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Season企画小説
再生の部屋・4
 前日含めて、有給は3日間取ってたから、翌日は役所関係に行った。住民票を移したり。
 挨拶回りは、午前中にすませた。
「友達と住みますんで」
 隣の住人には、一応そう言っておいた。「どういう関係?」って、いちいち訊かれねーですむように。

 三橋も有給取ってるハズだから、一緒にゆっくり過ごせるだろうと思ってたけど、「会社だから」と断られた。
「ご、めんな、さい」
 夕メシ食った後、そう言ってうつむく三橋に、オレは笑って「謝ることねーぞ」って言うしかなかった。

 それにしても、何もかもダンボールに詰めた後じゃ、色々不便だろうにと思う。
 3月いっぱいから4月頭までは引っ越しラッシュだ。それこそキャンセルでもなけりゃ、なかなか予約取れねーだろう。
「どっか小さい運送業者とか空きがねーか、探してやろうか?」
 オレの提案に、三橋は慌てたように首を振った。
「う、うううううん、別に、いい」
「なんで? 次の予約取れたのか?」
「う、……ん」
 その返事は明らかに嘘だ。

「お前……。なんでウソつくんだよ?」
 呆れたように言ってやると、「う、ウソじゃない、よ」とまたウソを言う。
「きゃ、キャンセル待ち、して貰ってる、から。大丈夫、だよ」
 だから。それは大丈夫ってコトにならねーだろってのに。

 けど、オレがどう言っても、結局三橋は「大丈夫」「いいよ」を繰り返すだけだった。


 その夜、会って話してメシ食ってから。三橋とは会うどころか、あんま電話も繋がらなくなった。
 つーか、いつもなら繋がる時間に電話に出ねぇ。帰りが遅くなってんのかも知れなかった。
 仕事って言われたら責めらんねーし。オレだって、やっぱプライベートより仕事優先だと思うし。こればっかりは仕方ねぇ。
 帰ったら電話くらい、して欲しかったけど……。
 名古屋でオレが冷たくしちまって以降、東京に戻っても、三橋からオレに電話くれることはもう殆どなくなってたから、これもある意味、自業自得なんだろう。

 有給明けたらオレも仕事が始まって、しかも休んでた間の分、色々と溜まってて大変だった。
 仕事に没頭してる間は、三橋のこと思い出さねーし、気にならねーけど。でも一人新居に帰るたび、スゲー空しい気分になる。
 ガランとしたリビングダイニング。
 せっかくのカウンターキッチンは使われねーまま、ビールの空き缶だけが増えていく。
 ダイニングテーブルは、ノートパソコン置きっぱなしで、すでにメシ食う場所でもねぇ。

 元々TVはあまり見なかったし、三橋が持ってるヤツでいーやと思って、TV台ごと叶にやった。
 ソファに座っても、目の前にあんのが窓だけじゃ仕方ねぇから、ずっとダイニングのイスに座ってる。
 三橋用に空けてある部屋は、当たり前だけど家具もカーテンも何も無ぇ。
 仕事から帰って、風呂入れながら弁当食って。湯上りにビール呑みながら、眠くなるまでネットに繋ぐ。
 そんで、時間を見て、三橋に電話する。

「仕事、忙しそうだな?」
 そう訊くと、『う、うん……』っていう曖昧な返事。
「週末は? 休めるんだろ?」
『わ、かんない。仕事、かも』
 マジかよ、と思いつつも、まあ仕事なら仕方ねぇ。
 忙しそうな割に、あの引っ越しの日みてぇな、気の抜けた状態じゃねぇみてーだし。
 疲労の心配はあったけど、でもそうやって忙しくしてる方が、今の三橋にはいいのかも知れなかった。

「でも、それじゃ引っ越しは当分無理だな。キャンセル待ちの連絡とかあったか?」
『う、うううん。……ない』
 まあ、そりゃそうだよな。そんな簡単にすぐキャンセルがあったら、それこそ奇跡だ。
 いっそレンタカーで軽トラ借りて、自分で運んだ方がいいかも知んねー。
 ネットで調べたら、レンタカーで軽トラ、あるらしい。マニュアル車ばかりかと思ったけど、オートマ車も普通にあって、安心した。
 まあ、台数は少ねーけど。

 ダンボールが何個あったって、オレと三橋と2人なら何とか運べるだろうし。何なら、泉と田島に手伝い頼んでみてもいい。
 そんくらいしねーと、三橋の引っ越しは、ゴールデンウィークにまでずれ込んでしまいそうだった。

「なあ、軽トラ借りて運んでやろうか? ダンボール、そんな開封してねーんだろ?」
 そう言うと、電話の向こうで、三橋が一瞬絶句したのが分かった。
 しばらくして、呆然とした声が『な、んで?』と問う。
「何でって。だから、キャンセル待ちじゃ、いつになるかワカンネーからだろ? そこのワンルーム、もう解約手続き済んだんだよな? いつまでに退去って言われてねーの?」
『た……』

 ドモったまま、絶句してる。
 退去期限のことまで、頭に入ってなかったか? まあ、とうに引っ越す予定だったんだから、当然と言えば当然か。
「な? あんまそこに居座んのも迷惑だろ。次の住人が待ってっかも知んねーんだしさ」
『う……ん……』
 この間と同じ、魂の抜けたような声。
 そんなショックだったか? ホントに考えてなかったんだな。
 ていうか、ちゃんと解約手続きできてんだろうな?

「とにかくさ、お前が連勤でダリーっつーなら、田島や泉にでも声かけてみるから。今週か来週か、土日に軽トラ借りられねーか……」
 訊いてみるぞ、と言いかけたところで、三橋の声に遮られた。
『いい! っよ!』
 それは了承じゃなくて、遠慮の「いいよ」だ。

『大丈夫だ、から。余計なこと、し、ない、でっ!』

 三橋はそう言って、電話を切った。
 ――余計なことって、何だ?

(続く)

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