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スイカの日
どういうゴロ合わせなのか知らねーけど、7月27日はスイカの日らしい。
「スイカ、安かった」
にへっと笑いながら、三橋が半分に切られたデカいスイカを取り出した。
さすがに丸ごと買わねぇ理性はあったのか、と感心したら、どうやらもう半分は野菜室を占拠中らしい。
「さっさと食べないと、困る、でしょ」
って。キリッとした顔で大胆に切り分けてるけど、口の端がによによ緩んでて、ちっとも説得力がなかった。
「腹壊すぞ」
やれやれと呆れながら、スイカを待ってテーブルにつく。
スイカと食い合わせがワリーのって、何だっけ? さっきメシ食ったばっかだけど、大丈夫だよな?
ふと不安になって三橋を見たけど、「ふんむー」って気合入れながら包丁使ってる時に、声かけんのもちょっと怖ぇ。
黙って見守ることにした。
やがて4分の1に切られたスイカが、でーんと皿に乗せられ、目の前に置かれた。
「いや、ちょっと多くねぇ?」
しかも、それ以上切られてねぇ。丸かじりしろってか? と顔をしかめるオレの前に、「はい」と三橋がスプーンを突き出す。
「多かったら、残してもいい、よー」
って。どうやら三橋本人は、4分の1スイカをキッチリ食う気でいるようだ。
「腹壊しても知らねーぞ」
取り敢えず忠告して、真ん中にスプーンを突き刺す。
よく熟れたスイカは、真ん中がじゃりじゃりでキレイに赤い。ひと口すくって口に入れると、すげー甘くて、おおっと思った。
「完熟だって。早く食べないと、ねっ」
にこにこ笑いながらスイカを貪る三橋。同じくスプーンを使ってんのに、もうかなり食ってるようだ。
「スイカと言えば、田島君だねー」
「はあー? そうかー?」
高校時代のチームメイトを懐かしそうに口にして、三橋はちょっと嬉しそうだ。
ぶひっ、と行儀悪く吹き出して、何を思い出し笑いしてんのか。気になるけど、きっとガックリ来そうなバカげた思い出話なんだろう。
「口元、垂れてんぞ」
スイカを食いながら指摘してやると、「うおっ」と焦ったように右手でぬぐってて、まるでガキみてーだと思った。
スイカを食った後は、漬物にするらしい。
「赤いトコ、ちょっと残しといてね」
そう言われて、「おー」とうなずく。もうすでに腹はたぷたぷで、張らせるほどの食い意地もねぇ。
「カブトムシ、みたいに食べないで、ねっ」
「どんな食い方だよ」
ぶはっと吹き出してスプーンを置くと、「田島君、がっ」って。
どんなバカなやり取りがあったか、まったく覚えてねぇのがちょっと惜しい。
田島んちのあの広い庭、夏のひと時、大家族に囲まれてオレらも一緒にわいわい過ごしたのを思い出す。
2人で食べるスイカも美味いけど、みんなで競うように食った、あの夏のスイカも美味かった。
「明日も、スイカだよー」
嬉しそうに皿を片付ける三橋に、「分かってる」って苦笑する。
そういや最近、アイツらとも会ってねぇなと懐かしくなった。
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