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アフター・前編
試合の後は、合宿所の施設でバーベキューをした。
それから皆で合宿所に泊まり込み、カラオケしたり、ゲーム大会したり、バッセンに繰り出したりして、楽しく過ごした……らしい。
らしい、っていうのは、聞いた話だからだ。オレは残念ながら、別行動だった。
原因は、じーちゃんだ。
「ああ、今日はいい試合だった。じゃあ廉、帰るぞ」
そんな感じで当然のように「帰る」って言われて、バーベキューの後片付けもできないまま、オレはじーちゃんちに連れて行かれたんだ。
阿部さんや修ちゃんも一緒だった。
今日の試合が良かったから、オレ達の話を聞きながら、ゆっくり酒を飲みたかったらしい。
こういうとこちょっと、ワガママだなぁって時々思う。
じーちゃんちに戻ったら、もう宴会の準備はできていた。
といっても、しっかりバーベキュー食べた後だから、ろくに食べられそうになくて申し訳ない感じだ。
阿部さんはさっそくじーちゃんに呼ばれて、じーちゃんの横でお酒を注ぎ合いっこしてる。
試合の話が聞きたいんじゃなくて、じーちゃん、阿部さんと飲みたかっただけじゃないのかな?
そりゃ、気に入って貰えてるのはスゴイし、嬉しいけど。でも、オレだって阿部さんと試合の話、したいのにな……。
と、そんなこと考えながらじーっと見てたら、阿部さんと目が合っちゃった。
宥めるみたいに、ふふっと笑われてドキッとする。
けど、その端正な目元に、突然ギュッとしわが寄った。どうしたのかと思ってたら、ふっと人の気配がして、隣に修ちゃんがドカッと座ったんだ。
修ちゃんは、ビール瓶を持っていた。
「お疲れ」
ぶっきらぼうに言われて、でも嬉しくて、緊張して、すっごくどもった。
「お、……し、し、修ちゃん、も、お、お、お、つかれ、様」
カーッと赤くなりながらも、促されてグラスを持ち上げる。
ビールをついで貰ってから、素早くお返ししたくて瓶を掴むと、修ちゃんはニコッともしないで受けてくれた。
「乾杯」
ぶすっとした声。チン、とグラスが音を立てる。ビールは苦手だけど、一息で半分くらい飲んだ。
「飲みすぎんなよ」
じーちゃんの横から阿部さんが声をかけたけど、オレが返事をするより早く、修ちゃんが、オレのグラスに黙ってビールを継ぎ足した。
無言で促されて、くぴっと口を付ける。……阿部さんの視線がちょっと痛い。
けどそこに、ちょうど瑠里が乱入して来た。
「お疲れ様ぁ、2人ともぉ!」
オレと修ちゃんの真ん中に座って、瑠里はオレ達の肩に、ぐいっと両方の腕を回した。
試合は、2−0でオレ達が勝った。ずーっと0−0が続いてたんだけど、3打席目が回った時に、田島君がヒットで塁に出て、次に花井君がホームランで返したんだ。
前に田島君、「1試合出て打てない球はない」って言ってたけど、ホントにそうなんだなぁ。
でも、皆が修ちゃんを「いい投手だ」って褒めてたんだよ。球威も球速もあって、決め球もあるって。
オレが勝てたのは多分……阿部さんのお陰だ。オレがスゴイ投手だからじゃない。
けど、それこそオレが証明したかったコトだったから、いいんだ。的確なリードと読み。そして、包容力みたいなのとか、色々。
やっぱり阿部さんってスゴイんだ。
修ちゃんも分かってくれたかな?
認めてくれたかな?
阿部さんのリード見て、オレ達のバッテリー見て、どう思った?
じっくり訊きたかったけど、でも瑠里に絡まれちゃって、琉の質問攻めにもあっちゃって、なかなか2人では話せなかった。
ただ、真っ先に乾杯してくれたから……これで、仲直りってことでいいんだよ、ね?
やがて10時を過ぎる頃、昨日と同じく、オレ達は「お風呂入りなさい」って伯母さんに追い立てられた。
あ、だったら修ちゃんと一緒に……って思ったけど、酔いつぶれた瑠里を部屋に運ぶの手伝ってる内に、修ちゃんは琉とお風呂に入っちゃった。
阿部さんはまだ、じーちゃんに掴まってる。
けど、オレが瑠里を抱えてお座敷を出る時に、一瞬だけど目が合ったから――多分、早々に切り上げてくれるんじゃない、かな?
夏に修ちゃんと語り合った時は、オレの部屋にお酒持って、修ちゃんが来てくれた。
あの時、オレは酔いつぶれちゃって。
修ちゃんを心配させちゃって。
そして、修ちゃんが阿部さんに出したメールで、ちょっとすれ違いになっちゃって、泣いたこともあったけど。
でも、修ちゃんは大事なオレのトモダチ、だし。それはきっと、この先も変わらないと思う。
修ちゃん、今夜もまた前みたいに、オレの部屋に来てくれないかなぁ?
そんで阿部さんも交えて、3人で語り明かしたいんだけど。ダメかなぁ……?
お風呂の後、ラフな格好に着替えて、部屋で布団の準備をした。
もし修ちゃんが来てくれて、3人で語り明かすことができたら、布団なんて無駄になっちゃう、けど。どうだろう?
と、そんなこと考えながら待ってたら、阿部さんが部屋に入って来た。
随分じーちゃんに飲まされたのか、目元が赤い。けど、足元はしっかりしてるし、ろれつが回らないなんてこともなかった。
お酒、強いんだなぁ。
感心しながら見つめてたら、阿部さんは昨日着た浴衣と替えの下着を持って、「風呂行って来る」ってオレに言った。
「叶が来ても、追い返せよ?」
「えっ」
びっくりして声を上げた瞬間、ぐいっと抱き寄せられて唇を塞がれた。
アルコールの混じった甘い吐息が、ふわっと香る。
「仲良く語り合う事なんか、何もねーんだかんな?」
掠れた低い声でそう言って、もっかい触れるだけのキスをして、阿部さんは部屋を出て行った。
廊下を歩く、堂々とした足音が遠ざかる。
3人で語り明かしたいって……思ってたの、バレバレだったかな? 態度に出てた?
じゃ、じゃあ、修ちゃんにもバレてた、かな?
キスも含めて、今更のように色々恥ずかしくて――。
オレは、阿部さんがちょっぱやで戻って来るまで、顔を熱くしたままだった。
(続く)
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