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Season企画小説
今日も宵闇の空の下・11
 普段から、レンを探して領都に視線を巡らせてたお陰で、外壁の辺りまで視線を飛ばすのは容易だった。
 ただ、レンばっか探すのに慣れ過ぎて、それ以外を探すのは久々で疲れた。
 この探索魔法が1日1回しか使えねぇのは、魔力と一緒に気力も使うからだ。体力はそんな使わねぇハズだけど、ベンチに座ってもいられねぇ。
「吐きそ……」
 誰に聞かせるともなく呟いて、空間ポケットに魔石板を仕舞い込む。代わりにキャンディを1個取り出して、口の中に放り込んだ。

 王都でしか売ってねぇ、秘蔵のスーパーミントキャンディだ。
 口から鼻にかけてスキッと清涼な辛さが通り、眠気覚ましと気分転換に最適な一品。王都勤めの文官らの中で、結構流行ってた。
 前にレンに1個食わせたら、飛び上がるくらいビックリして涙目になって可愛かったっけ。
 オレはもう慣れちまって眠気覚ましにもならなかったけど、それでも清涼さは抜群で、吐き気もかなりマシになった。
 ベンチにぐったりと横になり、午後の穏やかな青空を眺める。
 今のオレが知覚できるのは、口ん中のキャンディの辛さと横たわる木製ベンチの座面の固さ、時々そよぐ風と、近くにある噴水の気配、太陽の眩しさと無力感。
 締まらねぇなぁと思いながら、目を閉じる。そんなオレに近寄るヤツがいねぇのが、皮肉だけどありがたい。

 王都ならきっと、憲兵か盗人がとうに近寄って来てる頃だ。
 領民が少ねぇってことではあるんだけど、王都に比べりゃ圧倒的に治安がいい。この治安を、レンが守ってるって思うと、田舎暮らしも悪くねぇと思った。


 ベンチに横たわったまま、いつの間にか寝ちまってたらしい。
「奥方様」
 こそりとした呼びかけと共に、肩を揺すられて目が覚めた。
 見れば、カンテラを掲げた執事だ。帰りの遅さに心配して、探しに来てくれたらしい。「お探ししましたよ」って言われた。
 騎士団の方から話が行ってるとか、そういう気遣いはなかったみてーだ。まあ、それもいつものことだから、今更どうということもねぇ。
「旦那様はどこです?」
「さあ……北門の方に行くっつってたけど、今はどうだろうな」
 呆れたような問いに応えつつ、ベンチから起き上がる。固い座面に寝込んでたせいで、体がバキバキに軋んでた。それをほぐしながら周りを見ると、空は夕焼けに染まってた。

 噴水広場の外の街に、ぽつぽつと明かりが灯りだす。今日という1日が終わる。
「騎士団のお仕事に行かれたのなら、お帰りは遅くなるでしょう。屋敷にお戻りを」
 執事に手を差し出されたけど、オレはそれを断った。
 ホントはそうした方がいいって分かってる。ガキを助けて、そんだけじゃきっと終わらねぇ。大猿の巣が見つかりゃ、大討伐になるかも知れねぇし。商隊へのガキの引き渡しだってあるだろう。
 大破した馬車とか、逃げて散らばった鶏とか、その辺の手配や差配もあるだろう。
 もしかしたら、今日は北門の詰め所に泊まり込みかも。
 今頃、屋敷の方に「帰れない」って伝言が来てるかも。けど。
「ここで待つっつったんだ」

 ぼそりと呟いて、ベンチにもたれる。
 レンが、オレの約束を覚えてるとは限らねぇ。けど、レンが迎えに来るかも知れねぇのに、勝手に家に帰れねぇ。
 簡単に約束破られることを怒ってんのに、自分が同じことできねぇ。
 執事も、オレが言いてぇこと分かったんだろうか。それ以上帰ろうとは促さず、オレに静かに一礼した。
「屋敷に知らせを送ります」
「おー」

 足早に去ってく執事を見送って、ため息を1つ落とす。
 レンは今どこだろう? まだ街の外か? 森の中は真っ暗だろうし、さすがに森からは撤収したよな? ……間に合ったよな?
 気にならねぇったらウソになるけど、ちょっと寝たくらいで再び魔力を伸ばすことはできねぇ。1日1回しか使えねぇ魔法を、今日だけ2回使えたりもしねぇ。
 宵闇の空の下、レンの無事を祈って目を伏せる。
 月は遠く、星が出るにはまだ早い。風は昼間より少し冷たくて。
 アイツの誕生日を祝った今朝のぬくもりが、遠い過去のように思えて寂しくなった。

(続く)

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