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Season企画小説
大人になる日・5 (R15) 
 車に乗ると、もっと深くキスされた。
「エンジン、温まるまでな」
 そう言われても、どのくらいかかるものか分かんない。
 かすかな振動がシートから響く中、互いに身を乗り出して唇を合わせる。
 とうに酔いは醒めたんじゃないかと思ったけど、それでも目を閉じるとくらくらした。
 キスの後も、ふわふわして仕方なかった。
 だって、さっきまで失意のどん底にいたのに。失恋した相手に「好きだ」って言って貰えて、抱き締められてキスされた。ウソみたい。
 夢じゃないかって思うけど、でももしこれが夢だったとしたら、ショックで立ち直れないかも知れなかった。

 阿部君はゆっくりと車を動かして、知らない道をぐんぐんと走った。
「まだ帰んなくていーんだろ?」
 その問いに、「うん」と答える。彼の言う、「もっと暖かいトコ」に心当たりはまるでなかった。
 気付いたのは、ホテルの駐車場に着いてからだ。ホテル&スパって書いてあるけど、「ご休憩」の文字が見えて、ドキッとする。
 ギギッとサイドブレーキを引く音に、ビクッと肩が跳ねた。
 オレの緊張が分かったのか、阿部君がシートベルトを外しながら苦笑した。
「無理強いはしねーから。スパだけでも行かねぇ?」
 スパって……温泉、か?
「う、ん」
 うなずくと、「よし」って言って、阿部君がさっと車の外に出た。慌ててオレもシートベルトを外し、後を追う。
 無理強いはしない、って。やっぱ……そういう意味?

 外に出てドアを閉めると、ガチャッと音を立てて目の前でロックがかかった。もう車の中には戻れない。戻りたい訳じゃ、ない。
 おずおずと近寄ると、トンと背中に手を当てられた。
「んな緊張すんなよ」
 苦笑されて、ギクシャクとうなずく。
「あ、阿部君、は、ここ、来たこと、あるの?」
 キョロキョロと周りに目を向けながら訪ねると、コツンと頭を叩かれた。ゲンコツだけど、ちっとも痛くない。
「ばーか、好きなヤツがいんのに、他のヤツと来るかよ」
「す……」
 好きなヤツ、って。それってオレのこと?
 じわっと照れながら阿部君を見ると、阿部君もちょっと顔が赤かった。

 阿部君でも照れるんだな。当たり前だけどそう気付いて、そしたらスッと力が抜けた。
 ホテルにオレたちだけで来るなんて、大人みたい。
「休憩とスパ」
 堂々とフロントで手続きをこなす阿部君を見ても、やっぱり大人だなぁと思った。
 ホテルのご利用メニューを見ると、部屋だけコースとスパだけコース、部屋とスパ両方利用するコースがあるみたい。
 スパだけの人もいるのなら、男同士で歩いてても変な目で見られそうになくて、ちゃんと考えてくれたんだなって嬉しくなった。
 好きだなぁって、改めて思う。
 阿部君はいつも、オレのこと1番に考えてくれてた。2年前と一緒、だ。

 入ったのは、オレの部屋より少し小さいくらいの、清潔そうな部屋だった。
 ドアを開けてまず、5、6人で座れそうな長いソファが目に入る。でもやっぱりベッドは1つで――。
「三橋」
 抑えた声で名前を呼ばれて、ドキッと体が跳ねた。
「緊張すんなって。つっても、オレもほら、緊張してっけど」
 差し出された大きな手に手を重ねると、温かかったけどかすかに震えてるのが分かる。
 ふいに抱き寄せられて顔を寄せられ、唇を奪われる。キスしながらコートのボタンを外されて、それがバサッと足元に落ちた。
 ぼうっとしてると、そのコートを阿部君が拾って、ロッカーのハンガーに掛けてくれた。
 ロッカーがあったのも、初めて気付いた。
 阿部君も自分のコートを脱ぎ、ハンガーに掛けてる。コートの下から現れたのはダークグレーのスーツ姿で、自分も似たような格好の癖に、ドキッとして見惚れた。

「高そうなスーツだな」
 耳元で囁かれながら、スーツの上着を脱がされる。
「あ、べ君も、似合ってる、ね」
 お返しに彼のスーツを脱がしながら、思った通りのことを言った。顔が熱い。ネクタイを外される時、大きな手がアゴに触れてドキッとした。
 大人になる日のためのスーツを、大人になるために脱ぎ落とす。
 阿部君もオレも、興奮してるのは丸分かりで――シャワーを浴びながらキスして、互いに洗いっこするうちに、緊張の針が振り切った。

 互いのモノを触り合い、抜き合ったのも、バスルームの中だった。
 ジャージャーとシャワーを頭から浴びながら、キレイな浴室の床に座り、抱き締められて後ろの穴を拓かれる。
 つぼみに指で触れられた時は、「あっ」と高い声が出た。
「あ、あ……んんっ」
 その指を中に埋められ、声が漏れるのを抑えきれない。
 痛みはないけど異物感はあって、けど決してイヤじゃなくて、身を任せるしかできなかった。
 阿部君だって未経験だっていうのに。翻弄されっぱなしで、たち打ちできない。
「低刺激って書いてるぞ」
 ボディローションのボトルのラベルを見せられて、ぶんぶんと首を振る。
 オレに刺激を与えてるのは、ローションじゃなくて指、で。その指を2本に増やされ、たまらず阿部君にぎゅっとしがみついた。

「感じる?」
 なんて、訊かないで欲しい。正直に答えられる訳ない。
 シャワーのせい? 阿部君のせい? 頭に血が上って、くらくらする。
「のぼせ、そう……」
 息を詰まらせながら訴えると、ふいに指が胎内から抜かれ、オレは更に悲鳴を上げて、がくりとそこに倒れ込んだ。

(続く)

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あきゅろす。
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