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試験前には
 定期テストの直前は、部活も一切禁止になる。
 勿論、赤点はダメなので、みんなで真剣に勉強だ。グラウンドの代わりに教室に集まり、勇志で勉強会もした。
 相手校の攻略データは分かんないなりに理解しようって頑張れるのに、英語とか数学とかの攻略データは、どうして頑張れないんだろう。
「せっかく梅雨明けたのにぃ」
「ホントだ、ね」
 机にべたっと貼りついて愚痴る、田島君に同意する。
 前の中間試験も、結構ギリギリだったオレら2人。やらなきゃって焦ってはいるけど、頭になかなか入んなくて、自分でもちょっと辛い。
 うんうん唸りながら例題を1つ解いてると、「こーら」って丸めた教科書で頭をぽこっと叩かれた。
「みんな我慢して勉強してんだよ、文句言うな。試験終わったらすぐ開会式だぞ。開会式、出てぇだろ?」
 花井君の言葉に、オレも田島君も、鉛筆を握ったままこくこくうなずく。

「最低限ここだけ覚えろ」
 花井君は、教科書のあちこちに赤線引いてくれたけど、「最低限」の割に量が多くて、クリアできる気がしなかった。

 下校時間まで勉強会した後は、解散して大人しく家に帰ることになった。
「あー、勉強で1日が終わっちまうー」
 ごねる田島君に、「まだ言ってんのか」ってツッコむ花井君。
 そんな会話をぼうっと横で聞いてると、「一応進学校だかんな」って、後ろから声がしてドキッとした。
 振り向かなくても阿部君だって、声で分かる。
「こういう時、私立だと、部活禁止にならねぇとこもあるらしーぜ」
 って。
 それを聞いて「ええーっ」って叫ぶ田島君。
「ズリー、ズリー!」
 大声で喚いてるのを聞くと、オレだっていいなって思うけど、それよりドキドキの方が強くて、田島君に同調できない。

「諦めて勉強しろ」
「つーか、直前になって焦んのがワリーんだぞ」
 花井君の声より、阿部君の声の方が鼓膜にビリッとくるのはなんでだろう?
「お前は大丈夫か?」
 ドキドキしてるところに、気安く肩を叩かれて、飛び上がるくらいビックリする。
「オッ、レ……っ?」
「お前以外に誰がいるんだよ?」
 呆れたように眉をしかめられ、カーッと顔が熱くなる。
 変な返事したの、恥ずかしい。声が裏返ったのも恥ずかしい。このドキドキは、何なんだろう?

「だ、だいじょー……」
 心配させないよう「大丈夫」って答えたいけど、ホントは大丈夫じゃなくて、断言できなくてちょっと気まずい。
 阿部君の視線に耐えかねて目を逸らすと、「大丈夫じゃねーだろ」って、コツンと額を小突かれた。
 地味に痛い。けど、ドキドキし過ぎてそれどころじゃない。
 涙目になりながら小突かれた額を押さえると、目の前で大きくため息をつかれた。
「仕方ねーな、今から特訓だ」
 そんな言葉と共に、ぐいっと手首を掴まれる。
「う、えっ、どこ、でっ?」
 しどろもどろに聞くと、「お前んち」って言われて、じわじわ顔が熱くなる。

 オレんちって、またみんなで?
 そう思って花井君を見ると、大変そうだなって顔で、オレたちを見送ってた。
 田島君はっていうと、「頑張れよー」っていい笑顔で手を振ってて、ついて来る気はないみたい。
 じゃあ、もしかしてオレ、だけ?
 廊下を引きずるように歩かされながら、どうしようって思った。
 阿部君と2人だけの勉強の特訓、って。嘆いていいのか、喜んでいいのか、自分でもよく分かんない。
 掴まれた手首が熱い。
 オレの顔も熱い。

 阿部君の手は下駄箱の前で離れたけど、上履きからスニーカーに履き替えた瞬間、「行くぞ」って声を掛けられて――。
 自転車置き場まで行く道中、今度はずっと手を繋がれて、苦しいくらいにドキドキした。

   (ホントに勉強だけかぁ〜?)

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あきゅろす。
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