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Season企画小説
ラブフルフィルム・前編 (2016水谷誕・原作沿い高1・水谷→篠岡)
 正月明けの裏グラに阿部から突然呼び出されたのは、1月4日の昼だった。
 案の定、グラウンドには誰もいなくて、乾いた風がびゅーっと寂しく吹いていた。暖冬のお陰で、寒くなかったのだけが救いだ。
 オレ、誕生日なんだけどね? なんでこんなとこに立たされてんだろう?
 そりゃ確かに暇だったし。呼び出されたからって、ほいほい来ちゃったのはオレだけどさ。「今すぐ来い」って言うなら、せめてオレより先に来といて欲しかった。
「阿部ぇ……」
 思いっ切り疲れた声で、チームメイトの名前を呟く。
 取り出したケータイのアドレス帳、その一番上は探すまでもなくあの男だ。同時に、元旦にヤツから貰ったメールのことも思い出し、一気に気分がどよんとした。

 元旦に貰ったからって、年賀メールだった訳じゃない。いや、「あけおめ」って本文にはそんだけ書かれてあったけど、問題は添付されてきた写真の方だ。
 はあ、とため息をつきつつ、そのメールをパッと呼び出す。
 阿部からの年賀メールに添付されてた写真には、阿部と三橋に両脇を囲まれ照れ臭そうに笑う、着物姿の篠岡が映ってた。
 それを見た瞬間、「あっ……」って絶句したのは、羨ましかったからだ。
 オレ達が所属する西浦高校硬式野球部の癒しの華、マネージャーの篠岡はすごく可愛い。マネージャーじゃなくても可愛い。ジャージ姿も可愛いし、私服姿も可愛いけど、振り袖姿はもっともっと可愛かった。
 華やかな白とピンクの振袖に、ふわふわの真っ白な襟巻。ちょっとだけメイクしてんのかな? 着物に可愛さが負けてなくて、すっごくよく似合ってる。
 オレ、実は篠岡のこと、かなり前からいいなぁと思ってて。
 勿論、今は野球優先だし、甲子園優勝目指すんだし、告白するつもりはないし、誰にも打ち明けたことなかったんだけど……でも、やっぱり可愛いなぁと思うのは止められない。
 だから、他の男と一緒に写真に写ってんの見てしまうと、どうしても嫉妬した。

 阿部と三橋に両脇を挟まれ、笑顔で写ってる篠岡を見る。
 可愛いなぁと思うと同時に、なんでこの2人と……って、やっぱ思う。いっそ、両脇の邪魔者をばっさりカットして、篠岡だけの写真にしちゃおうかな?
 この神社、一体どこだろう?
 偶然出くわしただけなのかな?
 阿部と三橋が、2人で一緒に初詣行こうがどうしようが好きにすればいいけど、篠岡と一緒なのは気に食わない。
 まさか今日、オレを呼び出したみたいに篠岡を……? バカな考えがちらっと浮かんで、いやいや、と首を振る。
 それこそ野球とお互いのことしか見えてなさそうな阿部と三橋が、篠岡に興味を抱くとは思えなかった。


 たっ、たっ、たっ、と足音が聞こえて来たのは、阿部に電話をしようとメールを閉じた時だった。
「みず、たに、くん……っ」
 一呼吸ごとに発音して、三橋が肩で息をした。ランニングでもして来たのかな? 練習着姿で汗だくだ。
「おめでとー、三橋。三橋も阿部に呼び出されたの? っていうか、なんで練習着?」
 一瞬すごく焦ったけど、野球部の練習ってまだだよね? 周りをキョロキョロ見回しても、他の連中の姿はない。
「うん、オレ、自主、練……」
 肩で息をしながら、一呼吸ごとに話す三橋。
 自主練、って。正月明け早々から? 練習着で熱心だな。そう思った時――キキィッとブレーキの音を響かせて、阿部が自転車で登場した。
 分かってたけど「待たせたな」の一言もなくて、「よー」とだけ声を掛けられる。
 阿部も三橋と同じ練習着姿だ。エナメルを自転車の前カゴに入れてるから、どこかで着替える気かも知れない。

 いや、ホントね、2人のことは好きにすればいいけど、えっ、オレも練習着、必要だった?
「……何か持ってくる物、あったっけ?」
 確か阿部からのメールには、「来い」としか書かれてなかったと思うけど。でも、短いメールに見えて、実はスクロールすると長〜い空白の後に「ウソです」とか書かれてたっていうイタズラメールの話を思い出し、ちょっと不安に襲われる。
 そんなイタズラする程、阿部も酔狂じゃないと思うんだけどさ。でも、そもそもオレを呼びだしてどうすんのってのが一番の謎だし。納得できないと安心もできない。
 一方の阿部と三橋は、オレの内心の動揺をよそに、2人きりで喋ってる。
「お前、また走って来たのか」
 とか。
「しょーがねーな、帰りはオレの自転車に乗ってけ」
 とか。
「うん、ありがとう、阿部君っ」
 とか。
「あっ、てめっ、まさか狙ってたのか?」
 とか。別に好きにすりゃいいけど、いい加減にして欲しい。

 生温い目で見つめてると、さも今思い出したように、阿部が「ああ……」ってオレを見た。
「そうそう、これ渡そうと思ったんだ。誕生日おめでと」
 そんなセリフと共に、カシャッ、と生々しいシャッター音が響く。フラッシュを浴びせられ、一瞬呆然としたオレの目の前に突き出されたのは、オモチャみたいなコロンとしたカメラだ。
 何だっけ、フィルムカメラとかいうんだっけ?
「えっ、……はあ?」
 受け取りながら、疑問を思いっ切り口にする。
 だって、ええっ、これ、プレゼント? っていうか、今、思いっ切り使ってたよね? 使用済み? デジカメみたいなんじゃなくて、確かこういうのって、枚数制限あったよね?
「誕プレ。あと、お年玉な。なあ?」
 阿部はそう言って、ニヤッと笑いながら三橋の肩をぐいっと抱いた。
 なあ、って言われた三橋は「うんっ」って元気に答えてるけど、えっ、正気? 顔が赤い。いや別に、詮索しようなんてカケラも思ってないけどさ。

「用はそんだけ。駅前のカメラ屋だと、30分だぞ」
 阿部はオレにそう言って、三橋の肩を抱いたまま校舎の方に去って行く。もしかして自主練って、本気かね? いや別に、好きにすりゃいいけどさ。
 それより何、これ? 使いかけの使い捨てカメラなんか、貰って一体どうしろって? 駅前のカメラ屋で、何が30分?
 ホント、意味がわかんなかった。

(続く)

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