のテスト、結構できたのかな? それとも今日の、自信ある?
田島君のテンションはテストが終わってもそのままで、それを見てるとオレの気分もちょっと上がった。
テストが終わると、勿論久々の練習だ。
田島君のテンションも、MAXだ。
「オレは今ジェットコースターだぜー!」
って。テストが終わった気分と、ようやく練習できるっていう気分、それからいよいよ夏大だっていう気分とが混じりに混じって高まり合い、今にも走り出したい感じみたい。
「このままの勢いで初戦突破だー!」
気合十分にグラウンドを走り回る田島君。やる気にみなぎってて、スゴイなぁと思う。
「明日は開会式。試合は明後日だぞ」
花井君の言葉にも「分かってるってー」って笑顔で答えてる。
「そんで、試合が終わると同時にテストも返って来るんだぜ……」
「まあ、ジェットコースターもいつかは止まるからな」
「アップダウン激しいってことかな」
誰かがぼそっと言ってるの聞いて、アップダウンを想像してビクッとしたけど、このままのテンションでゴーッと行きたいっていうのは、田島君に同意したい。
ジェットコースターなんて、小さい頃に1回乗ったことがあるかどうかで、もうあんま覚えてないけど……ゴウッと音を立てて風を切る勢いのよさは、なんとなくイメージできた。
オレにそんな勢いが出せるかどうかは分かんないけど、勝ちたいなぁって素直に思う。
相手は強豪校だし、きっとオレ達以外勝てるなんて思ってもないと思うけど。勝ちたい。勝って、あの気持ちよさに浸りたい。
阿部君の望みどおりに投げられたら、勝てるんだろうか?
オレには投げることしかできないけど、彼の指示通りにちゃんとできたら、勝利への道も開くかな?
柔軟しながらぼうっとそんなことを考えてたら、「集中しろよ」って横から声を掛けられた。
阿部君だったから、ドキッとした。
阿部君の事考えてたから、余計にドキッとした。
「なんだ、お前もジェットコースター気分か?」
呆れたように言われて、慌ててぶんぶん首を振る。
「お前はジェットコースター苦手そうだな」
それは実際そうなので、反論もできなかったけど。
「つか、乗ったことあんのか?」
と、その言葉には、図星だけにグサッと来た。
友達同士で遊園地とか行ったこともないし、家族でもない。お父さんもお母さんも仕事でいつも忙しかったし、休日にキャッチボールして貰うのがせいぜいだった。
普通はみんな、遊園地行ったりするのかな? ジェットコースターも観覧車も、みんな何度も乗ってるの?
……阿部君、も?
それを考えると、いいなーってだけじゃなくて、モヤッと気持ち悪くなる。
阿部君も、友達と遊びに行ったりしたのかな?
オレの知らない人? オレの知ってる人? 一緒に野球をやってた人?
アップダウンの激しいコースみたい。気分が一気にどーんと沈んで、考えないようにしても鳥肌が立つ。
「あ……阿部君、は、の、乗ったこと」
しどろもどろに訊くと、「あるに決まってんだろ」ってあっさり言われて、さらに落ち込む。
「なんだ、お前やっぱねーのかよ」
ふっ、と笑われて、さらにグサッと来て、ダメージの大きさにふらっとする。
オレだってなくはないんだけど、幼稚園かそんくらいの頃のことだし、記憶もあいまいだから反論できない。
阿部君の言葉に一喜一憂して、ホント、ジェットコースターみたい。
長いテスト期間を経て、待ちに待った練習再開だっていうのに。こんな気分でどうしよう? そう思った時――。
「じゃあ、大会終わって暇がありゃ乗りに行こーぜ」
そんな言葉と共に頭を軽く撫でられて、再びドクンと心臓が跳ねた。
「まずは明後日の試合だぞ」
キリッとした声で言われ、浮かれそうになった気持ちが引き締まる。
浮き沈み激しくて、ドキドキしっぱなしで、今にも叫びそうで、ジェットコースターみたい。ホント、ジェットコースターみたい。
一度風を切って走り出せば、きっとアップダウンも気にならない。
いつかはスピードが落とされ、ここから降りなきゃいけない日がくるのかも知れない。けど今はただ、ドキドキだけが強くて。ずっとこうしていられたらいいなと思った。
(阿部君がいれば、勝てる!)
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