Season企画小説 花井君と「田島君」 (花井誕生日記念・阿部×3番外編) ※こちらは阿部×3、阿部×3+M の続編になります。 おめでとう、なんて、誰かに言われる事もなくなってきた、24回目の誕生日。 朝っぱらから、すんげーでかい荷物が届いた。 しかも、超絶重いらしく、5人がかりで台車に載せている。 冷蔵庫か? いや、サイズはそんなもんだが、冷蔵庫は二人くらいで運ぶだろう? 「ハンコお願いしまーす」 ぜいぜい言いながら伝票を差し出され、ハンコを押しながら、差出人欄を見た。 英語の住所と、日本語の名前。 From三橋廉&阿部隆也 アメリカで、アンドロイド事業をやってる旧友の名前に、オレはちょっと青ざめた。 このサイズ。この重さ。そして、あいつらの性格。 ……まさかな。 あー、くそ。今すぐ包装をビリビリに破いて、中身を確かめてぇ。でも今は出勤前で、とてもそんな余裕はねぇ。 幸い、明日からゴールデンウィーク、10連休だ。見るのは、帰ってからでいい。 ……でも、まさかな。 気になる。気になるけど。オレは心に蓋をして、会社に行くべく家を出た。 高校時代、オレは野球部のキャプテンをしていた。三橋と阿部は、そん時のチームメイトで、バッテリーだ。 投手の三橋は、高校卒業後すぐにアメリカに渡り、向こうの仲間と共に、アンドロイド開発に取り組んでいたらしい。 三橋がプロモーション活動で、全世界に公開した執事アンドロイド「阿部君」の存在は、勿論オレ達にも衝撃だった。 阿部にそっくりの、動く機械。 阿部の顔で笑い、阿部の声で喋るアンドロイド! 阿部を知ってるオレ達だから、あん時は爆笑させて貰ったけど。でも確か、あれってスゲェ高かったハズだ。 汎用型が30万ドル? んで、「阿部君」みてーな特注タイプが、100万ドル……とかだったような。 そういや、ニューモデルとかも最近、TVコマーシャルしてたし。誰が買うのか知らねーが、まあ、友達の事業がうまくいってんなら、それに越した事はねぇ。けど。 ……まさかな。 青年実業家として、活躍するあいつらは、相当稼いでんだろうけどさ。100万ドルとか、小遣いぐらいなのかも知んねーけどさ。 まさか、そんな高価なモン、ポンって送りつけたりはしねーよな? だが……そんなオレの真っ当な願いは、叶わなかった。 飲み会の誘いも断り、そそくさとアパートに戻ったオレは、ドキドキしながら包装を開けた。その中から出てきたのは、やっぱり! 巨大な充電器にささった、アンドロイド! 『TY−1 お友達ロボット・田島君』 取扱説明書には、そう書かれていた。 お友達ロボット、なだけあって、高校時代バージョンだ。 「くうっ」 オレは目を背けた。見たくなかった。 何考えてんだ、あいつら? そこへ……招かれざる客が、やって来た。 ピーンポーン。 「はーないー! 誕生日おめでとー!」 今、一番来て欲しくない奴だ。 というか、来るとも思ってなかった奴だ。 4月末ってのは、プロ野球の1軍選手にとって、忙しい時期なんじゃねーのか? どうなんだ? オレはインターホンに向かって喋った。 「帰れ」 「えー何でだよ。ズリーぞ、自分だけロボットで遊ぼうなんてさー」 何で知ってる? 一瞬焦ったが、そういえば送り主の片割れ・三橋と、この田島は高校時代の親友だ。何か聞いていても不思議じゃねぇ。 ……っていうか、むしろ。 「首謀者はお前かぁっ!」 叫んで扉を開けると、パン、とクラッカーを鳴らされた。飛んで来た紙テープが頭に掛かって、閉口する。 黙ったオレを押しのけて、田島が陽気な声で言った。 「おじゃましまーす」 そして、すぐそこに置きっぱなしのアンドロイドを見て、やっぱりな調子で騒ぎだした。 「うひゃー、スゲー! やっぱオレそっくりだな。な、花井?」 「あー」 オレは大きなため息をついて、家の中に戻った。 読みかけだった取扱説明書を、もう一度読み返す。 @起動コードの設定……音声識別システム……つまり、マスターであるオレの声を登録すれば、システムの起動もダウンも、スリープも命令一つで実行できるように……。 と、オレの横で、田島が言った。 「オレ、登録の仕方知ってんぞー!」 そして、アンドロイドの右耳の中に、指をグイッと突っ込んで……。 「TY−1『田島君』起動!」 「あ、おい!?」 オレの制止は完全に遅かった。 ブウン、という起動音と共に、アンドロイドが目を開けた。 ――田島をマスターと認識して。 「よー、始めまして、ロボットの『田島』だ。最初に言っとくけど、この内蔵バッテリーは動作確認用だから、早めにフル充電してくれよな!」 と、田島君が言った。 「おー、後でな。それよりさ、お前、野球はできんだろうな?」 と、田島が言った。 「当ったり前じゃん、オレを誰だと思ってんの?」 「だよなー、オレだもんなー」 「なー」 「じゃあ、ちょっと軽くキャッチボールしてこようぜ」 「お、いーなー。でもグローブとか持ってんのか?」 「どーだろな」 「なー、花井ー、グローブ二つ……」 「持ってねぇし、頼むから外へ出るな!」 オレが叫ぶと、田島と田島はきょとんと顔を見合わせ、「何で?」と聞いた。 「お前は有名人、お前は高級ロボット! 目立ちすぎんだろうが!」 田島達はしばらく考え、二人同時に「イーじゃん別に」と言った。 ……だめだ、頭痛がしてきた。 オリジナルが帰った後、ロボットも少し大人しくなってはくれたけど。ともかく、ロボットの方のマスターが田島のままなのは、やっぱ色々心配だ。 スリープもダウンも出来ねーんじゃ、24時間うるさいままだし! 何とか、音声登録のリセットってできねーもんなんかな? オレは必死に、取説を読んだ。 リセットの仕方、リセットの仕方……。 「あ、あった! け、ど」 リセットボタンは……。取説には、こう書かれていた。 ――音声コードのリセットボタンは、盗難防止の為、無闇に押されない場所に設定してあります――。 無闇に押されない場所。確かにそうだ、アンドロイドの肛門の奥、なんて。 一体、誰が設定したんだ? 「阿部っ! お前が押しに来い!」 オレは半泣きで、電話を掛けた。 (終) [*前へ][次へ#] [戻る] |