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おかかの日
 午後からの練習試合、いい感じで勝利を収めた後、ランニングしながら学校まで戻った。
 反省会を兼ねたミーティングの前に、お茶とおにぎりで休憩する。
 ベンチ付近にみんなで集まり、適当に座ると、マネジの篠岡が「おにぎりでーす」といつものように20個のおにぎりを持って来た。
「今日はかつお節の日なので、おかか祭りでーす」
 マネジが言う通り、いつもなら海苔を巻かれたおにぎりに今日はおかかがまぶされてる。
「もしかして海苔切らした?」
 誰かのツッコミに、マネジが「えへへ」と笑って誤魔化す。
 「やっぱりかー」って笑ってるヤツもいたけど、オレは別に食えりゃ何でもいーし。海苔でもおかかでも、どっちでもよかった。

 ……アイツも、食えりゃいいって思ってそうだよな。
 すぐ向こうでおにぎりを頬張る、三橋の様子をちらっと見る。デカい口でがぶっとかぶりつき、頬をパンパンにして食ってる様子は、ハムスターか何かみてーだ。
 相変わらず、何も考えてなさそう。
 今この瞬間のアイツの悩みは、おにぎりの中身が何かってことくらいで、他は何もねぇに違いねぇ。
 まあ、下手に考えを回されて、オレに対抗してくるよりはいい。
 オレの指示に忠実に従い、オレの要求に素直に応え、オレだけ見て、オレだけに向けて投げてりゃいい。
 もくもくと幸せそうにおにぎりを食う三橋を見ながら、オレも1つ目を食い終わり、冷たい麦茶を流し込む。
「篠岡、お茶」
 言いながら立ち上がり、お代わりを貰うべく数歩歩いた先には三橋がいて――。

「今日の試合、まあまあだったな」
 2杯目のお茶を受け取りながら声を掛け、横に座ると、三橋はビクッと全身の毛を逆立てさせてて、それもまたハムスターみてーだなと思った。
 頬袋いっぱいにしてるとノド詰まらせんじゃねーか? そう思った途端、案の定メシをノドに詰まらせ、むぐむぐ唸ってて、おいおいと呆れる。
「ゆっくり食え」
 さっきマネジに貰ったばっかのオレのお茶を差し出すと、三橋はむぐむぐ唸ったまま、それを素直に飲み干した。
 ぷはーっ、と息を吐く様子も、やっぱ小動物みてーだと思う。
 おにぎり持つのとは別の手で、ふわっとした猫毛頭をポンと撫でる。不意打ちで触るとびびびびっとなるトコは、ハムスターってより犬だろうか?
 ふっと頬を緩めると、三橋はビックリしたみてーにオレを見て、それからギクシャクとうつむいた。

「カーブの切れも、今日は上々だった。調子よかったな」
 試合について誉めてやると、照れ臭そうにしつつも嬉しそうで、何よりだと思う。
 まだまだ誉められ慣れてねーけど、これからどんどん試合を重ねて、勝ち点を積んでけば、ちょっとずつでも照れがなくなってくだろう。
 自信をつけさせてやりてぇって思うのは、ウチの大事なエースだからか。それともコイツが、あまりに自信なさそうにしてるからか? それをもどかしいと思うからだろうか?
「もっと自信持っていーんだからな」
 頭に置いたままの手を、ぐりぐりと動かして頭を撫でる。
 まん丸の頭は思った以上に形がよくて、触り心地がいいなと思った。
「お前ら、犬とご主人様みてーだぞ」
 苦笑しながらそんなことを言って来たのは、泉だ。
「オレ、犬?」
 たどたどしく訊き返す三橋に、「阿部が犬なら大変だぞ」とか言い出す泉。

「ご主人様でも平気でマウントしそう」
 って。誰かのバカバカしい例え話に、周りのみんながドッと笑う。
「はあ?」
 じろっと睨み返してやっても、こっちの反論なんか聞いちゃいねぇ。いつもの裏グラの、いつもの夕方の光景。
 けどオレだって、わざわざ腹を立てる程コドモじゃねーし。バカバカしい会話には加わらず、隣で赤面したままの三橋を見つめる。
「オ、レ……」
 ぼそぼそと呟かれる声は、相変わらず小さくて聞き取りにくくて、要領を得ねぇ。
 けどみんながバカ話に盛り上がってる今、この瞬間、コイツの言葉を聞いてんのは多分オレだけで――。
 そんな些細なことにふと、なんでか優越感を覚えた。

   (オ、レ、い、犬は怖く、て)

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あきゅろす。
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