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三橋君と水着温泉
 脱衣室で浴衣を脱いで、水着だけになって外に出た。
 ガラス張りの廊下から1歩外に出ると、さすがにちょっと肌寒い。まだ3月だもん、ね。
 まず入ったのは、岩風呂っぽい大きな温泉。滝まである。
 え、あれもお湯かな?
 じゃぶじゃぶと真ん中まで行って肩までつかると、お湯が温かくて、ホッとした。
 つかってるのはオレ達だけじゃないのに、広く感じるのは露天風呂だからかな?
 バシャバシャとバタ足してる子供もいたり、それを叱るお母さんもいたりするんだけど、声が反響しないせいか、うるさく感じない。

 足を延ばして周りの景色をキョロキョロ見てたら、阿部さんが横でザバッと立ち上がった。
「三橋、洞窟だ」
 指差す方を見ると、滝の横、奥の岩場に確かに入り口っぽい穴がある。
 え、でも、入っていいのかな? そう思って見てたら、穴の中から小学生くらいの男の子が出て来た。
 あ、なんだ、入れるのか。
「ほら、行くぞ」
 阿部さんがそう言って、オレに手を貸して立たせてくれた。
 そして、そのままオレの手を引っ張って、お湯の中をじゃぶじゃぶと歩いて行く。なんか阿部さん、楽しそう。

 明るいところで見る阿部さんの裸の背中は、やっぱり筋肉質で広くてキレイだ。
 通りすがりの皆がこれを見てるかも、とか、そういうこと思うとちょっと妬ける。

 岩場に空いた入り口を覗くと、中はホントに洞窟だった。
「うお、洞窟、だ」
 ビックリしてそう言うと、阿部さんにふふっと笑われた。
「パンフに書いてただろ?」
 そう言われても、パンフなんて見た覚え、ない。え? 入館した時に貰ったっけ?
 洞窟の中はお湯が青くライトアップされてて、なんかファンタジー映画の世界みたいだ。

 目が慣れると、岩場の奥、ライトの陰になるところに人がつかってるのが分かった。向かい合ってて、1人がもう1人の首に両手を回してる、みたい?
 慌てて目を逸らしたけど、え、あれ、カップルかな? オレ達、お邪魔?
 阿部さんも気付いたのかな? 洞窟の中には長居しないで、奥の出口に進んで行く。

 水着だから、あまり意識しなかった、けど。恋人と一緒にお風呂入るのって、なんかちょっとエロい、よね。
 洞窟を抜けると、ふわっと涼しい風に包まれた。
「うお」
 スゴイ。竹林だ。
 打たせ湯なのかな、細いお湯が上から2本落ちていて、表の岩風呂にあった滝の音が、こっちにまでド、ド、ド、ド、って響いてる。
 それ以外は、無音。
 洞窟のカップルのせいで引き返しちゃうのか、オレ達2人しかいない。
 滝の音がうるさいくらいなのに、涼しい風が吹いてて、人の声もしなくて、なんだかしーんとしてるみたいでドキドキした。

「ほら、来いよ」
 阿部さんが、お風呂につかってすいっと移動しながらオレを呼んだ。
「は、はい」
 真似してお湯につかり、阿部さんの側に行くと――ぐいっと手首を掴まれて、強引に引き寄せられる。
 あっ、と思った時にはキスされてた。
 一瞬だけ唇の触れ合う、ライトキス。ここ、外なの、に。
 カーッと赤くなってたら、またふふっと笑われてキスされた。
「誰もいねーって」
 阿部さんはそう言うけど、えー、油断はできないよ、ね。

 こんな屋外で、水着で、上半身裸で。なんか、公共の温泉なのに変な感じだ。
 阿部さんも、同じこと考えたみたい。
「狙った訳じゃねーけど、いーな、水着温泉。プールよりエロい」
 なあ、って話を振られても、「そうですね」なんて答えようがなくて困る。
「三橋……」
 ちゃぷん。
 水音を立てて片腕を上げた阿部さんは、そのままその腕で、オレの肩を抱き寄せた。

 ド、ド、ド、ド、っていう滝の音。
 間近に立つ、微かな水音。
 温かいお湯。
 裸の腕が、オレの裸の肩に触れる。抱き寄せられた先にあるのは、阿部さんの裸の胸、で。
 お風呂で。屋外で。水着で。洞窟の方から、いつ他の誰かが来るか分からないのに――キス、してて。
 なんだか、のぼせてしまいそうだった。


 そのままその静かなお風呂を、20分くらい独占してたかな。洞窟の方から子供たちがわーっ、て騒いでる声が聞こえて、阿部さんが立ち上がった。
「そろそろ移動するか」
 差し伸べられた手を掴むと、ぐいっと引き起こされる。
 阿部さん、笑顔だ。
「のど乾いてねーか?」
 言われてみれば、乾いてる、かも。ずっとお湯につかってた訳じゃないけど、水分補給はした方がいい、よね。
「お水飲みたい、です」
 洞窟の中を通り抜けながらそう言うと、阿部さんは「オレも」って笑ってた。
 
 さっき出てきたガラス戸から、もっかい廊下の中に入る。廊下はぐるっと向こうまで続いてて、その先にトイレとかお店なんかもあるらしい。
 廊下を挟んで向こう側にも色々温泉が見えていて、思ったより園内は広いみたいだ。
 川があるけど、そこは水なのかな?

 ぼうっとしてたら、黄色いバスタオルを投げられた。
 見ると、「ご自由にお使いください」っていっぱい積んであって、使い終わったら、横のカゴに入れとくみたい。
 タオルはふわふわで、温かくて清潔な匂いがした。
「うお、スゴイ」
 体を拭きながら感動してたら、「三橋!」って呼ばれた。阿部さんはとうに拭き終って、廊下の角を曲がろうとしてる。
「走らずに来いよ」

 ニヤッと笑いながら角に消えてく背中を、わたわたと慌てて追いかけると――すぐ向こうに、黒の水着だけを身に着けた阿部さんが、明るい廊下を大股で歩いて行くのが見えた。
 広い肩や張りのある背中を惜しげもなく晒してる阿部さんは、足もすごく長くて。
 格好いいなぁって、しみじみ思わずにはいられなかった。

(続く)

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あきゅろす。
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