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アフター・後編 (R18)
※内容がR18になっています、ご注意下さい。
冷水を浴びせられたような、って、こういうことを言うんだろうか?
快感にとろけかかってた意識が、一気に戻った。
ギョッとして、阿部さんに強くしがみ付く。
でも、阿部さんは動きを止めてくれなかった。一瞬ぴくっと止まって、でもまた同じペースのままで、ゆっくりオレを揺さぶり続けた。
この部屋に鍵はかからない。
ミシッと廊下の床を鳴らしながら、誰かがゆっくりとこっちに来る。
早く通り過ぎて!
そう心の中で願ったけど、足音は通り過ぎるどころか、逆にオレの部屋の手前でふいに止まった。
修ちゃんかな?
阿部さんもちょっとは気にしてるみたい。キスをやめて、廊下の方に顔を向ける。
でもやっぱり、動きは止めてくれない。
ゆっくりゆっくり、もどかしいくらいの優しさで、オレを揺らして中をこする。
声を出す訳にもいかなくて、でも足音が気になって仕方なくて、オレはかすかな音で「あの」と言った。
ちょっとだけ、今だけ、動きを止めて欲しかった。
でも……。
「なに?」
阿部さんはオレに向きなおり、かすかな声で訊き返しながら、逆に強く、オレの中をえぐったんだ。
「んっ……!」
不意打ちされて声が漏れ、慌てて両手で口をふさぐ。
焦らすように腰を回され、回しながら抜き差しされて、口をふさいだまま首を振る。
今の声、聞こえたかな? 聞こえてないよね?
修ちゃんでも、他の誰かでも……電気が消えてれば寝てると思って、引き返してくれるよね?
オレはそう願いながら、全身を耳にして、もっかい足音がしないか期待した。でも、なかなかミシッっていう音は鳴らなかった。
もう行っちゃったのかな? それとも、オレが出て行くの待ってる?
確かめたいけど、阿部さんは止めてくれない。組み伏せられて貫かれて、身動きできなくて、おまけに全裸で……とても出て行ける状態じゃない。
頭は集中できないのに、体はゆっくりと少しずつ追い上げられて、なんだか余計におかしくなってしまいそうだった。
オレが、廊下の方を向いてるのに気付いたのかな。阿部さんがまた、オレにぐぐっと覆いかぶさって来た。
抜き差しの幅が大きくなって、思わず「んっ」と小声を漏らすと、手をどけられて、口封じみたいにキスされる。深く。
上も下も繋がってて、深いのにゆっくりで、気持ち良くて、オレはギュッと阿部さんの浴衣を掴んだ。
と――その時だった。
「廉……?」
修ちゃんの声が、耳に届いた。
「もう寝たか……? 起きてんなら、ちょっと話しねぇ?」
ぼそぼそとして聞き取りにくくて。でも、やっぱりそれは修ちゃんの声、だ。
阿部さんに遠慮してるのかな?
阿部さんを起こさないようにって、気を遣ってる?
でも、考えてみたら、さっきから声を我慢できないでいるのはオレばっかりだから……修ちゃんがそう思うのもムリないの、かも。
「……廉?」
もっかい、修ちゃんがオレを呼んだ。
でもオレは返事なんかできなかった。深くキスされて。深く貫かれて。
ビクッと全身が跳ねる。
阿部さんに、もっと強くしがみ付く。
外に修ちゃんがいるの分かったくせに、阿部さんは逆に嬉しそうで、腰の動きを早くした。
揺らされる。さっきより早く、強く。
オレは声を我慢するのに必死で、息もできないくらいだった。
気持ちいい。気持ちいい。阿部さん。でも外に修ちゃんが!
「廉……」
修ちゃんの声がちょっと大きくなる。
曇りガラスの引き戸に、修ちゃんの影が映る。
その戸に鍵はかからなくて。
オレは、阿部さんに抱かれてて。全裸で。
やめて、その戸を開けないで! オレは阿部さんに縋りつきながら祈った。
そしたら……また修ちゃんの声がした。
「廉、今日は負けたよ。お前、やっぱスゲーわ」
ぼそぼそと呟くように、修ちゃんが言う。
引き戸の向こうの影は、ちょっと揺らめいて――でも、その場から動かない。
オレは激しく揺らされて、必死で声を我慢して、口も開けられなくて、けど修ちゃんの声に集中した。
相槌は打てないし、質問もできないけど。
「お前んとこの捕手、リードスゴかったな。畠とも、今オレが組んでるやつとも大違いだ。廉のコトよく見て、よく支えてんなって思った」
修ちゃんは、ぼそぼそとそう言って、そして、ふふっと何かを諦めたように笑った。
修ちゃん……!
今すぐ――その引き戸を開けて、修ちゃんに飛び付きたかった。ありがとうって言いたかった。
オレの阿部さんを認めてくれてありがとう、って。
言いたかった。けど……。
阿部さんに強く奥を突かれて、叩きつけるように犯されて。声を聞かれないようにするだけで、オレはもう精一杯だった。
「仕方ねぇ、認めるよ」
修ちゃんが言った。オレはそれを、もうろうとしながら聞いた。
ズルッと阿部さんが胎内から出て行って、その衝撃で、スキンの中に射精する。
声を上げなかっただけ、自分を褒めたい。
修ちゃんはまだ、外にいる。
オレは全裸で動けない。息を弾ませて、目を細めて、引き戸の向こうに視線を向けた。
と、阿部さんがふうっと息を吐いて立ち上がった。
使ったスキンの処理をした後、乱れた浴衣を軽く整えながら、大股で引き戸の方に向かって行く。
「廉?」
修ちゃんの声がした。
阿部さんがカラッと戸を開けた。
ギョッとする間もなく、戸は閉められて……。廊下には阿部さんと修ちゃんが向かい合う。
1人取り残されたオレは、2人のシルエットを眺めながら、ヒジをついて起き上がった。
けど、立てそうにない。
阿部さんが言った。
「認めてくれたみてーで嬉しいよ」
修ちゃんはそれに答えず、静かな声で「廉は?」って訊く。
「寝てるけど」
阿部さんはそう言って、それから、ふふっと笑って付け足した。
「疲れてるみてーだから、起こさねーでやってくれよな」
それに、修ちゃんがなんて答えたかは聞こえなかった。
オレを1人この部屋に放置して、2人はミシッと廊下を鳴らし、静かにどこかに移動していく。
オレは、後を追えなかった。
裸だったし、体がだるかったせいもあったけど――それより、何か、今追っちゃいけないような気がした。
なんとか服を着て待ってたんだけど、その内に寝ちゃったみたいで。朝目覚めると、阿部さんの腕の中にいた。
だからね、2人がこの夜何の話をしたのかは、結局知らないままなんだ。
後で阿部さんに訊いてみたら……「男同士の話だよ」って、ぽんと頭を撫でられた。
気になるけど、聞いちゃいけないような気もするし。第一、教えてくれそうにない。
阿部さんと修ちゃん、2人だけの秘密なのかと思うと、ちょっとだけ胸がモヤッとしたけど――少なくとも、殴り合いのケンカじゃなかったみたいだから、まあ、良かった。
(終)
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