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Season企画小説
今日も宵闇の空の下・10
 騎士団本部か北門近くの詰め所か、本来なら多分、そういう機密保持できるような場所でするべきことなんだろう。
 レンへの報告自体、多分こんな公園みてーな場所でやるべきことじゃねぇんだろう。
 けど、今はそうも言ってられねぇ。オレにとってはよそのガキでも、レンにとっては守るべき対象だ。

「さらわれたガキは、何歳だ? 男か女か?」
 空間ポケットから魔石板を取り出しながら訊くと、それを見たのが初めてだったんだろう、騎士がぽかんとした顔でオレを見た。
 冷静だったのは、見慣れてるレンだ。
「うおっ、それ!」
 鋭い声を上げてオレを見て、パッとオレの側に立ち、魔石板を覗き込んでくる。
 こんな時だけど、可愛い。その可愛さにちょっと和みつつ、黒い魔石板に指を乗せる。
「ガキ探す? 猿探す?」
「こ、子供!」
 レンの応えに「おう」とうなずき、オレは静かに半眼を閉じた。

  魔力を空気に乗せ、外壁の北に意識を向ける。
 頭の中に浮かぶ街と外壁、その門の向こうに続く道に、レンのと同じ制服を着た騎士たちが駆け回ってるのが見える。
 オレが魔法で見た光景が、今オレの指先を通して魔石板にも写されてるハズだ。
 レンがオレの脇で息を詰めてそれを見てんのが分かる。更にそのレンの横から、もう1人の騎士が一緒に覗き込んでんのも分かる。けど、そんなことに意識を逸らしていられねぇ。
 騎士たちのウロつく街道をまっすぐ進むと、やがて森と岩場に挟まれたところで大破した荷馬車の残骸が現れた。
 人間のガキを最初から狙った訳じゃねぇのか、果物や野菜があっちこっちに散らばってる。
 周辺にニワトリが数羽いるから、元々はそっちを狙ったのかも知れねぇ。

「荷台、足りない、かも」
 レンの言葉に、「そうです」って横から騎士が答えた。
「荷台ごと連れ去られたそうで」
 荷台か、と意識して、視界を森の中へと広げる。高く、空から森を見下ろし、荷台とガキの気配を探る。
 探し物の魔法は、探す対象のことをちゃんと分かってる方が探しやすい。見知らぬガキより荷台の方が当然探しやすかった。
「……これか?」
 小さく呟いて、頭の隅に引っかかった荷台らしき物に意識を向ける。たちまちぐっと寄る視界。森を抜け、木々を抜け、乱暴に放られた荷台を見つけて、更に近寄る。
 鶏。鶏。壊れた荷台。鶏。その鶏を片手で捕まえて引き裂く大猿。
 ガキは、と探すと、壊れた荷台の下にいるのが見えるけど、さすがに生死までは分かんねぇ。

 ひゅっ、と息を呑むレン。
「場所は!?」
 勢いよく訊いて来る騎士。オレは視界を真下に向け、そのまま意識を上空に向けた。荷台とガキと大猿を魔石板の真ん中に映しながら、それが上からみた遠景へと変化する。
 それが「どこ」なのかは、オレより地元民の方が分かりやすいに違いねぇ。
 この近くに巣があるのかどうかまでは、まだ分かんねぇけど。探し物はガキだから、まずは確保だ。
「あり、がとう! タカヤ、君っ!」
 レンに礼を言われ、ゆっくりと集中を切る。
 魔石板には、まださっきの上空からの光景が映されてたけど、オレの意識はこっちに戻る。

 途端に襲い来る目眩。
 「あっ」と横からオレを支え、レンが近くのベンチに座らせてくれた。魔力の使い過ぎだ。けどまあ、仕方ねぇ。
「や、休んでて」
「おー、ここで待ってる」
 ベンチにずりずりと横たわりながら、レンの右手をぐっと握る。その腕には、オレが今朝贈ったミスリルの腕輪が光ってて。
 さっそく役に立つといいなと思った。

(続く)

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