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三橋君と次の朝
阿部さんの凶根がようやく収まりを見せたのは、夜が明けてからだった。
その間に彼は2回射精して、2回目の後、オレの中に挿入したままちょっと寝たらしい。
オレは気絶したのか寝たのか、もうよく覚えてなかった。ただ、名残みたいに中が熱くて痺れてて、夢じゃない証拠になっていた。
何時間挿れっぱなしだったんだろう? 怖いくらいの大穴が開いてる気がする。
腰も痛い。
途中からゴム着けてくれてなかったから、中もきっと濡れてる。
でも――朝風呂とか、無理だろうな……。
そっと裸の胸を見下ろし、頬をじわっと熱くする。
すっごい数のキスマークだ。背中とか首とか、見えない場所がどうなってるかも分からない。
お風呂どころか、浴衣で朝食取りに行くのもためらうレベル。
っていうか、ロッカールームで浴衣から私服に着替えるのも、ちょっと。
結局サウナも行ってないし、夜空を見ながら露天風呂も入ってないし、浴衣で散歩もできてない。
でも、阿部さんのせいだけど、阿部さんが悪いんじゃないし、阿部さんだって辛そうだったんだから仕方ない、よね。
「はー、もう当分勃ちそうにねーわ」
阿部さんがしみじみと言った。
目が赤い。寝不足? それとも疲れ過ぎかな?
ふと見ると、阿部さんの体には、引っ掻き傷がいっぱいついてる。
え、うわ、あれ全部オレ、かな? でもオレしかいない、けど。
さーっと顔から血の気が引いた。肩口には歯形もついてる。
昨日、一緒に水着温泉に入った時は、すごくキレイな裸だったのに――これ、やっぱり阿部さんも、朝風呂入りに行くの、無理だ。
「ご、ごめんな、さい、オレ、これ……」
そっと歯形を指でなぞると、「気にすんな」って言われた。
「いーんだよ。前にも言ったろ? 爪痕も噛み痕も、勲章みて―なもんだって」
そう言えば、前にも同じこと言われたなって思い出す。
「善かったんだろ?」
くくっと笑われて、カーッと顔が熱くなった。
オレ、声とか大丈夫だった、かな?
懸命に抑えてたつもりだったけど、途中から記憶がない。
旅館とは違うから、廊下には部屋の中の声、響きやすいんだよね? 大丈夫……かな?
でも、トイレすら部屋の中には無いから、イヤでも閉じこもってる訳にはいかなくて。
オレは阿部さんの手を借りて、もっかい浴衣を着直した。
大穴が開けられちゃったお尻から、じわーっと水分が出て、太ももを伝う。
お風呂で洗えないなら、トイレで出してしまわない、と。浴衣も汚しちゃうし、私服も汚しちゃうと思う。
特に、浴衣なんてレンタルなのに――独特のニオイのシミを着けて返却とか、恥ずかしくて絶対にイヤだった。
座ったらもう立てないような気がしたので、浴衣を着てすぐ、そのまま部屋の外に出た。
「トイレ、行って来、ます」
「1人で行けるか?」
阿部さんはちょっと心配そうだったけど、「だ、大丈夫、です」って付き添いを遠慮した。
体はホント大丈夫なんだけど、まっすぐに歩けなくてちょっと困った。酔ってないと思うけど、酔ってる時みたいにくらくらする。
寝不足? よく分かんない、けど、頭の芯がぼーっとする。
ウォシュレットで洗いながら目を閉じると、すーっと意識が薄れてってヤバかった。
阿部さんは……同じく寝不足だと思う、けど。運転、大丈夫なの、かな? ちょっとだけ心配になった。
温泉施設全体が、9時には1度全閉館するらしい。だからかな、他の泊まりのお客さんも、慌ただしそうに支度してる。
朝風呂でさっぱりして来た人を見ると、いいなぁって思うけど……帰るまで我慢、だよね。
朝ご飯食べるのは後にして、ロッカールームが混まないうちにって、さっさと私服に着替えに行く。
プールみたいに個別のブースがあればいいんだけど、ホントに銭湯の脱衣所と一緒で、ロッカーとベンチしかない。
でも、泊り客はそんなにいないみたいで、周りのロッカーは空きだらけだった。
着替えた後は、もうすぐにお会計して駐車場に向かった。
普段は「うるせー」って言って使わないのに、珍しくカーナビのスイッチを入れて、阿部さん、コンビニを探してる。
「あー、頭痛ぇ」
運転しながら阿部さんが言った。
「あっ……」
頭痛薬持ってますよ、と言いかけてためらう。薬はもう、こりごりだ、よね?
『100m先を、左です』
カーナビの女声音を聞きながら、オレは助手席でちょっとキョドった。
元々スッキリと広めの直線道路だったから、コンビニの場所はすぐに分かった。
駐車場が裏にあって、そこまではナビも教えてくれないからちょっと迷ったけど、それでもすんなり駐車できて、ホッとした。
車を駐車スペースに停め、阿部さんがギギッとサイドブレーキを引く。
「オレ、買って来ます。何がいい、です、か?」
シートベルトを外しながら訊くと、阿部さん、ホントに辛いみたい。「ワリーな、頼む」って言って、ハンドルに伏せちゃった。
えっと、何を買えばいい、かな? ご飯系? パン系?
でも、辛そうにしてるのに訊き辛くって、おにぎりとサンドウィッチとホットコーヒーを買った。
後、念のためにミネラルウォーターを1本。
どうしても辛いなら、やっぱり頭痛薬、飲んだ方がいいと思って。
車に戻ると、真っ先に阿部さんが手を伸ばしたのはコーヒーだった。
「あー、サンキュ」
しんどそうにそう言って、何も入れないままで紙コップに口を付けてる。
やっぱり寝てないからだろう、な。
だったら無理に運転するより、1時間でも仮眠した方がいい。
このまま、この駐車場にいたらメーワク、かな? シートを倒して、目元に温かいお絞りでも当てて……。
と、思った時。
「……ちょっと休憩してっていーか?」
阿部さんが言った。
「うお、はい。勿論、ですっ」
てっきりシートを倒して、ここで仮眠するんだと思ったのに――阿部さんはシートベルトをはめ直し、車のエンジンを起動した。
いつもより丁寧な運転で、ゆっくりと走り出した車が向かったのは、湾岸線沿いのラブホテルだった。
(続く)
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