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ラーメンの日
――今日、ラーメン食いに行こう――
阿部君から昼休みにこんなメールが送られてきて、「またか」って思った。きっと会社で、誰かから美味しいラーメンの話、聞いたんだ、な。
でもこんな風に、「ちらし寿司食べたい」とか「肉食べたい」とか連絡来るのは珍しくないから、オレも大概慣れっこだ。
夕飯を作り始めてからならともかく、こんな風にお昼に連絡くれるなら、まだそんなに突然じゃない。
――ラーメン、どこ?――
さっそく返信すると、しばらくしてから待ち合わせ場所が送られてきた。
案の定、阿部君の会社の最寄駅だ。
待ち合わせは夜の8時で、じゃあ、一旦帰った方がいいのかな?
一緒に住んでると、こんな風に外で待ち合わせすることも滅多にないから、何だか特別みたいで楽しい。
ケータイを眺めながらにへにへと笑ってると、同僚の先生に、「デートですか?」ってからかわれた。
「ら、ラーメン、食べようって」
素直に暴露して、ケータイをしまう。
「へぇー、いいですねぇ」
「若いなぁ」
口々にそう言われ、「う、へ」と照れた。
「今日、ラーメンの日ですもんね」
と、そう教えてくれたのは、どの教科の先生だろう。
「おお、そんな日あるんですかー」
「じゃあボクも久々に食いに行くかな……」
雑談にわく職員室、「いい、です、ね」って適当に相槌を打ちながら、和やかな昼休みをみんなと過ごす。
オレだって、教え子たちとそんな年が離れてないハズなんだけど、こんな時はやっぱ、もうオトナなんだなぁって思う。
まだまだ若手なハズなのに、教え子たちのノリについていけない、し、言ってる意味も時々分かんない。
「先生、それ普通言わねーし」
とか、この間言われてガーンとなった。
でも、さすがにラーメンは、共通語、だよ、ね?
午後の授業の確認をしながら、ふっと手を休めて職員室の窓を見る。窓の外はまだ明るくて、待ち合わせ時間までもまだまだ遠い。
待ち合わせなんだし、このままの格好で行こう、かな?
ああ、でも、ラーメンのニオイついちゃうし、やっぱり着替えて行こう、かな?
予鈴の音を合図に、雑談してた先生方が、やれやれと席から立ち上がる。
「さあ、午後もやりますか」
「居眠り少ないといいですねぇ」
苦笑しながら、それぞれの教室に向かうみんな。オレもそろえた教材を抱え、先生方の後に続く。
「三橋先生も、ラーメンのために頑張ってください」
次のコマ、授業のないらしい先生に見送られ、「は、い」とうなずく。
ラーメンも勿論楽しみだけど、デートそのものも楽しみ、だ。
でもまずは、仕事をきちんと終えないと、楽しい気分でデートできない。
ざわめく廊下を早足で歩き、生徒たちのちらちら見える校舎を進む。本鈴のチャイムの音が鳴り響くのは間もなく、で。
ガラッと教室のドアを開けると、日直が「きりーつ」ってみんなに立ち上がるよう合図した。
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