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駅弁の日
 いつものようにスーパーに2人で買い物に行くと、汽車ぽっぽの歌が売り場の奥で流れてた。
「何かやってんのかな?」
 そう言って、ふらーっと歩き出すの、ホントやめて欲しい。
「もうー、阿部君!」
 文句を言いながらカートを押し、阿部君の後をついて行くと、やがて「駅弁フェア」の赤いのぼりが目に入った。
 大き目のワゴンにいっぱい盛られた駅弁が、汽車っぽっぽの歌と共に売られてる。
「えきべーん、駅弁はいかがですかー」
 ハッピを来て、声を張り上げてるのは売り子のお兄さんだ。一瞬、お姉さんじゃなくてよかったと思ったけど、そういう問題じゃない。
「へえ、駅弁かぁ……」
 ニヤッと笑いつつワゴンに寄ってく阿部君は、もう絶対買う気満々だろう。

 ちらっと覗くと、いろんな地域の代表的な駅弁が並んでるって分かった。
 釜飯、イカ飯、ステーキ弁当、あなご弁当、しいたけ弁当、キャラクターのついた、子供ウケのよさそうなのもあって、色々、だ。
「おっ、群馬のあるぞ、群馬」
 さっと手に取って舞茸系の駅弁を取ってくれたけど、群馬のはいつでも食べられるし、珍しさとトキメキが足らない。
 焼きまんじゅうは大好きだけど、さすがに焼きまんじゅう弁当は見たことないから、どうでもよかった。それより、他の地域のが食べたい。
「も、もっと遠くのトコ、のが、いい」
 ぼそっと文句を言うと、ハッピを着たお兄さんが「いらっしゃい!」ってオレたちに威勢よく声を掛けてきた。
 ぱっと顔を向けると目が合って、ニカッと笑われて「うぐっ」となる。
「遠い地域のお弁当でしたら、鹿児島の黒豚とか北海道のカニなんかどうですか?」

 ぱっと指で差され、見本品を見せられた瞬間、じゅわっと口の中によだれが溢れた。
「く、黒豚、とカニ……」
 黒豚も美味しそうだけど、カニもすごく捨てがたい。ぷりぷりのイクラがちょこっと乗ってて、それもすごく美味しそう。けど、カニやイクラって定番、かも、だし、だったら黒豚の方がいい、かな?
 それともやっぱり、肉といえばステーキ弁当? あ、松阪牛とか、牛タンもある。
 ごくっとノドを鳴らしながら、あれこれ見比べるけど、選べない。
 阿部君はどうするんだろう? どうせなら、被らないように買って、半分こするんでもいい、よね。
「ど、どう、しよう?」
 隣にいるハズの阿部君に、迷いながら声を掛ける。
 けど、いつもなら「何が?」とか、すぐにくれる返事が聞こえない。
 あれ? と思って顔を上げると、さっきまで一緒にワゴンを覗き込んでた阿部君が、いつの間にかいなくなってて「うえっ!?」ってなった。

「あ、べ君?」
 きょろっと視線を巡らせても、もう彼がどこにいるのかも分かんない。
 阿部君は自由だ。ちょっと目を離すと、ふらーっとどっかに行っちゃうの、ホント相変わらずで、もうーってなる。
 カートを見ると、いつの間にかステーキ弁当が買い物かごの中に入ってて、がっくりと力が抜けた。
 ……オレ、そんな長いこと悩んでなかった、よね?
 はあー、とため息つきながら、黒豚弁当に手を伸ばす。肉と肉で被るけど、豚と牛だし、きっと同じじゃないだろう。
「毎度ぉ!」
 お兄さんの愛想いい声に見送られ、カートをガラガラ押して野菜コーナーに移動する。
 阿部君の姿は、野菜コーナーにはなくて。

「お前、どこ行ってたんだよ?」
 そんな理不尽なこと言われながら、彼と合流できたのは、レジに並ぶ直前だった。

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あきゅろす。
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