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コンビニと試着室
 外に出ると、もうすっかり暗くなっていた。そういや晩メシ食ってなかったな。どうすんだろ?
「なあ、三橋……」
 声をかけて振り向くと、すぐ後ろを歩いてると思ってた三橋は、ずいぶん後ろでうずくまっていた。
 ちっ、何やってんだ。
 オレは舌打ちして、奴のとこに戻った。

「何やってんだ」
 すると三橋は「うー」とうなって、顔を伏せたままで言った。
「ごめんね、阿部君。オレのわっ我がままのせいで、ホントにごめん!」
「あー気にすんな」
 オレは頭をガリガリ掻いた。三橋はまだうつむいたままで、さらに言った。
「いっ今なら帰れるよ、阿部君。阿部君だけでも帰っちゃったっていいんだよ。ホントごめん、今日はありがとう、みんなが来てくれて、オレ、助かったよ」

 今なら帰れる……というのは、ちょっとオレも考えないでもなかったけどな。

「バーカ、帰んねーよ」
 オレは三橋に言ってやった。
 確かに面倒くせーしメーワクでしかねーけど、意外に楽しくなくもねー。田島を姫抱っこさせられて、シャメまで撮られた花井よりマシだしな。田島なんかふざけて、ほっぺにちゅーとかしてたしな!

 思い出したらおかしくて、笑えて来た。
「阿部君……?」
 いきなり笑い出したオレを、三橋が不思議そうに見上げてる。
「なんでもねー」
 オレは笑顔で、三橋に手を差し出した。
「ほれ、おつかい行くぞ」
「う、うん!」
 三橋がオレの手を握り返す。オレはそれを引き上げ、立たせてやった。
「阿部君、ありがとう!」
「おー」
 オレ達は今度こそ、肩を並べて歩き出した。


 さて、コンビニに着いたのはいいけどさ。どうするよ、肝心の買い物。替えパンツはいいとして、コンドームとか!
 雑誌棚の方を見ながら近付く。衛生用品とかの類だろうから、髭剃りとかシャンプーとか歯ブラシの辺にあんだろ。あ、あった。
 何が違ぇーのか分かんねーけど、3種類くらいあんぞ。まあホントに使う訳じゃねーんだし、テキトーでいーよな。テキトーなヤツ。で、これを……レジに……?

 うわーっ、コレをチラ見してるオレを、誰かがチラ見してるよーな気がするーっ!

 手に取んのも人目が気になってムリなのに、よりによって、レジには女の店員しかいねーっ!
 こりゃ、男の店員のいる店まで行った方が良くねぇか? そう三橋に提案しようとして、ギョッとした。

 三橋!

 三橋は無造作に、カラフルな長方形の薄い箱を掴み、その上に掛かってた替えパンツも掴み、雑誌でも買うような平然とした顔で、レジに出した。
 しかもついでに、「フランクフルト二つ」とか喋ってる!

 漢だ! 漢だったんだな、三橋!

 オレは感動して、赤面した。やべぇ、惚れたかも知んねー。こんな買い物を平然とできるなんて、どんな心臓なんだ、三橋!
 店を出ながら「阿部君もどーぞ」って、フランクフルト棒を差し出した三橋に、オレはこの感動を伝えた。

「惚れ直したぜ、三橋! 一生ついてくぞ!」

 後になって思えば、やっぱきっと、寝不足でハイになってたんだろうな。
「阿部君!」
「三橋!」
 大声でお互いを呼びながら、コンビニの駐車場で抱き合ってしまった。


 なんかもう変に盛り上がっちまって、オレ達は三橋の家まで、フランクフルトを齧りながら、肩を組んで歩いた。三橋もご機嫌だったようで、変な鼻歌を歌ってた。
「おー、帰ったぞー!」
 意気揚々と凱旋したオレ達を待ってたのは、さらにハイテンションになってる連中の笑い声。

 何だ、オレ達がいねー間に何があった?

 酒でも呑んだかと思ったが、寝不足でみんな、おかしくなってんだろう。オレだっておかしーし。
 何か悪巧みでもしてたのか、田島がヒーヒー言いながら、三橋を手招きして何か話してる。

 素でゲラゲラ笑ってる連中を従え、すっかり目が据わった女王様が言った。
「女王様、だーれだ?」

 そして下される命令は、もう何というか、際どいものになっていた。
「9番、5番にマッサージしなさい」
「4番と7番、ハンカチ越しにチューしなさい」
「1番と2番、買ってきた物を試着しなさい」

 買ってきた物って……はあ? え、試着って?

「阿部君、どっち使う?」
 三橋に聞かれて、オレは迷わず即答した。
「パンツだ!」
 つーか、どっちっつったら、替えパンツしかあり得ねーだろ!?
 すると、みんなが「おおおーっ」とどよめいた。
 え、おかしいか? 普通パンツだろ?

「じゃあ決まったところで、1番と8番、2番を縛りなさい」

 ちょっと待て、なんでパンツの試着に縛りが必要だよ? あ、こら。手ぇ縛ったら、自分で脱ぎ履きできねーじゃねーか! それが狙いか?
「よせ、泉!」
 しかし泉は見たこともねーくらいの満面の笑みだ。
「三橋っ」
 三橋は真剣と言うより、必死な顔だった。だめだ。こいつはきっと、コンドーム買う恥ずかしさより、オレに怒鳴られる恐怖より、ルリへの服従心の方が上なんだ。
 悪ぃ、やっぱさっき言ったこと取り消すわ。オレ、お前には付いてけねー!
 
 一応の抵抗も空しく、オレはビニール紐で縛られた。

 そして、オレの前に全員が集まって、オレを見下ろした。
「女王様だーれだ」
 三橋ルリが言った。
 みんなが黙ってオレを見てる。
「……ルリ様です」
 仕方なく答えると、みんながニヤッと笑った。

「じゃあ、試着して来なさい」
 女王様が言った。
「ゲンミツに別室でな」
 田島が親指を立てた。
「阿部が暴れねーように、連れてってやるよ。階段危ねーかんな」
「三橋の部屋でいいねー?」
 泉と水谷がオレの両足を持った。
「そこまでする事ぁねーんじゃねーか?」
 花井がそんな偽善を言いながら、オレの両脇を持ち上げた!
「ごゆっくりー」
 栄口が手を振った。
「レンレン、しっかりね!」
 イトコに背中をバンと叩かれ、三橋が真剣に頷いた。
「大丈夫。オレ、優しくする!」

 何をっ? 何を優しくするって?
「オレ、そんなに上手くない、けど、下手でもない、よっ」
 何がっ? 何が上手い下手って?
 パンツの試着に関係あることか?
 それとも、もう一方の……。


 もしかして、オレ、犯られる!?


「やめてくれーっ!」
 階段の前まで運ばれて、体が斜めに持ち上がるのを感じた時、オレは無我夢中で叫んだ。

 すると、ここにいないハズの誰かの声がした。

「はい、カーット!」
 ムービーカメラを構えた西広が、言った。手のひらサイズハンディカムとかじゃなくて、何かデカイやつ。遠くからも隠し撮りできそうな感じの。
 みんながパチパチ手を叩きながら、俺の周りに集まってきた。
「お疲れさーん」
「おー、いいの撮れたなー!」
「三橋、役者だねー」
「うひ、褒められた」

 オレは降ろされた床に座り込み、連中の会話を呆然と聞いた。何がどうなったのか、全く理解できなかった。目も口も開けて、ぼうっとしてるオレを見て、連中はまた更に笑い転げた。

 ビニール紐を外され、花井に謝られて、ようやく理解した。


 つまり最初から……オレが最後に三橋邸に着いた時から、このドッキリは始まってたんだ。オレがターゲットになったのは、最後に来たからなんだ。つまりもっと早くに来ていれば、オレは腹抱えて笑ってる方の側だったんだ!
「くそっ!」
 三橋ん家のでかいテレビで見せられた映像には、コンビニ前で、オレと三橋が抱き合ってる映像まであった。
 つけて来てたんかよ。盗み聞きかよ。
「くそ」
 オレは悪態をつきながら、心に誓った。


 ゲンミツにリベンジだ!

  (終)


ああ、やっと最後まで書きあがりました。途中、グダグダな部分もありますが、また折を見て推敲したいと思います。
 ここまで読んで下さいました皆様、ありがとうございました。

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あきゅろす。
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