Season企画小説
16のキス・前編 (2012篠岡誕・R18)
暗闇に響く喘ぎ声。
ギシギシ軋むソファ。
「あっ、あっ、あん、あっ……」
男のオレが聞いても、ドキドキするくらい色っぽい声を立て、同じ男に組み敷かれてるのは――我が西浦高校のエース、三橋だ。
相手は、三橋とバッテリーを組むキャッチャーの阿部。
「声でけーぞ」
って、喘ぐ三橋をたしなめてるけど、だったらお前が手加減しろって言いたいね。
まあね、オレもね、あいつらがそういう仲なんじゃないかなーっていうのには気付いてた。多分、ちゃんと話したことないけど、野球部全員知ってると思う。
肉体関係まであるとは……さすがに予想以上だったけど。
うん、男同士だろうと不純だろうと、別にオレ、反対はしないよ。バッテリーは、険悪よりラブラブの方がいいからね。
でもね。
例え今が夜中で、ここが三橋の家だとしてもね、一応灯り点けて、誰もいないの確認してからにして欲しかった!
すぐ隣のダイニングに、人がいるんですけど!?
喉が渇いて水を飲みに降りたオレ! そして、オレに巻き込まれた形の篠岡!
ああ、分かってる。階段を下りるあいつらの気配に、とっさにダイニングの照明、消しちゃったオレが悪いんだよね。
ちょっとね、後ろめたかったからね。
でもさー、トイレとかに降りたんだと思うじゃん、普通?
まさか、リビングのソファになだれ込んで、いきなりイケナイコト始めるとは思ってないじゃん?
「ああっ、好きっ、阿部君、好きっ!」
三橋の喘ぎ声はやむ気配なく、ソファのギシギシ音もやみそうにない。
「オレも、好きだぜ。三橋、三橋っ」
阿部の声はちょっと抑え目だったけど、でも、しんとしたダイニングにまで、何言ってるかハッキリ届く。
オレの横でうずくまる篠岡は、暗くてよく見えないけど、多分真っ赤だ。
オレのシャツの裾、細い指でキュッと握って震えてる。
どうする、オレ? どうしたらいい?
このまま終わるまで、ここにいろって?
でもオレも、ちょっと! 色々限界なんですけど!!
大体、なんでオレ達がこんな時間に、こんな状況に追い込まれてるのか。
事の起こりは、篠岡の誕生日だった。
春休み中だし、いつもお世話になってるし。できたらみんなで、盛大にパーティーしたいね……って話してたの、三橋のお母さんが小耳に挟んだらしくてさ。
「じゃあ、うちでやれば?」
って言ってくれたんだ。
女の子1人じゃ何だかあれだからって、7組のチアの子も含めた、男10人、女3人の13人。揃って三橋の家に泊まって、料理作ってケーキ食べて、夜通しゲーム大会する予定だった。
でも、夜の8時を過ぎてから……三橋のご両親、急きょ揃って群馬に行くことになっちゃったんだ。
三橋が残ったってコトは、親戚の身に何か、……っていうような用事じゃなかったんだと思うけどさ。
「戸締りちゃんとしてね、火の始末気を付けてね」
そんだけ言って、大慌てでボルボに乗ってった三橋のお父さん、お母さん。
家のリビングがイケナイコトに使われるとか、可愛い息子がミダラな行為にふけるとか、そんな心配はしてなかったのかな?
まあ、してなかったんだよねぇ。阿部も三橋も、そんでオレ達も。信用あるんだよね、きっと。
そんでまあ、オレ達13人で、留守を預かることになった訳。
ケーキ食べた後は、みんなで自転車で銭湯に行ったり、帰りにビデオ屋寄ってホラー借りたり、見たりして、11時過ぎに就寝した。
三橋の家は、広いと思ったら実は2世帯住宅だったらしい。
1階の使われてない住居部分に、女の子3人が、お客様布団借りて就寝。オレ達男は、2階の三橋の部屋でごろ寝することになったんだ。
それで……今、夜中の1時過ぎ。さっき、ふと目を覚ましたオレは、喉が渇いたなーと思ってキッチンに行こうと、階段を下りた。
そしたら偶然、トイレから出て来た篠岡と鉢合わせしたって訳!
「わっ、びっくりした……水谷君」
篠岡は、パジャマ代わりのロンTに学ジャー姿で、ビックリした顔をした。
「眠れないの?」
可愛く訊かれて、でへってなりながら、オレは正直に答えた。
「うん、喉が渇いてね〜」
そしたら、篠岡は。
「じゃあ、お茶でも入れようか?」
って。優しく笑ってくれたんだ……。
オレさ、夏からずっと、篠岡のコト好きでさ。
ずっと好きでさ。
誕生日、プレゼントあげたいなって。受け取って欲しいなって。ずっと前から用意してたモノ、ポケットに入っててさ。
昨日、みんなの前じゃ渡せなかったから。
「篠岡、あのさ……」
ガラにもなく赤面しながら、オレ、そのプレゼントを差し出したんだ。
篠岡は、大きな目を見開いた。
でも……それを受け取って貰う前に。階段を降りる音がして、あのバカップルがリビングに入って来ちゃったんだ!
あいつらが階段を降り切るのと、オレがダイニングの明かり消すのと、多分ほぼ同時だったと思う。
だって、抜け駆けしてるみたいでさ。後ろめたかったんだ。そんだけなんだ。
こっちに入って来るなんて、思っても見なかったし。
こんなの聞かされることになるなんて、ホント、思ってもみなかったんだ――。
(続く)
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