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12 三橋君、呑まされる
 昼メシをご馳走するよ、と言われて連れて行かれたのは、阿部さんの実家だった。
 そこで会った五歳違いの弟さんは、阿部さんにそっくりだった。もし阿部さんがオレと同い年なら……きっとこんな感じなんだろうなって、ちょっと思った。
 弟さんは花井君の元チームメイトで、花井君と同じ、阿部さんの高校の後輩らしい。そして、同じくキャッチャーなんだって。
「うわ、兄ちゃんズリーよ! オレだって噂のダブルエースの球、受けてみたかったのに!」
 弟のシュン君が喚くのを、阿部さんは「はいはい、悪ぃ悪ぃ」と簡単にあしらってる。
 そっか。五歳違うと、ケンカになったりしないんだ。やっぱり子供扱いになっちゃうのか、な。
 阿部さんとシュン君のやりとりを見ながら、そんな事を考えた。

「もうちょっとしたら、花井も来るから」
 初めてのよそ宅で、緊張してるのが分かったのか、阿部さんが言った。
 それを聞いて、少し気持ちが楽になる。
 阿部さんはいい人だし、シュン君も話しやすい感じだけど……友達の家に遊びに行く、という経験のあまりないオレには、ここでくつろげって言うのは、やっぱりちょっとハードルが高い。
 それに、予想外とはいえ、手ぶらで来ちゃったことも……何だかすごく恐縮だった。


 阿部さんとシュン君が、和室に大きな座卓を運んで来た。その上にでん、と置かれたのは、大きな寿司桶。中には散らし寿司が山盛りに入っていた。
「お客さんは座ってろ」
 そう言われたら、よそのお宅をうろつくのも失礼な気がして、和室に座ったまま動けない。 
 やがてお皿とかグラスとかが用意された時……大きな男の人が入って来た。
「やあ、初めまして!」
 声の大きいのに、ギョッとする。
 よく見ると、恰幅はいいけど、阿部さんやシュン君にそっくりだ。阿部さんのお父さんなのかな。

「甲子園、見てたよー、三橋君!」

 阿部さんのお父さんは、どっかりとオレの横に座り、「三橋君はイケル口か?」と言いながら、オレの手にグラスを持たせた。
 え、と思う間も無く、グラスにビールが注がれる。
 ど、ど、どうしよう?
 うろたえるオレに構わず、小父さんは手酌でビールを注いでいる。そしてそのグラスをオレに向けて、「エースに乾杯!」と言った。
「か、乾杯……?」
 チン、とグラスが打ち合わされる。
 こういう場合……一口でも飲まなきゃ、失礼、だよね?
 オレはグラスに、ちょっとだけ口をつけた。

「あ、こら、親父。無理矢理呑ませんなよ?」
 阿部さんが、ちょっと怒ったように言った。
「三橋、すきっ腹だと回っちまうぞ。先に食っとけ」
 そう言って、散らし寿司をお皿に盛ってくれる。
「あ、す、すみません」
 座卓の上にはお刺身や、山盛りのサラダも運ばれて来た。
「あーいいな、オレもビール!」
 から揚げのお皿を持って来たシュン君が、小父さんにグラスを差し出した。
 阿部さんだけは、2リットルペットのお茶を、自分のグラスに注いでいる。

 オレがじっと見てるのに気付いたのか、阿部さんがにやっと笑った。
「大丈夫、お前がつぶれても、ちゃんと送ってってやるよ」
 そして、お茶の入ったグラスを掲げ、オレに乾杯を促した。
 チン、とグラスが鳴った。
「今日はあんがとな」
 阿部さんの笑顔に、ドキンとする。
「お、オレこそ、ありがとうございました!」
 カアッと頬が赤くなったのが、自分でも分かった。


「おお、三橋君、もう酔ったのか? まさかなー。さあ呑んで呑んで」
 小父さんが、オレの目の前でビール瓶を傾け、早く呑めと促した。半分呑むと、呑んだ分だけ注がれる。
 その内、花井君もやって来た。
 オレのコントロールがいかにスゴかったか、って阿部さんと二人で盛り上がるもんだから、オレはすっごく恥ずかしくて……照れ隠しに随分呑んじゃった。
「捕手4人に投手1人だなー」
 小父さんが言った。
 ってことは、小父さんもキャッチャーだったのかな?

 次々に注がれるビールを、次々に飲み干しながら、ぼんやりとそう思った。

(続く)

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