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ハチミツの日
――今日の晩ご飯――
 そんな一言を添えて送られてきた写メを見ると、ハチミツをたらーっと垂らしてる、すげー嬉しそうな三橋が写ってた。
 帰宅時間を知らせるいつものメールに、この返事ってちょっとヒデェ。
 晩飯……ハチミツ?
 まさか、と思いつつも、イヤな予感に胸が騒ぐ。
 三橋が嬉しげに垂らしてんのは、この間じーさんから貰ったっつー、外国銘柄の高級ハチミツ。オレにはどこがどう高級なのかよく分かんねーけど、雑味とか透明感とか何か、その辺の安物とは段違いらしい。
 別に、同棲中の恋人が何を食べようが何にハマろうがどうでもいーけど、ハチミツたっぷりのトーストを嬉しそうに食ってるの見ると、いかにも甘そうでげんなりする。
 まさか……晩飯の主食にアレ、って訳じゃねーよなぁ?
 パンがイヤだって訳じゃねーけど、やっぱ晩飯には米が食いてぇ。夜景の見えるレストランでフルコース食うならパンでもいいけど、仕事から帰った自宅でのメシには、やっぱ普通に米が食いてぇ。

 せめて、ハチミツがこぼれそうなトーストじゃありませんように……!

 神に祈りつつ、ノーコメントのままメールを閉じて、ケータイをポケットにしまい、駅を出る。
 ドキドキしながら玄関のドアを開けると、むわっとメシの炊ける匂いがして、心の底からホッとした。
「ただいまー」
 靴を脱ぎ、カバンを持ったままダイニングに顔を出すと、じゅうじゅうと肉の焼ける音がする。
「おかえ、りー」
 コンロの前に立つ三橋は、いつも通りのエプロン姿で、いつも通りにこやかだ。恐れてたハチミツトーストは影もなくて、杞憂だったかってため息が漏れた。
 だよな。さすがに晩飯にハチミツはねーよな。

「今日、ハチミツの日、だよー」
「あー、そう」
 三橋の申告に、適当に返事しながらカバンを置いてネクタイをほどく。
 ハチミツの日だったから、あの写メだったんかな?
 そういや8月、もう3日か。いつの間にか7月終わったんだな、と思いつつ、シャワーを浴びてダイニングに戻ると、ちょうど肉も焼けたらしい。皿の上にはこんがり焼けた、鳥肉のソテーが盛られてた。
 メシを茶碗に盛り、箸を並べる。
「ハチミツって何だったんだ?」
 イスに座りながらふと訊くと、三橋は「肉っ」っつって、自慢げに笑った。
「肉?」
 首をかしげながら、目の前の皿の肉を見下ろす。
 もしかして……ハチミツ味? いや、照り焼きとか、料理に砂糖使ったりもするんだし、ハチミツだってアリ、だよ、な?

 飯作りのほぼ全般を三橋に任せっきりの現在、ハチミツがアリかナシか、その知識すらなくて、判断つかねぇ。
「美味いっ」
 肉を頬張り、美味そうに頬を緩めてんのを見ると、どうやら三橋的にはアリらしいけど、ちょっと怖ぇ。
 ハチミツのこぼれそうなトーストだってビミョーだと思うのに、ハチミツたっぷりの肉って。大丈夫か?
 ドキドキしながら箸でつまみ、気合入れてえいっと肉を口に入れる。
 食った瞬間、口の中に広がったのは、マスタードの辛さで――。その後ハチミツのほんのり甘さを感じたけど、すげー美味くて意外だった。

「ハチミツ、これか……」
 感心しつつ、肉を咀嚼し、メシを食う。
「やっぱ、いいハチミツだと美味い、よねっ」
 にへにへ笑いながらの主張は、やっぱよく分かんなくて同意しにくいけど、照り焼きとは違う味わいがあって、確かにハチミツも悪くねぇなと思った。

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あきゅろす。
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