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三橋の自撮り
出来心で自撮りをしている所を相手に見られ、本気の追いかけっこが始まるアベミハ
https://shindanmaker.com/687454より
「３者面談、だから」
そう言って、三橋が髪をさっぱりと切って来たのは、週末の昼下がりのことだった。
「ああー、３者面談。あったなぁ」
中学高校の日々は遠いが、思い出すと懐かしい。
オレはそんな成績悪くなかったし、高校受験でも大学受験でもそんな苦労はなかったけど、三橋はどうやら違うらしい。
「憂鬱だった、よね」
って、しみじみと呟いてた。
その憂鬱は、教師になった今でもやっぱり感じるらしい。教師なんか言いたい放題言ってるイメージあったけど、すげー気ィ遣うんだとか。
「気が、重い……」
どんよりしながら肩を丸め、はぁー、と息をつく。この間まで、寝る間も惜しんで成績つけんの頑張ってたのに、ご苦労なことだ。
受け持つ生徒の成績を付け終わった今、三橋に必要なのは、３者面談に立ち向かうための気合なんだとか。
そう言われると、散髪行って鼻息荒く帰って来たのも、まあうなずける。
「さっ、ぱり！」
短く刈り上げた襟足を、鏡の前でにんまり確認する様子は、何か可愛くて微笑ましい。
「ネクタイも、新しくした」
じゃーん、と見せられた新品のネクタイは鮮やかなスカイブルーで、晴天を願う気持ちがありあり溢れてる。
「おー、格好いいじゃん」
「で、しょー？」
にへっと笑う三橋が可愛い。
「おお、すげーすげー。似合ってる。念の為、スーツに合わせた方がいいんじゃねーの、先生？」
冗談半分で誉めて煽ると、三橋の方もノリノリで、「分かった」ってクローゼットの方に飛んでった。
夏は、ポロシャツとかでも出勤してんの見てるから、ちゃんとスーツ着るのも久々だろう。
３者面談の為にって、わざわざクリーニングに出してたスーツは、きりっとプレスされてて格好いい。
自分でも満足したんだろう。むふー、と嬉しげに笑いながら鏡を覗き、ケータイを取り出して自撮りまでしてる。
こんな浮かれてる三橋、珍しい。
緊張の表れか？ 睡眠不足でハイになってんのか？
くくっと笑いながらオレもこっそりケータイを取り出し、自撮りしてる三橋をパシャッと撮ると――フラッシュでそれに気付いたらしい。
「ふおっ、ああっ！」
奇声をあげて、三橋がぶわーっと真っ赤になった。
「ちょっ、阿部君！」
ダッと飛び掛かられて、ひょいっと避ける。
「隠し撮り、ダメ！」
「いーじゃん、可愛かったし」
くくっと笑いながら逃げ、ダイニングテーブルの向こうに逃げると、「消して！」って言いながら手を伸ばされた。
そのままテーブルを挟み、右回り、左回り、ぐるぐるとケータイを巡って２人、向かい合う。
真っ赤な顔で、子供みてーに怒る三橋に、教師らしい威厳なんかなくて。やっぱオレにとってコイツは、「先生」じゃねーんだなって、しみじみ思った。
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