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ささやかな隠し事
露骨に機嫌をとるので、逆に都合の悪い隠し事がすぐに露呈してしまうアベミハ
#恋ともつかない
https://shindanmaker.com/736744 より




 それは、ピリッとしたほんの小さな痛みだった。
「あ……」
 ノートからビクッと右手を引いたけど、すでに遅くて、間もなく指先に血が滲む。
 真新しい大学ノート、使い始めはこうやって怪我することもあるぞ、って、阿部君から何度も注意されてたのに。どうしよう。
 慌ててキョドリつつ、でも授業中に席を立つこともできなくて、怪我した指をぱくっと咥える。
 舐めるとやっぱり、じーんとしみた。すぐに血は出なくなってホッとしたけど、シャーペン持つと1文字1文字が地味に痛くて、阿部君の注意をおろそかにしてた罰みたいだと思った。
 やたらと指先を気にしてたの、きっとバレバレだったんだろう。隣の席の女子が、そうっと絆創膏をくれた。
 ギョッとして振り向くと、人差し指を口元に当てて、黙るようにジェスチャーされる。
 ありがとう、って、お礼代わりにぺこっと深く頭を下げ、貰った絆創膏を見る。オレンジ色で、可愛い猫の絵が描いてあって、こういうの従姉妹が好きそうだなって思った。
 左手でおっかなびっくり貼った絆創膏は、ちょっと歪んで緩かったけど、ケガしたオレの指先を、痛みからちょっと守ってくれた。

 絆創膏のお陰で、しばらくケガのことは考えないでいられたんだけど……昼休み、廊下で阿部君にバッタリ出くわしたときに、あっ、と思った。
「よお、トイレか」
 声を掛けられて、ビクッとする。
「う、う、う、うん。きょ、今日は朝ご飯の後、も、トイレ行った、し。お昼ご飯、も、美味しく食べて、体調いい、よ。す、水分、ちゃんと取ってる、よ」
 日頃注意されることを自分から申告しながら、そっと右手を後ろに隠す。
「な、ナマモノも食べて、ない。今日のお弁当、は、おにぎりと唐揚げ、と、しし唐の素揚げ、と……」
 視線をあちこちに向けながら、お弁当の安全さをアピールしてると、なんでか不機嫌そうに、「ふうん」って言われて、ドキッと心臓が跳ね上がった。
 べ、別に誉めて貰おうと思ってた訳じゃない、けど、いつも通り「よし」とは言ってくれると思った、のに。不機嫌そうな顔されると、どうしたんだろうって不安になる。
 オレ、何か怒らすようなこと、した、かな?
 内心びくびくしながらそっと顔色を窺うと、ずいっと1歩近付かれた。

 男らしく整った、格好いい顔を寄せられて、居たたまれなくて1歩下がる。
「何か変だな。お前、隠し事してねーか?」
 そんな風にズバッと言い当てられた時は、ま飛び上がるくらいビックリした。
「な、な、な、な……」
 なんで、と訊きそうになるのを抑え、「何、も」って目を逸らす。
 じりじりと少しずつ逃げようとしたけど、ぐいっと右手を掴まれたら逃げることはできなくて――。
「何、コレ?」
 とっさにぎゅっと握り込んだ右手も、強引に開かされ、あっけなく絆創膏が見付かって、ホントどうしようかと思った。
 一気に周りの空気が冷え込み、ぶるぶると震える。
「お前、大会前だって自覚、あんのかよ?」
 低い声でなじられれば、「ご、めん」と素直に謝るしかない。
 ノートの使い始めは気をつけろ、って、何度も繰り返し注意されてただけに、うっかりミスは言い訳にならない。

 はあ、とため息をつかれて、ドキッとした。
「な、な、な、舐めてれば治る、し。ほ、放課後、には、ボール投げ、れる、よっ」
 オレの言葉を聞いて、ホッとするどころか「はあ!?」と顔をしかめる阿部君。
「投げさす訳ねーだろ。今日の投球練習は無しだ」
 そんなことを一方的に告げられて、でもホントに監督に訴えて無しにさせられそうで、ガーンとショックだ。
「見せてみろ」
 ちっ、という舌打ちと共に、べりっと剥がされる絆創膏。
「ほ、ホントに舐め、れば、治る、から」
 気まずさに顔も見れないまま、言い訳をぼそぼそ繰り返してると――。

「あ、そう。じゃあ、舐めりゃいーんだな?」
 そんな言葉と共にぱくっと指先を咥えられて、ぼんっと頭が爆発するかと思った。

   (な、な、な、舐め……っ!?)

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