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三橋君と初めての街
 300円くらいで、10個。キャンディ厳禁。適当でいいけど、「適当だ」って文句が出そうにないモノ。
 そんなモノを探して、3月に入ってすぐの日曜日、オレは阿部さんと知らない街を散歩した。
 知らない街っていうか……あまり馴染みのなかった街。
 オレは薬局のバイトに出かける時、大学から電車を2本乗り継いでいく。その乗り継ぎ駅で降りた街だ。
 そこそこ大きな駅だから、駅ビルも駅前も店が多くて充実してる。飲食店も多いし、しゃれた店ばかりじゃなくて、普通の居酒屋やファーストフードの店も目立つ。
 いつも通り過ぎるばかりで、駅の外を探索した事ってなかったから、ちょっと新鮮だった。

 阿部さんも、この辺を出歩くのは初めてみたいで、珍しそうにしてる。
「たまにはこういうデートもいいな」
 って。
 うん、確かに新鮮、かも。そんな遠出って距離でもないのに、お手軽な小旅行気分。
 駅ビルを回って、駅前を歩いて。向こうに大型スーパーも見える。小さいけど、商店街もあるみたい。
 目的は買い物なんだけど、買うモノが漠然としてるから、色んなお店を覗いて回った。

 ホワイトデーのお返しを買うんだって。10個って……そんなにチョコ、貰ったの、かな?
 モヤッとしたけど、それを見透かしたみたいに「全部義理だぞ」って言われた。
「義理なら貰う、つったからな。本命はお前からしか貰ってねーよ」
 って。
 オレだけって言って貰えるのは嬉しいけど、ホントは本命のつもりのチョコも、ちょっとは混じってたんじゃない、かな?
 仕事の付き合い上で、断れない場合もあるかも知れない。
 他の人へのお返しを、一緒に買うっていうのも複雑だけど――でも、オレの知らないとこで阿部さんが買ってるって考えるのもイヤだ、し。
 だったらやっぱり、こうしてデートのついでに一緒に選んでる方がいいのかも。

「どうしてキャンディは厳禁、なんです、か?」
 オレがそう訊くと、阿部さんはふふっと笑った。
「お返しにも色々意味があるんだってよ。キャンディは『こちらこそよろしく』って意味らしーからな」
「うお」
 びっくりした。初耳だ。確かにそんな意味があるんなら、たとえ300円とかでもキャンディは避けて欲しい、かも。

 駅ビルのホワイトデーコーナーにも行ってみたけど、300円とかだと子供っぽいのしかないみたいだった。青いハートのキャンディ缶もあったけど、キャンディはダメ、だし。
 そうなると意外に難しい。
 駅ビルを出てすぐの洋菓子店に、マドレーヌ2個とかフィナンシェ2個とかの可愛いセットもあったんだけど、賞味期限が14日まではもたなかった。
「お前はどうするんだ?」
 阿部さんが、ぽんとオレの頭を撫でながら訊いた。
「う、えと……」
 お返しなんて、今まであげたことなかった、って言ったら笑われる、かな?

 だって、高校までは男子校だった、し。
 大学は女子の方が多い、けど、だから余計にそういうイベントって、地味にない、かも。
 「カービー、あげるー」って、丸いピンクのゲームキャラのチョコ、何人かの女子がくれたけど、別に14日にじゃなかったし……えーと、貰いっぱなしでいい、よね?
 オレがそう言うと、阿部さんは「見る目ねぇ女ばっかなんだな」って、でも機嫌よさそうに笑ってた。

 バス停前のコーヒーチェーン店で、ちょっとだけ休憩してから、今度は商店街に向かって、ゆっくりと歩く。
 途中、ドラッグストアがあったから、別に用はないんだけど入って見た。
「あっ」
 結構安い。
 バイト先みたいなターミナルの店舗と、ここみたいな住宅街の店舗とじゃ、やっぱり品揃えも違うんだなぁ。大学近くの店とも違う。
 おむつや粉ミルクを特売してるから、赤ちゃんとかが多い地域なの、かな?
 そう思って周りを見回すと、ベビーカーを押してる人が、ちらほら見える、かも。

 小さなマニキュアが1個100円とかであったから、それ3つを包んで貰っても……って、ちょっと思ったけど、でもそういうのプレゼントした女の子が、「つけてきましたよ」って言うかと思ったら、すごくイヤだし却下だ。
 阿部さんは花柄のポケットティッシュとか見てたけど、それもちょっとどうかって思うよ、ね。
 やっぱり、お菓子が無難なのかなぁ?
 何も買わずに店を出てから、阿部さんが訊いた。
「物価はどうだ?」
 って。
「あ、安い、かな?」
 どうだろ、ドラッグストアだけ見ても、よく分からないけど。
 そう言うと、阿部さんは「じゃあスーパーも後で見てくか」ってオレの頭をポンと撫でた。

 え、と、スーパー見るのも、こうやって一緒に歩くのも楽しいし、いい、けど。
 ……買い物が目的なんだ、よね?

「ほら、行くぞ」
 ぐいぐいと手を引かれ、知らない街を歩きながら、オレはちょっと首をかしげた。
 でも――。
「あっちに見える公園、デカそうだな」
 とか。
「あそこのコロッケ、食べてみたい、です」
 とか。
 そんな風に、キョロキョロしながら好きな人と散歩する、そんなデートは楽しかった。

(続く)

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