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三橋邸
 泣き出した三橋に、田島と泉の兄ちゃんズが声を掛けた。
「よし、オレらも行ってやるよ」
 三橋の説明を聞いて、田島がドン、と胸を叩く。
「土産なら、うち用の分けてやってもいーしな」
 おお、それはいいアイディアだ。そう思ったが、三橋は首を振った。
「ダメだよ、アレじゃ、余計に怒る……」
「えー、そうか?」
「いやー、マジ田島、アレはマジーわ」
 三橋と泉に否定されて、田島は首を傾げてる。アレって何だ? ちっと気になったが、それよりさっきの、いいアイディアだ。
 オレはみんなに聞いてみた。

「誰か、三橋に譲ってやれそうな、いい土産、ないか?」

 みんなは顔を見合わせた。まあ、そうだよな。オレだって買う暇無かったし、わずかの時間に買ったんなら、そりゃ大事に思うよな。
 花井がキャプテンらしく、みんなに訊いた。

「何か土産買ったやつって、どんくらいいんの?」

 はーい、と元気良く手を上げた田島の他には、沖と西広と栄口。栄口は姉と弟に、西広は年の離れた妹に買ったって言うから、こりゃ取り上げちゃ気の毒だよな。
「じゃ、沖は……?」
 みんなの視線を向けられて、沖は慌てたように、バッグを後ろに隠した。

「これはダメ! 絶対喜ばないし、興味ない、と思うから!」

「えー、そんなの見てみなきゃ分かんねーじゃん!」
 田島が素早くバッグを奪い取り、花井の制止よりも早く、中から紙袋を取り出した。
「あれー、本じゃん。結構重いなー、写真集?」
 遠慮も躊躇も無く、紙袋をビリビリ破く田島。わーわーと慌てて隠そうとする沖。やがてみんなに晒されたのは、京阪神限定発売の、舞妓さんの写真集だった。

「沖ー、お前、どんだけ和服好きなの?」

 田島にからかわれ、沖は真っ赤になって言った。
「違うよ! これは芸術なんだよ! やましい心で見るんじゃないんだ、鑑賞するもんなんだよ!」
 熱弁をふるえばふるう程、気の毒に見えてくるのは何でだろう。オレは沖の肩をポンと叩いてやった。沖は心で泣いていた。


 結局いい土産も見つからず、夕方には来ると言う三橋のイトコに、一緒に謝ってやることにした。同行するのは、オレ、田島、泉、花井、栄口、そして水谷だ。
 各自一度帰宅してから、午後に三橋の家に集まると決めて、解散した。今日は遠征直後なので、練習は無しだ。オレはとにかく、少しでも眠りたかった。

 三橋の家に泊まると告げると、親から色んな物を持たされた。貰い物の水羊羹セットに、貰い物の缶ジュースセット。明らかにお中元の残りだが、まあみんな、タダで貰える物に文句も言わねーだろう。
 自転車で三橋ん家に向かうと、もうすでに自転車が5台停めてあった。どうやらオレが最後らしい。何だ、遅れたか? と思ったが、別に集合時間を決めてたわけじゃないから、遅刻って訳でもない。

 みんなそんなに三橋のイトコが見たかったのか?

 ちょっと呆れながら、呼び鈴を鳴らす。すぐにドドドドド、と足音がして、田島が玄関を開けてくれた。
「おー、待ってたぜ!」
「おじゃましまーす」
 一応声を掛けて、奥へと進む。どうやら二階じゃなくて、この前カレーを食った、居間の方に行くらしい。

「阿部登場ー!」

 田島と共に居間に入ろうとして、びくっと足を止める。おいおい、何があった?
 ロウテーブルの上で、三橋のイトコが腕組みをして仁王立ちになっている。
 そしてみんなはと言うと、床に土下座して、頭をこすりつけていた。
「阿、部君っ」
 三橋の顔がぱっと上げられるが、すかさずイトコの女が言った。
「頭が高い!」
「ひいっ」
 三橋がみっともない悲鳴を上げた。何だ、この奴隷扱い? いくらイトコでもヒド過ぎねーか?
 オレが怒りを隠せずにいると、横にいた田島が、ぐいっとオレの頭を押さえて座らせた。そしてごにょごにょと囁いてくる。
「三橋は弱み、握られてんだ。阿部、頼むよ、あいつのために我慢してくれ」
 一体どんな弱みを握られたら、こんな扱いになるんだ? けど、みんながオレに目配せしてくるし、三橋はもう泣きそうだし、付き合ってやるしかねー。
 オレは小声で「くそっ」と悪態をつきながら、同じように土下座した。

「じゃあ、全員揃ったところで、女王様ゲームやるわよ!」
 三橋ルリが、高らかに宣言した。
 オレ達下僕は、テンション低く、ぱちぱちと拍手した。

「女王様だーれだ?」
 ルリが歌うように言う。
 みんなは応えねー。三橋だけが、すっげー小っちぇー声で、ごにょごにょ言った。
 ルリの眉が逆立った。

「レンレン、答えなさい! 女王様だーれだ?」
 三橋はひぃっと息を吸い込んで、大声で言った。
「ルリ様です!」

 そりゃーこの仲に、女は一人しかいねぇから、「女王様」って段階で、ルリに決定だ。しかし、なんて強引さなんだ。
 もう一度、より大きな声で、ルリが言った。
「女王様だーれだ?」
 オレ達は声をそろえて、それに答えた。
「ルリ様です!」

 ようやく満足してくれたようで、女王様がドスンとソファーに座った。オレは忘れないうちに、と、親に持たされた水羊羹とジュースを出した。
 女王様が言った。
「1番と9番、お茶の用意をして来なさい」
 くじも引いてねーのに、その番号は何なんだ? と疑問に思うよりも早く、三橋が花井を促した。
「は、花井君、行こう」

 なるほど、背番号なのか。けどオレ達全員揃ってるわけじゃねーのに、よく分かるよな。

 その後も、ルリの背番号命令はしばらく続いた。
「5番、残りのジュースを冷やして来なさい」
「7番、8番を上に載せて腕立て10回」
「4番、なんか歌いなさい」

 そして最後に、ルリが言った。
「1番と2番、コンビニで恥ずかしいものを二つ、買って来なさい」

 はあ? なにそれ、どんな命令だよ?
「恥ずかしいものって、何だよ?」
 すると、女王様は言った。
「5番、恥ずかしいものを指摘してやりなさい」
 うわ、よりによって田島かよ。人選ミスだろ!
 予想を裏切らず、田島が「はいはーい」と元気良く答えた。

「そりゃーコンドームと、エロ本だよな。でもエロ本は多分買えねーから、替えパンツな!」


 コンドームと替えパンツ。エロ本よりゃマシだけど、スゲー破壊力だ。マジ買えっかな。
「おら、行くぞ」
 オレは三橋を促し、三橋邸を後にした。

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あきゅろす。
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