Season企画小説
再生の部屋・8 (完結・R18?)
「…んでそんなコト言うんだよ?」
10年付き合って。今まで、もう何千回も肌を重ねたのに。今更じゃねーか。
「同情だけで10年続かねーだろ」
そりゃ、ガキの頃みてーにがっついてはねーけど。でも。
「オレはお前しか知らねーし、欲しくねーし、浮気もよそ見もしたコトねーし。性欲だって普通にあるし。今だって……」
なのに。
怖いとか。そんな風に言われたら。
「1人で抜くのも限界だっつの」
ぼそりと呟きながら、オレは三橋に背を向け、ベッドを降りた。
「ど、どこ、行く、の……?」
三橋が弱々しく訊いたけど、もう振り向きもしねーで立ち上がる。
んなコト訊くなっつの。男なら分かんだろ。
「抜いて来るんだよ」
短く言った途端、「やだっ」と声がして、後ろから三橋が抱き付いて来た。
「てめっ」
腰に巻き付いた手を剥がそうと掴む。
すっかり痩せて、折れそうなくらい細い手首。なのに、力だけは相変わらず強くて。ぎゅうぎゅうとオレを締め付ける。
「放せ! その気もねーのに、んな真似すんな! お前がしたくねーんなら、自分で抜くしかしょーがねーだろ!?」
カッとしてそう言ったら、後ろからしがみ付く力は、ますます強くなって。
「したい! ホントはしたい、よ。あべ君っ」
三橋が言った。震える声で。
「あべ君、阿部君……お願い。……えっち、したい、です」
ハッとした。
勿論覚えてた。忘れる訳ねぇ。あの後味の悪ぃセックス。
あの時、オレは―――。
三橋がオレの背中で、激しくしゃくりあげた。
「おね、がい……」
腰に巻き付いてた腕が緩む。
オレは振り向き、三橋を見た。泣いてる。ゆっくりと両手で顔を覆ってく。
「三橋……」
それ言うのに、どんだけの勇気がいっただろう。胸が痛む。
全部オレのせいだ。
でも。
今、三橋が欲しいのは、「ごめん」なんて言葉じゃねーって、そんなことくらいは分かる、から。
オレはもう1度、三橋をベッドに押し倒した。
上から覆いかぶさり、もう「怖い」なんて言わねーよう、唇を塞ぐ。
涙味のキス。吐息だけは甘くて。
重ねた唇の合間から、すぐには治まらない嗚咽が漏れる。
柔らかな頭に指を差し込み、頬を撫でながら舌を絡める。絡めながら、耳の横を撫で、首筋を指でたどる。
ひくひく、と続く嗚咽。
でも三橋の手は、しっかりとオレの背に回されてて、だから、オレも迷いなく先に進めた。
セーターの中に手を這わす。けど、キスはやめねぇ。もう「イヤだ」なんて言わせねぇ。
腹を、胸を撫でながら、キス続けながら、ゆっくりセーターをまくり上げていく。
やっぱ抵抗感は消えねーみてーで、胸が露わになった瞬間「んふっ」と身をよじったけど、許さねーで、押さえ込んで、指先に当たる乳首を転がした。
「ふあっ」
声が漏れる。色っぽい甘い声。多分オレしか知らねー声。
「好きだ」
囁いて、べろっと小さな舌を舐め、今度は胸に口接ける。
薄褐色の乳輪を舌でなぶりながら、まくり上げたセーターを脱がし、床に放り捨てる。
裸になんの嫌がるハズだ。すっかり痩せた白い身体。痛々しいくらい骨ばかりで。でも。
「キレイだ、三橋」
オレはしっかりと顔を覗き込み、精一杯優しく言って、またキスをした。
その間も、指先でくすぐるように肌をたどる。うなじも。肩口も。浮き出た鎖骨は丁寧に舐め、その下にわざと、所有印をつけた。
三橋は「あっ」と声を上げ、顔を赤くした。いや、顔はさっきから赤ぇけど。
新しいベッドの新しい引き出しに入れてた、新しいローションとゴムを、新しいオレ達の関係のために使う。
やっぱ10年はダテじゃなくて。どこをどう触ればイイか、動けばイイか、もう教えられなくても分かってた。
オレの手の中で、10年愛した白い肌が、ゆっくりと色付いて行く。
もう、怖いなんて言わせねー。
オレは三橋の脚を押し開き、ローションでとろけた穴を貫いた。
「あっ、ああああああっ」
三橋が悲鳴を上げて、オレの背中に爪を立てた。
久々だし、泣いた後だから、優しくしようと思ってたのに、できなかった。
動き始めて間もなく、三橋がオレの首に細い腕ぎゅーぎゅと絡めて、「好き」とか言ったりしたもんだから――何か、それでブチ切れちまって。
もう加減できねーで、無茶苦茶に突き貫いて、容赦なく揺さぶって、攻めて、愛した。
吐き出して我に返った時には、三橋はとうに気を失って、人形みてーになっていた。
添い寝して、キスして頭を撫でてたら、ゆっくり目を開けた三橋がオレを見て、ぐしゃっと顔を歪めた。
「がっかり、しなか、った?」
そんなバカなこと、まだ言うバカな口に、舌をねじ込んでかき混ぜる。
「がっかりしたことなんて、1度もねーよ」
オレがそう言ったら、三橋は「うん……」とうなずいて、またぽろぽろと涙をこぼした。
考え過ぎてボロボロになるなら、何も考えらんなくなるまで、激しく求めてやればいい。
どんなに好きか。必要か。言って分かんねーなら、信じるまで、体に教え込ませりゃいいと思う。
マンネリだと思っても、それでも、他に目が行かない理由とか。
裸のままで抱き合って、布団の中で、体温分け合いながら、オレ達は何度もキスをした。
「一緒に暮らそう?」
ゆるく抱いてそう言ったら、三橋はオレの胸にぎゅっと抱き付き、甘えるように頭を摺り寄せて、小さな声で「やだ」と言った。
「はあっ?」
思わず組み伏せて、上から顔を覗き込んだら、真っ赤な顔で唇を引き結んでいて――それから、ふひっと笑った。
そんな顔できんなら、上出来じゃねーかと思う。
「てめっ、『うん』って言うまで、許さねーかんな?」
オレは、怒ったフリで言いながら、もうゴムも着けてやんねーで、再び三橋を貫いた。
「『うん』って言え、ほら、ほら!」
そうやって無茶苦茶に攻めたけど、三橋がどう言っても言わなくても、もう気にならなかった。笑顔だった。
今日からまた始まるんだ、と、なんとなく思った。
(完)
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