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自覚1つ
アベミハさんが恋に落ちたのは、『繋いだ手を離したくなかった別れ際』です。
#貴方が恋に落ちた瞬間はこちらです
https://shindanmaker.com/805239 より
梅雨明けしたと思ったら、気温も一気に跳ね上がった。青い空見てると気持ちイイけど、運動してるとすげー暑い。
素振りやラダートレーニング、ランニングパスなんかの練習の内はまだいーけど、ロードに出た後はさすがにフラつく。
風の吹く場所に転がったり、頭から水被ったり、服を脱いだりする連中が続出すんのも無理はねぇ。
ベンチでマネジが配り始めたスポドリを片手に、はあーっ、と深い息を吐く。ノドはカラカラに渇いてんのに、すぐに飲めねぇなんてバテてる証拠だ。
「田島ぁ、コラ、服脱ぐなーっ!」
大声で怒鳴りながら問題児を追い回す、花井をすげーなと感心して見守る。
ロード直後にあんだけ走り回る元気があんのは、単純にすげぇ。オレは無理だ。野生児の世話も無理だ。
「ははは、あいつら……」
転がったまま、力なく笑う誰かの声を聞きながら、コップに注がれたスポドリをあおる。
分かってたけど、やっぱ体が水分を欲しがってたらしい。冷たいスポドリはするっとノドを通り過ぎて、体の中に沁み渡った。
2杯目も飲み干し、ノドの渇きが治まると、ようやく落ち着いて周りが見れるようになってきた。
三橋は、と、うちのエースがふと気になったのも、それからだ。
きょろっと周りを見回して、あのぽよんとした顔を探すと、フェンス戸を入ったとこの草むらにバッタリと倒れてて、あーあと思った。
田島と同じくらい体力あるハズだけど、今日は体調悪ぃんだろうか?
それとも寝不足か? 腹が減ったのか?
マネジから三橋の分のスポドリを貰い、行き倒れになってるエースの元に大股で近寄る。
「おい」
声を掛けつつ、軽く脚先で尻をつつくと、「うう……」ってダルそうなうめき声が聞こえた。
「バテてねーで、水分補給しな」
側にしゃがみ込み、キャップの脱げた薄茶色の頭をぽんと撫でる。ふわふわの猫毛は汗でくったりボリュームを失くし、濡れた猫みてーに情けねぇ。
ほら、と促すと三橋はむくっと起き上がって、ぼうっとした目でオレの差し出すコップを見た。
「飲めよ」
オレからコップを受け取ってすぐ、ノドにがーっと流し込む三橋。ぷはっ、とガキみてーな息継ぎしてて、まだまだガキだなと思う。
田島とは違う意味でのガキだ。世話が焼けて仕方ねぇ。
ふうっと風の通る、夏の日差しの下のグラウンド。よく見りゃ西の空がオレンジになってて、もう夕方が近いって分かる。
けど日が暮れようとまだまだ練習は続くし。こんなとこでバテてる暇もねぇ。
「2杯目飲みてーなら、自分で注ぎな」
右手を差し出すと、マメとタコだらけの指がそこに触れた。努力の証に満足しながら、ぎゅっと握って引っ張り上げる。
立ち上がった三橋が「あ、あり……」って、言いかけてドモった。
ありがとうもすんなり言えねーのか、と、呆れ半分に聞き流す。三橋の手はじわじわ赤くなってて、握った手はほんのり熱い。
手を握れば相手のことが全部分かる……なんて前にモモカンに言われたけど、こうして触れてても、何考えてるかよく分かんねーし謎ばっかだ。
ベンチへと歩き出した途端、しっかり握ってたハズの手がほどけ、するっと自然に離れてく。
立ち止まるオレを置いて、ベンチの方に向かう三橋。
その手を放したくねぇ、と思わず追い駆けそうになって、我ながらドキッとした。
なんで放したくねーのか。なんで追い駆けてぇと思うのか。
なんで……一番近くにいてぇと思うのか。自分の気持ちに気付いたら、後はもう、流れを止めることはできそうになかった。
(遅ぇよ気付くのが!)
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